不機嫌なモリガン
「お客人のお二方はお洗濯を致しますので、仮のお召しものを準備致しております。――従者の皆さんもお好みはありましょうが、今お召しの服はもう限界でしょうから、こちらで換えの用意を致しました。湯浴みの後お召し替えを。……この者らがご案内を致します」
俺と亜里須は学ランにセーラー服。
世界が違うとは言え制服なので、一応これは正装で通るだろう。
現実世界なら、結婚式もお葬式も。職業が高校生である以上はこの服だ。
リオの服も見た目がアレではあるモノの、神殿中の巫女さん全員が、細かい部分の違いがあるとは言え、年齢関係成しにあの服を着て歩いている。
……年齢も体型も関係無く、全員着てるんだから間違い無い。
この世界において、巫女はあの服。なのである。
一方、ウチの“従者の皆さん”に関して言えば全員。
着の身着のままで“逃げてきた”その服のまま。いわば普段着。
……ニケもモリガンも。見た目に問題があろうとも、アレが普段着なんだろうし。
アテネー辺りは仕事着、なのかもしれないが。
「従者の皆様とリオは大浴場を準備してあります。ユーリ様はこちらの者達がご案内を。……当然に、殿方ですので湯殿は別にご用意させて頂いております」
女性の巫女に対して男性は導士。
メルカさんの横に立った導士の少年が三人、こちらに向かって礼をする。
ともかくも。
俺と亜里須の従者として中央で法王、この国の王様に会うんだから。
風呂に入れと言われれば当然、そうだろうし。
着替えがあるなら、好みなんて言ってる場合じゃ無いんだろう。とは思う。
それに俺のワイシャツは、襟元や袖はもう真っ黒で着られる限界。
パンツとかTシャツは、うん。考えないことにしてどれくらい経つだろう……。
下着と言うなら亜里須だってそう。パンティの替えだけは持ってるんだから、たまに変えてるかも知れないが。ブラジャーだって下着。
チェッカが表示した物の、取捨選択の傾向から考えれば。
持ってれば、他のものはおいても最優先で表示されるはず。
こっちの替えは、チェッカで表示されなかったんだからもってないと思う。
亜里須のセーラー服の下に来ている何とか言うシャツも。似たようなもんだろう。
本人に聞くまで、そもそもセーラー服の下にシャツを着るとか、知らなかったんだけど。
そして、そう言うのも学校指定とかあるのな。女子って結構めんどくさい。
しかも学校指定のものでは無く、オシャレなシャツなのだ。
と、テキスト亜里須さんも本体も。そこだけは絶対ひかなかった。
【例え、もっさりしたコミュ障女であっても。いえ、そうだからこそ、よ!】
「……オシャレなヤツ、なの」
もちろん見たわけでも無いし、亜里須がそうだというならそうなんだろうけど。
まぁいずれ。女子としては、そこは絶対に妥協の許されない部分であるらしい。
……うん、俺にはわかんないわ。ムリムリ。
「あのぉ、ユーリ?」
「我ら全員が一時に主殿の元を離れては……」
「マイスター、私だけでも浴槽の中まで同行しようか?」
三人のうち一人だけ、言動のおかしなヤツが居るな。
「おい変態。お前と俺で一緒に風呂、入るわけに行かねぇだろうが?」
「私はマイスターの持ち物だ。一向にかまわない」
「話を聞けっ! 俺がかまうっつってんだよ!」
……本音はおいといて。表面上は、な。
立場上。そう言わざるをえんのだよ、モリガン。
でも、改めて考えたら。
衆人環視下で女の子と一緒にお風呂に入る事になるわけで。
それはそれで、あまり楽しく気もするな。
俺のことを心配してくれているようだ。というのは。まぁ、わかる。
言葉選びの方向性が相変わらずおかしいが、そこは変態だし。
でも、ここは既にもう王都の中。この上何かがあるとは思えない。
それに、まだリオが法王に任務の終了報告をしていない。
俺達が中央大神殿に到着するまでは“お役目”の最中、と言うことになる。
裏読みをすれば結構エラいうえに、人望も人気もあるらしいメルカさん。
その妹分のリオなのだ。
彼女の任務が失敗、とならない様に東教区全体が全力で俺達を守ってくれるはず。
モリガンと目が合うと、唐突に近寄ってきて耳元でささやく。
「マイスターがあの女を信頼する根拠は? アイツはどうにも信用ならない。身長だってさして変わらんし、私の方が美人で若い、しかも処女だぞ。負けるのは乳のデカさだけじゃないか」
おっぱいは、勝ち負けを云々するのもおこがましい気もするが。
……お前はなんで、メルカさんが非処女設定で喋ってるの?
しかも今、サラッと自分の方が美人だって言い切ったよな?
でも。
言葉は巫山戯てるがその目は、本気だ。
「あの女ってお前……。リオが姉と言って慕う人だぞ? 俺と亜里須は、ここまで散々リオに助けて貰って来た。俺個人はそれ以上の担保は要らないと思うんだけど……」
「マイスター、あの女の……」
なにか言いかけたモリガンの首根っこを、アテネーが掴んで俺から引き離す。
「まてモリガン、今はそこまでだ……!」
聞こえたのか。相変わらず耳の良いヤツ。





