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捜し物の鍵 Side : Magical Empire

 ラビットビルを名乗る少年。

 彼の行動の目的がまるでわからない以上。現状は気を抜いてはいけない。


 地形を読み切り、仲間の配置と戦術、さらにはNPCを“扇動”し。

 彼の場合。実際の戦闘よりもそこに至る仕込みの方が面白い、とは興亡の時代。ゲームウォッチャー数名からの評である。


 この場も既に彼の監視下にある、と思って行動した方が良い。

 そうだとするなら。

 どうやって監視しているかだが……



「法国の魔道巫女を引き連れ、一線級の力を持つダークエルフのアサシンと獣人の戦士、さらにはザン閣下に寄れば、異界の魔道戦士までもが同行していたと……」

 セーラー服の少女も何らかの特殊スキルをもっている可能性は高い。……だが。


「そこが腑に落ちないのよ。……斬ならばその程度、一人でも難なく切り伏せることができるはずでしょ?」

 報告では、ラビットビル当人は一切動いていない。

 頭領でありながら、最前線に立つのを何より好んだ彼が。である。


 斬だって、あぁ見えて五傑(トップ5)の常連である。

 なにより仲間の損害を嫌がる彼であれば、自分では動かない。と言う判断をするには強すぎる。



「どうやら、従者のダークエルフと獣人。この二人がかなり能力の高いインコンプリーツであった様で」


 ――ちょっと待て。なに? その話!


「そこ、聞いてないわ! ダークエルフのインコンプリーツぅ!? やっぱり三つめの村は当たりで、そこで取り逃がしたんじゃない! あの無能の脳筋っ!」


「ど、どう言うことでしょう? ザン閣下は結果的に五つの村でかなり良質な奴隷、八十余名を手に入れて戻られました。作戦自体は成功なのでは?」


「襲う様に指示した村は全部で五つ。そのうち二つが当たりだったと言うことなのよっ! わかる!?」

「は?」



 AdME2ロゥンチ時のあまりシリアスで無い、ファンサービスイベントになるはずだった『イベント8―S-12 仮)四人の乙女は嘆く[法国編]』。

 そのイベントキャラの初期配置を早期にさらって、異様に能力の高いインコンプリーツを手に入れ、現状に馴染む前に洗脳する。


 作戦自体はやはり当たっていた、そして生真面目な斬のこと。脳筋ではあろうが、いや腕が立つ上、考える頭が無いバカだからこそ。

 作戦遂行には相応しかったはずだ。



 しかし実際には、ダークエルフを取り逃がし、更に獣人と組まれてしまった。

 そうなれば、敵は能力が異常に高いイベントキャラ二人。


 いくら斬が特異点てんいしゃとは言え戦闘力その他。どう考えても分が悪い。

 その上。魔導巫女にスキルのわからない女、更にはラビットビルまで居た、とあっては。

 いかな斬でも逃げるより他に道は無い。考えればその部分は評価しても良い。


 むしろ、――脳筋のくせに良く逃げる決断をした。

 と正面から褒めてやっても良いくらいだ。



 技量が高く、国民からのウケも良い斬。

 為政者の立場とすれば、これを今失うのは得策とは言えない。

 


「もしや、トゥレ様。インコンプリーツがいる村が初めから……」

「はぁ……、当たり前。確かに奴隷も足らないし質の問題もあるけれど、たかが八〇人程度にわざわざリスクを背負ってまで、大規模魔方陣など使わせるわけが無いでしょ。コストがあわない、大赤字だわ」



 現在稼働出来る宮廷魔道士はクラスを問わず通常の2割を切っている。完全に通常どおりのシフトに戻るには、実に二ヶ月を要する計算だ。

 このタイミングで国境線の何処かで大規模戦闘が勃発すれば、それは戦う前から負け戦。国境線が後退することを意味する。


 法国は農繁期は大規模戦闘は避ける。と言うパラメーターを見越しての作戦。

 もしも第三勢力にバレたら大変なことになる。

 今のランドに、帝国に正面切ってケンカを売るほどの勢力を持つ第三勢力が居れば、の話ではあるが。


 腐っても二大国家の内の一つである。魔法無しでも、敵が五〇〇や一,〇〇〇であれば魔道士どころか騎士さえ出さず、軍の下級兵士だけでも十分に押し返せる。

 確かにシナリオに無いおかしな国が一つあるが、国民は総数でも一〇,〇〇〇前後。手を出してくるなら踏み潰すのは簡単なこと。


 怖いのは、その気に乗じて“設定”を無視し、法国が侵攻してくることである。



「しかし、策はきちんと打ったはずなのに。なんで取り逃がしたんだろ……」


 イベントキャラ二人が組んだ上に、この時点で斬を敵と認識してしまったのであれば、ある程度キャラが立って、能力もある程度は覚醒したはず。

 捕獲も洗脳もかなり困難になっただろう。

 普通に考えれば諦めるしか無い。


 問題は、なぜ村の情報は正確だったのに、ダークエルフの村でインコンプリーツを取り逃がしたのか、だ。



 斬の中の人は、体育系大学でなぜか経済を学ぶ三年生。

 有り体に言って頭は悪いが、脳筋であるが故サボったりはしない。

 任務には忠実に当たっているはず。


 事実、獣人村では捕獲寸前までは問題がなかった。

 能力を封印され、拘束状態になっている、その初期設定は守られていた。



「それに確率2/5なら、ほぼわかっているも同然。でしょ?」

 予定では五つの村のうち三つが当たりだったはずだが、もう一人のキャラクターが一体どんな力を持つのかは知らない。

 世界大崩壊イベント開始直前に、初期配置を換えた可能性もある。


 その辺はあまり深く考えても仕方が無い。

 私は運営側に居るのであって、運営そのものでは無いのだから。



 ちなみに本来、イベント用のキャラは四人居るのだが、最後の一人の初期配置は法国最深部、中央大神殿のさらに地下。

 AdME2へ移行してくれた法国所属者と、旧作ファンの取り込み用。


 そう言うサービスの意味合いもある以上。

 興亡のコミカライズ版で人気のキャラを登場させるためには、仕方の無い部分もあったらしい。

 今の私からすれば、そんな設定は迷惑以外の何者でも無いのだが。


 彼女に関しては、場所がわかっていても。

 いやわかっているからこそ手の出しようがない上、始めからキャラが立っているので、洗脳もほぼ不可能であろうことは容易に想定出来た。

 だから初めからそもそも数に入っていない。


 さらにもう一つ。イベントの名前に[法国編]とある以上、[帝国編]もあってよさそうなものだが。

 帝国編は企画書段階で、ほぼキャラデザインすら上がっていなかったはず。


 そういう意味では一人だけ。キャラデザインが検討に入ったキャラが居たはずなのだが、これもまだイベントさえ作っていなかったはず。

 つまり、自国に居ない以上は法国よそから頂いてくるより他、ないのである。



「なぜこうもしくじるんだろう。こちらには神の加護があると言うのに……」

 神、すなわち運営の構築したシナリオのプロット。

 これは私が居る以上は、我が魔導帝国側にあるのだ。


 ならば歯車の狂った原因は。

「まさか、ラビットビルの存在が……」  


 最初から一貫して法国側に所属し、AdMEからチーターとなって以降は無所属となったが。

 それでも基本的には法国側について、動いていた彼である。


 直接何かを仕掛けてきたのかも知れないし、彼の存在が世界の成り立ちを歪めてしまっている可能性もある。

 いずれチーターが絡んできている。

 AdME2イベント先取り系の作戦は、インコンプリーツの件のみならず。一時中止した方が良い。


 ゲームのシステムにまで食い込んで、仕掛けをしているのなら。

 一つ間違えば私自身の存在自体が揺らぎかねない。


 それは非常に不味い。

 何かがあれば、私の存在くらいはあっさり消し飛ぶ恐れだって出てくる。と言うことだから。

 強引に法国領内に滞在している今の現状だって、そう言う意味ではあまり良くない。



「三神将、スクワルタトゥレ様に申し上げます!」

「トゥレ様はお忙しいのだ! なに用か!」

「は! これはご無礼を。……副長閣下。スクワルタトゥレ様より探す様、御指示頂いた地形とほぼ同じ場所。それを見つけたのでありますが……」


「え? ちょっと待った、副長。――見つけたのね!? ……それで?」

「その、見つけたのではありますが、魔道士どもは揃って魔力反応が無い、封印の気配も無い。と、そう言うのであります!」


「石積みはずらしてみた?」

「大きさとしてはお話どおりで、二人で持ち上がりそうでしたが、一〇人がかりで梃子てこをかけてもピクリとも動きません!」 


「魔道師どもは何をしているか!」

「一体何処に魔力を集中したものか皆目見当も付かないと……」

「なにが宮廷魔道士だ! だいたいヤツらは普段から……」


「まぁまぁ、副長。――ふむ、カギがかかっている。……か」

 ならば“カギを持っている”ヤツに開けてもらえば良い。

 ――例えば、ラビットビルに。


「わたしと副長もすぐに行きます、先ずは現場の確保を」

「人を回して木を倒して草を刈れ!」

「ははっ!」


 ラビットビル。どう言う形でどこまでイベントをねじ曲げたのか、この目で確認してあげる。

 そして。状況を見て、だけれど。

 ……そうそうに首を跳ねてしまわないと不味いのかも知れない。



 彼とは一度ゆっくり、現運営。と言うかあのクリエーターに対する考え。

 なんてものを、話し合ってみたかったのだけれど。

 多分だけど、その辺は意外に気が合うと思うんだよね。

 そこについては、私は敵じゃ無い。



「……トゥレ様、如何しましたか?」

「ん? ……気にしなくて良いよ。――それより副長、魔道師長を呼んで」

「は!」

「それと物見ていさつに出したいんだ。ちょっとめんどくさいこと頼みたいから、器用で身の軽いのを二人くらい見繕ってくれる?」


 でも面白半分で世界に干渉されては困るから、状況を見て必要なら首は貰う。

 だって、こちらも命がかかっているのだから。


「は、直ちに! ――おい、そこのお前! ちょっと来い!!」

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