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SSS

「キミとは一度やり合ってみたかったの。理由はそれで良いじゃ無い?」

 伝説の騎士とは言え、見た目は美人のお姉さん。中の人だって本当に女の人。

 ならば。別なことなら是非“やり合いたい”ところだが、剣の打ち合いはゴメンだ。

「いくら何でも横暴だ!」


「覚えておきなさい、少年。世の中は大概横暴なものなのよ。うふ、ふふふ……」

 ちくしょう、時間を稼ぐだけでは意味がない。どうすれば……。

 開き直って鞘を捨て、ナイフを構える。


「アレ? ……キミは基本、剣士のはずだよね? 獲物はそのナイフで良いの?」

 良いも悪いも、これしか持ってないんだっつーの!


「……ただのナイフじゃ無いかも、だぜ?」

 一応、盗賊のスキル持ち。ナイフの使い方自体は教わらなくてもわかる。 

 ただこれ、刃が付いてないんだけど。


「良いんだね? ……じゃ、遠慮なく行くから」

 すちゃ。彼女は細身で切れ味の良さそうな片刃の剣、ゲーム内呼称はサムライソード、要するに日本刀。それを正面に構えた。


 俺が負ければ、ウチのパーティは俺以外、全員拉致られるのは確定。

 刃の無いナイフ一本で、どうやって伝説の騎士に勝てと……?


「キミがいると世の中のお約束がズレるんだよね、それはまつりごとを行う立場では非常に困るのよ」

「……運営側の人間が、なんでこの世界の中枢に入り込んでんだよっ!?」



 そう、彼女は運営側のテストプレイヤー。世界を構造から作っている側なのだ。

 その彼女が直接“事件イベント”に絡んでくるとか、インチキもここに極まれり、だ。そんなのは、あり得ない。



「帰れない以上はこっちに馴染むより他無いでしょう?」

「なるほどな。灰色の世界はスッパリ捨てたってわけだ。冷たいね」



 俺にはスッパリ捨てるわけには行かない事情がある。

 なんたって現カテゴリは本当は 無職ニート じゃ無い。



 “灰色世界の救世主”なんだから。



「帰れない、って言ったの。聞こえなかった? それに帰っても廃墟しか無いんでしょ? だったら出来る事をする。一番手っ取り早くない?」


 出来る事……。まてよ?

 だったら。……獣人村の件も、この精霊の件も。

 全てはAdMEのイベントなんだとしたら……!


「……! そうか! 予定のシナリオを先取りして、なぞるだけの簡単なお仕事。そう言うことか!」

「それが……、なにか?」


「……やっぱりそうかよ、正直に言えば、あんたに凄ぇ憧れて剣士になったんだけどさ、後悔してる。――幻滅だぜ、チート以前の話だ! 俺よりひでぇよ、卑怯者っ!」

「噂通り、過ぎるくらいに頭が回るみたいだね。……やっぱり、キミにはこの場で退場して貰うわ!」




 全く前触れ無しに動き始めた剣は俺が気が付くと、もう目の前にあった。

 精霊の加護のお陰で身体と目の動きが釣り合う様にはなったが、それでも追いつけない!? 斬なんて目じゃない、なんて速さっ!

 もうかわせない、受けるしか無いが。


 全てを切り裂くと言われる伝説の騎士の剣を、レアアイテム臭いとは言え、ナイフ一本で受けられるものなのか!?


 ガッ! ギャリン! 鉄同士がぶつかり、擦れる音。衝撃がナイフを持った右手に直接伝わる。

 ……受けれた、のか?


「――なっ? なによ、それっ!」

 ナイフがいつの間に光の刀身を伸ばし、剣になってスクワルタトゥレの必殺の一撃を受け止めていた。


「チートじゃ無いぜ? 精霊から貰ったレアアイテムだ!」

 実際のところは良く知らないが、テストプレーヤーの彼女さえ知らないアイテム。珍しいことは確かだろう。はったりとしては十分だ。


「バカなっ! テスターの私が知らないSSSクラスって、なにっ!?」

「アイツに信用されてねぇんじゃねぇの? だから正式発表まで秘密。なんてさ?」

「……実装されている以上、そんな。わけ、……はっ!」


 ばっ! 彼女が全力で飛び退いて距離を取る。

 いつの間にか握りも剣になったそれを、軽く振って構えてみる。

 軽いだけではなく、きちんと刀身に心地良い重さがある。重心もピッタリ。

 見た目だけで無く、剣としての使い出も最高だ!



 とにかく亜里須を……。

 と思って振り返ると、亜里須が右手に握ったペンダントヘッド。それが光を放って大きくなり、頭に♡の飾りをつけた杖になるのが見えた。



「覚悟は決めた……。もう、裕利君の前で無様はさらさない……!」

 それ、例の魔法少女のステッキそのものじゃないか……。


「……そ、それは一体何だ!」

 それを見た騎士の一人が剣を抜刀、斬りかかる。

「そして。……覚悟を、一撃にしてしまったのは」


 亜里須が目を細めていかにも不愉快。と言う表情を作って杖を一振りする

「……あなた、よ」


 ――ズガァアアン!


 斬りかかった騎士だけで無く、彼女を囲んでいたリオとモリガン以外の全員が。

 ステッキからの電撃を受け、黒焦げになって言葉通りに後ろにぶっ飛んだ。

「……自業自得」



「え……。アリス、なのか? 今の」

「……あの、アリス、一体なにしたの?」



「あっちのワンドも、SS以上!? な、……キ、キミ、達は。一体……」

 ――ぱーんっ!

 スクワルタトゥレの呟きは何かが破裂する音でかき消される。


「一体何のつもりであるのか、わかりかねるな」

「確かに半分腐りかけではあるが、我らはそれこそ腐っても大精霊ぞ」

「本気でどうにかなるつもりだったのか、それを知りたいものだが」


 髪と瞳の色以外、ほぼ同じ顔をした少年三人が立つ周りには、さっきまで魔道士や騎士だった塵が舞い、風に吹かれて飛び散っていく。

 帝国の精鋭魔道士と最強クラス騎士、合わせて5人を。なにも残さず瞬殺!?

 大精霊、ぱねぇよ……。



「撤退、撤退だっ! 状況が変わった! 生きているものは直ちに撤退せよ!」

 走りながら叫ぶスクワルタトゥレに騎士や魔道士達が続き、次々藪の中に飛び込んでいく。


「マイスターへの謝罪も無しに逃げるだと!? 恥を知れっ!!」

 モリガンが、小指を立てて蟲を召喚しながら走り始めようとした瞬間。


 ――かーん!


 甲高い音と共に藪の向こう側に青く太い光の柱が立ち上がり、それはあっという間に細くなって消えた。

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