フラグ、立つ
所属:無所属 (未登録の第三勢力)
灰色世界の救世主:卯棟 裕利
「リオ、大規模な魔導の気配ってのは……」
「うん、今アテネーさんに直接確認してもらってる。ここから東、コンマ一リーグ行かないくらい。モリガンさんの蟲で見る限り、大きな広場みたいになってるんだけど」
「転移陣を使いやすい地形。とか言いたい?」
「うーん。……多分、としか言えないんだけれど。ね」
「確かに何も聞こえないけどさ。――お、アテネー。どうだった?」
「見てきた限りは足跡や枝の折れ方に残留魔力、そして魔導発動痕の隠蔽工作。あの場所に人が集まって、何か魔法を使ったのは間違い無いし、現状人の気配は無い。リオさんの読みは正しいのでは? ……主殿が慎重になるのも理解はするが」
――今のところ不用意に近づかんと言うのは、正解だろうな。矢筒に矢を戻しながらアテネー。
「姉御の言う通りだ、マイスター。蟲の視界も限られている、全部が見えるわけじゃ無いし、もしもバレていたなら意味がない」
モリガンも情報戦はプロ。言いたい事はわかる。――バレてやしないだろうが。
「なら、向こうは当面行かないとして。――こっちも大丈夫なんだよな? ニケ」
「あっちが風上、僕ら以外の臭いはしないね。竜人が5人、両棲人も3人、居たみたい」
ぴゅい!
【ゼロでは無いけれど残り香、とでも言ったところね。これは斬の着ていたのと同じ生地のニオイかしら】
「亜里須まで、そんなに詳細にわかんのかよ……」
事務連絡と緊急の用事は話すよりメッセージの方が早い。
亜里須は自分でもわかった上でやっているので、そこは好きにさせている。
【何故わかるのか、自分でも不思議なのだけれど】
モタモタ話すのも、それは個性のうち。だろうけれど。
状況によっては多少困ることもあるし。
いずれ。目、耳、鼻。全て帝国軍は去った。と言う結論になった。
【意外にも疑り深いのね?】
「ん? ――そりゃあな、あの部隊と接触したらひとたまりもない。……意外ってのは何だよ」
期せずして、自分以外全員女子のパーティを率いることになった以上、極力脅威を近づけないのは当然の話。
例えばそれは。最強の怪力娘や最速の暗殺者、最悪の蟲使いであっても、だ。
もちろん、ドジっ子巫女やコミュ障女もそこには含まれる。
――それが、パーティを率いるリーダーの仕事だからな。
ぴゅい!
【力や技が無くても、頼りがい。と言うのは別のベクトルだと言うことを、なにか実感した気がするわ】
「大きなお世話だ!」
嫌みくらい口で喋れ!
……あれ? いつリーダーになったんだっけ、俺。
夜の部は、体力の無いモリガンを温存するため蟲を一度引っ込めて俺と亜里須、アテネー、ニケの順で夜通しの番に当たり、その後。
朝食後に改めて蟲を近づけたところ。帝国近衛軍は撤退の準備を始めていた。
蟲が
『スクワルタトゥレ様、我ら宮廷魔道士、力及ばず。面目次第もございません』
『魔道師クラスがあと一〇人は必要って。なんなの、あの結界!』
と言う会話を拾った後、彼らは一塊になって蟲の視界から消えた。
その後、リオが大規模な魔導の気配に気が付いたので再び道を昇ることにした。
約二時間かけて、本来は昨日休憩する予定だった場所まで上がってきたところだ。
「とにかく、この先はなにも居なさそう。……かな」
「なら。行ってみようか、リオ。――モリガン、どっちだ?」
「あぁ、スマホでは見た目だけ。感覚が繋がらないんで、方向が良く分からんものな。こっちだ」
どうやら見つけたのは、会話から察するに大掛かりな結界であるようで。
ならばアテネーの言う大精霊の封印である可能性も出てくる。
特に急ぐ旅でも無い。確認してみる価値は有るだろう。
「痕跡が一番集中してるのはこの辺だが。……モリガン?」
「そう。とっかえひっかえ、人が出入りしてたのはこの辺りだ」
「ナタやら鋸もった連中がうろうろしてたが」
スマホに映し出されていた画像は、この辺で間違い無いようだ。
山を回り込む様に歩いて行く。
昨日までは道の体を成していない様な道を、アテネーがナタで切り開き、ニケが岩を蹴り飛ばして進んできた。
少なくとも、今日は道がある。帝国軍の連中が作った道が。
「なにも臭わないよ? ネー様」
「ふむ。……モリガン、風下はどうだ?」
「……見た限り、なにも居ないとは思うが」
「が?」
「なにかがどうしようもなく引っ掛かる。姉御、マイスター。異常を見つけるなら私は二人だと思う。警戒は解かないでくれ」
「アテネー?」
「……うむ。とりあえずは進むしか、あるまい」
道は山を回り込む様に続いている。
【裕利君! 正面に封印の石段!!!!!!】
「へ? ……なにっ!?」
突然目の前が開け、巨石の積み上がった見たことも無い様な遺跡のようなもの。
……いや、俺と亜里須は見たことがあるのだ。CGで、だけど。
「おぉ、聞いていたのと同じ形……。これが、高祖ロゥエルフ様の築いた大妖精の封印! エルフ族は数多おれども、訪れたのは多分私が始めてだ……」
「エルフに伝わる伝承の通りか。……これほどまでにそのままの形とは、予想外だ」
「ね、ユーリ。全くそう言う気配は無いんだけど。……これ、もし封印だとすれば単純に石をずらせば解けるタイプだよ。……多分」
リオの指さした巨石の表面。
周りの茂みが取り払われ、無数の真新しい、表面のコケが剥がれ落ちたあと。
動くどころか傷がついた気配さえ無い。
スクワルタトゥレが、最後まで封印を切ろうとしていた証拠。
これが彼らの言っていた石段で違いない!





