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フェイマスプレイヤー

「ね、ユーリ。運営、ってなに?」

「えーとな、リオ。……神に見込まれて神の騎士になり、その後俗世へは神の命令以外では手出しを禁じられた。――みたいな感じかな?」

「神の騎士として召されるほどなのっ!?」


「……はぇ?」

 亜里須が小首をかしげる。なぜそこでリオが驚くのか、まぁ不思議がるわな。

 説明してなかった、そう言えば。


「フェリシニア法国では勿論だが、この世界は基本的にはランド全体がフェリシニア信教を信仰している」


「まぁそうだけど。……どうしたのユーリ、急に」

「……ぇ? そう、なの?」

「なるほど、アリス殿か……」


 ――回復魔法である聖魔法の設定上、そうなっているだけであるらしいんだが。

 但し、ゲームを離れてその世界観だけ取り出すと、何かいびつにも見えるな。


 その神の加護を独り占めするのが法国、と言うことだ。

 設定的には帝国が正義、法国は悪役。と言う立ち位置になる。



 その辺はおいといて。

 だからバトルの職業的役割の回復役として。

 帝国にもフェリシニア信教の巫女や導師、神官はいるのである。


 白い上着? は替わらないが中に着ている服の色が鮮やかな紫から青になり、政治的な仕事は基本的にしない。

 という程度には、法国の神職とは違いがある。




 基本的に位やレベルの低い巫女(男なら導師、ということになるが)はもちろん神官など神職全般、戦闘ではあまり前線には出ない。

 そして双方、NPCは積極的には神職を狙うこともしない。

 プレイヤー側とすればあまり関係はないが、――神に仕えているから。

 と言うのは理由として大きい。


 この辺は世界観としての話なのであって、実際には攻撃のスキルを持つものも多いので、気にしていては戦闘に成らないのも事実。


 例えば、癒やしの力を持ちながら槍を振りかざして炎魔法を使うリオ。確かに力は安定しないが、敵に回ったらかなり厄介な相手になる。

 回復役をいの一番で狙うのは常道手段、野放しにする訳が無い。

 ――と、この辺もおいといて。


 あの獣人村のダイノロイドも、戦闘に出る予定では無かったのだろう。

 彼は結果的にアテネーが打ち倒したがアレも流れ弾。

 アテネーも敬虔な信教徒、意図して狙ったりはしていないはず。




 また、設定上。神職としてはランド全域、何処に行っても変わりは無いので、敵であっても状況が揃えば弔いもする。

 これは設定資料集にあったんだけど、先日リオが獣人村でやっていたのがまさにそれ。初めて見た。


 そして神職は数の少ない貴重なカテゴリである。 

 先日もマニアに売る、と言葉では言ったが。リオが動けないのを確認できた時点で、攻撃しない様、即座に指示を変更している。


 ゲーム内と同じく、神職は貴重だから説得して自軍で使うつもりだったんだろう。

 拘束して、後方で怪我人の治療に当たらせるだけなら洗脳の必要さえ無いし、その上。

 リオは“生きている”人間であり、神に仕える巫女なのである。

 職業カテゴリ的に怪我人をみて見ぬ振りはできないだろう。

 と言うところまでは、容易に想像が付く。



 ちなみにリオの様な黒いケープを纏った魔導巫女や、ケープは白だがレイピアをげ、神の紋章の付いた胸当てをつけた騎士巫女などと呼ばれるもの達。

 その本来の仕事は、戦闘では無く身内の不始末の処理。と言うのが設定。

 当然。帝国側にも法国とは色違いだが、同じ立場にある神職はいる


 だからこそニケと初めて会った時、彼女はリオが不浄な半端者インコンプリーツである自身の存在、それを消しに来たのだ。

 と、とっさに思ったのである。



 以上、設定説明終わり。

 と、まぁ。リオにスクワルタトゥレの説明をしつつ。

 亜里須ほどのスピードでは無いにしろ、SNSで設定を流しては見たものの。

 亜里須に伝わるかな、こんな意味も無く複雑な話。




「ゆうりくん、……説明、上手。わかりやすいうえ、りおちゃんも誤魔化せた」

「いや、齟齬そごはあるぞ、すごくある」

 帝国高級騎士の衣装を着たスクワルタトゥレが神の騎士。と言う事に成ると。

 法国にそのような立場のものが居ないとなれば。

 神の意志に背く滅ぼすべき国になってしまう。


「だいたい。運営が神だったら、それに逆らってた俺はどうなっちゃうんだよ?」

「神の、敵? ……悪魔的、な何か。とか?」

「マジでやめろ!」

 俺のポジションは正義の味方だっつーの!


 ただ、それを聞いたアテネーが、ふと真面目な顔になって俺と目を合わす。

「主殿がリオさんと敵対した場合、私はどちらに付くのが正しいのだろう……」

「冗談じゃ無い、リオと対立するわけ無いだろ! あくまで例えだ、例え!」

「……ぁくま、で。なんて。ふふ……」

 ――お前もコミュ障のくせに人の揚げ足取るな!



「まぁ神様のことは例え話なんだとしても、――ユーリ。あのスクワルタトゥレって言う人は。……強いんだね?」

「アテネー、ニケ、モリガンの三人が自分の得意技で一斉に不意を突いたとしても。多分瞬殺されるぞ、相打ちにさえならない……。一太刀も入らず、終わりだ」


 その上、周りを一騎当千の近衛騎士と宮廷魔道士で固めている。

 ウチの三人娘並みの攻撃力や特種なスキルを持つものが、各々10人単位で居る。と言うことだ。

「この間のザンより間違い無く上だ。そこは保証する」



「うん、わかった。――アテネーさん、モリガンさんの蟲がギリギリ届くところまで下がろう」

「ならばさっき水を汲んだ泉まで降りようか。しかし、ここからではたいした距離でも無いが」 


「姉御、あそこだったら糸も十分届く。それに連中は見る限り、あの場所より下には興味がなさそうだ。大丈夫じゃ無いか?」

「モリガン、本当に大丈夫なんだな? ……ではリオさん、急ぎ移動の準備を」


 確かに宮廷魔道士達はあそこで何かを探している様に見えるが。

 帝国の重鎮が精鋭を引き連れ、法国領の奥深くまで入り込んで。一体何をしているんだろう。



「モリィやネー様でさえ勝てないんだったら、ぶつからないのが一番良いよ。……居なくなるまで前に進めないし、だったら夜明かしもできた方が良いし……」

 ニケはニケでこの辺の見切りは、すがすがしい程に良い。


「それにあそこなら僕もネー様も迎撃しやすいし、モリィも罠が張りやすい。僕もあそこで良いと思う」

 こう言う部分は、きちんと戦闘のスキル持ちであることを伺わせる。


「ニケの言う通りだ。どうせ長くは居ないだろうしな」

 ――長く滞在するのは無理がある。とは、スクワルタトゥレ本人が自分で言っていたことだ。


「それとモリガン。画質が下がっても良いし、小さな音が聞こえなくなっても良い、今すぐ蟲は位置を下げろ。帝国はこちらにおまえ(むしつかい)がいるとは認識してない」

 ラビットビルを名乗った不審な男は、獣人とダークエルフのインコンプリーツをを引き連れて行動しているが、蟲使いがパーティにいる。とは気が付いてないはずだ。


「お前の存在は“ウチ”のアドバンテージだからな」

 俺自身は必要以上に目立ってしまった。

 ついノリと勢いで名乗っては見たものの、状況は悪化しただけ。

 ……名乗るんじゃ無かった。


「それに使役する蟲(スレイブ・バグ)がやられると、お前もダメージ喰らうんだろ? お前はパーティ(ウチ)の目だ。それは困る、……いやそれ以前に」

 彼女が目玉蟲、と呼ぶそれはかなり高位の蟲であったはず。

 ならば、それがやられたときのダメージもかなり大きいはずだ。


 蟲の繋がった左手の子指を立てたまま。モリガンと目が合う。

「仲間がケガをするのを見過ごすのは、それは無し。……だろ?」



【警告:通信レートが悪化しました】

【確認:デバイスとの接続レート現在2。切り離しを推奨します】

【通知:デバイスの接続は維持されますが、いつでも手動で切断できます】

【確認:動画再生を継続しますか? [はい]・[いいえ]】

【警告:10秒以内にいいえが選択されない場合、動画再生を継続します】



 モリガンはきょとんとした顔で俺をしばらく見つめて。

 それから大分間が開いたあとで、唐突に瞳に意思が籠もる。


「ユーリ……。お前のために必要だと言うならばその時は。躊躇ちゅうちょ無く、百万匹の蟲を殺して私も死のう」

「は……? あの、さ。モリガン?」



【……3……2……1……0 自動でレートを変更し動画再生を維持します】

【通知:レートを変更し、動画再生を維持します。いつでも手動で変更できます】



「私の処女はユーリのものと先日から決まっているが、それ以外でも子宮に肝に心臓。入り用だというなら首だって。お前が望むなら、その場でもぎ取って差し出そう。いずれ私にはその程度しか出来ない」


 いや、処女以外は差し出されても困るというか。

 いやいや、処女だって真顔で差し出されたら。実際は多分、困るし。


「いったい何の話だ、――お前、急に真顔でだな……」

「お前をマイスターと呼ぶことを認めて欲しい、ユーリ。蟲使いからそう呼ばれるのは不快かも知れないが。……だが姉御も主殿と呼んでいるのだから、その程度に思ってくれればそれで良いのだ。――構わないだろ?」



 実はモリガンに限らずテイマー系の職業のものは不遜な人物が多い

 その彼らが敬意を表して、相手をマイスターと呼ぶ場合。

 相手は師匠か、それに準ずるような尊敬する人物。

 師匠でさえおいそれと、そうは呼ばない彼らで有る。


 そして一度でもそう呼んだら。設定上は相手が死ぬまで一生変わらない、とされる。



「だいぶ意味が違う! 蟲使いが軽く使って良い言葉じゃ無いだろ!」

「軽く使ったつもりは無い。この話はこれまでだ。――姉御。移動するとなると、蟲に意識を半分取られてるから足元がヤバい、おんぶしてくれとは言わない、手を引いてくれ」


 蟲がスクワルタトゥレから少し距離をとったので、張った声以外は聞き取れなくなったが、スマホへの実況中継はやめないモリガンである。


「ニケさんはアリス殿を抱えてくれ。緊急避難だから従ってくれるな? アリス殿。――モリガン、私を姉御と呼ぶのをやめればおぶって移動してやろう。……だから普通に名前で呼べ!」

「だが断る!」

 姉御、と呼ばれるのはアテネーも気に入ってるわけでは無かったらしい。


 ……俺がおんぶしてやっても良いから。だから俺のことも普通に名前で呼べよ、ホント。



【通知:『デバイス名・蟲の見た目』接続状況が2からSになりました】

【通知:動画クオリティをBからFullに自動変更しました】

【通知:音声出力をステレオからスーパークリアに変更します】

【通知:現在の動画クオリティがFullに再設定されました >設定手動変更●】

本年分の投稿はこれで終了とします。

次回は年明け第二土曜日。

第一章終了までは週二回投稿を継続予定です。

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