なんと、お兄様……!?
「自身の修行の妨げになるというのに。この東支神殿に居たときも、ぼくを含めて九人。貧民窟から拾い上げ、見習いとして神殿に推挙して下さいました。それは中央に行ってからも続けられ、同じく何名か、神の御許に導いて頂いたのだと聞きます」
彼は嫌みでも何でもなく、本当に誇らしげにそう言った。
イーストやセントラルを名乗る、元スラムの子供達。
リオが拾い上げた彼らは軒並み出世を果たしているらしい。
普通は最低でも五年以上の修行が必要と言われる巫女職の最上位。大巫女、大導師。
そこまで、ほんの1年かそこらで上り詰めたものも居るのだと言う。
どころか、さっきの話なら。
アクシズの名字をもらった子は、修行も無しにいきなり要職に就いている。
誰でも彼でも見境無く拾って来ている訳でもないようで。
見る目はあるんだな、アイツ。
「でも、姉様は。……ご自身のことは横に置き。修行の時間もつぎ込んで、恵まれない子供達に施しと慈悲を与え、そして素養のある者を拾い上げる。それを最優先に……」
そう言えば。
以前アテネーも、自分達、半端者と関わることによって、素養だけは並以上。その、リオの出世に影響が出ることを心配してたっけ。
世話好きでお節介焼きの女の子。
リオは、巫女とかそういうことはおいても。
元からそう言うヤツなんだな、要するに。
……そういう、どうでも良いところまで里緒奈そっくりなんだが。
「エラくなるのに修行は。……居るよな、当然」
昇進試験はおちまくってる、とは自分でも言ってたし。
三年も見習いのまま。というなら普通は才能がないんだろうけど。
でもチェッカで見た限り。
出自を考えると巫女さん、やめる訳にも行かんのだろうしなぁ。
設定的な職業はともかく、神職からの転職はできなさそう。
そう思うと少し、可哀想ではある。
「そこなのです!」
――いや、どこだよ急に!
「……ユーリ様、ぼくを侍従に加えて頂けるよう、御一考頂けないでしょうか?」
「なんだよいきなり!」
「リオ姉様の資質は間違いのないところ、でもそれを引き出し、制御するための修行。これは、ユーリ様の仰る通りに絶対に必要なのです!」
そう言えば。当初、自分でも制御の出来ない出来損ないなのだ。とは言ってたな。
神を名乗る訳のわからないヤツから“巡りを良くしてやる”と言われてなお、出来たのは初級炎魔法のファイアと、魔導耐性ゼロのニケを治療したことぐらい。
見た目は可愛いが残念な巫女さん。
現状リオは、そのカテゴリから一ミリたりともはみ出してない。
さらに大精霊が、魔導のリミッターをカットしてしてくれたはずではあるが。
それが何かの役に立っているとも思えない。
「それはそうだろうけど。な、レイジ。一体、なんの話をしてるんだ?」
「せめてリオ姉様の二割でも力が巡れば、導士としてもっと皆さんの役に立てると思うのです。姉様の負担をいくらでも減らすのが僕のつとめとすれば、尚のこと!」
「レイジ……。あのさ、わかるように言ってくんないか?」
――すみません、全部とは言いませんが半分は嘘を吐きました。そう言うと、整った顔が正面に向き、澄んだ瞳が真っ直ぐに俺を見る。
なんて言うか。……うん、俺。美少年でも良いかも。
「今や、姉様は見ただけで聖気と魔導、相反する二つの力が整然と巡っているのがわかります。いったい何があったのか、僕もそれを。ユーリ様のお側で、見てみたい……!」
どうやら彼も、魔導に対する素養はかなり高いんだろうな。
そう言う意味ではリオの目利きは完璧だ。
ま、おいといて。
リオに何があったか、と言えば。
身体をシェアする神様が、
――俺にも不都合あるから、少し巡りよくしておくね?
って言っただけなんだけど。
あぁ、そう言えば精霊が面白半分に
――勿体ないから使える分の力、解放しとくね?
とも言ってたっけ。
レイジの言うのはそれが理由だと思うんだけど。
「付いてきても無駄だと思う。だって俺はなにもしてないからね。あとで亜里須にも聞いてみると良い。アイツも初めから、リオとずっと一緒だったから」
亜里須と会話が成立するかはまた別の話。ということで。
ただ、レイジはふっと顔を背ける。
なんかそういう仕草もいちいち変に刺さるんだけど。
俺。もしかするとBL的な素質があるのか?
「今のは聞かなかったことにして下さると嬉しいです。……ズルをしてはいけないと、姉様からもさんざ言われているのに。怒りもしないで諭して下さる。恥ずかしいです」
誤解されたままどんどん良い人になってるが。良いのか? これ。
「あんなことを言っておきながら、恥を承知で……! 一つだけ、お願いがあります。ユーリ様」
「連れてけ、ってのは無しだぜ? 意味も無く非道い目にあう可能性が否定出来ないし、そこにレイジを巻き込むのも違う。それと俺に様は要らない、ユーリで良い」
外国風なんだから、日本語で聞こえているけれど敬称略の方が普通だよな、きっと。
それにリオの弟分なわけだし。
……神職としては、レイジの方が位が上なんだけど。
「せめて、お……」
「ん? ……お?」
「その。お、お兄様、と呼ばせて頂いて。よろしいでしょうかっ!」
レイジ。何故このタイミングでそれを言った!?
しかも言い切ってから、ここまでで一番の笑顔でちょっと頬を染めつつ俺から目をそらす……。
まぁなんだ。……どうせ女の子にもてる予定はこの先も無いし。
だったらこの際、美少年の方が良いんじゃないか? もしかすると。





