個性的なパーティ
――どぉおおん! 爆発音の様な音のあと。
……ガララ、ガスっ、ゴスっ!今度は明らかな崖崩れの音。
「ユーリぃ! 道、あけたよ!?」
「おぉ、毎度助かるよ」
今のは山の道を塞いだ、どう見ても直径5mはある落石。
それを軽々とニケが谷底に蹴り飛ばした、と言う音である。
どう見ても、重さを表す単位はtだろ、あの岩。しかも数字だって絶対2とか3では無い。
……サンダル履きで軽々と蹴り飛ばしてるんだけど。
「ニケさん、私が先を見よう。アリス殿に手を貸してやってくれ」
「はぁい」
アテネーが、残ったがれきを乗り越え周りを見渡して。大きく手を上げる。
みんなが一人ずつ、道の上を塞ぐ小石や土塊の小山を乗り越えていく。
列の最前衛にアテネー、次いでニケ、リオに続き俺、亜里須。そして最後尾にモリガン。
ここ二週間ちょっとで固定化し、さして高くないとは言え山を三つ。超えてきた隊列である。
俺と亜里須が、この世界へとやってきてまもなく三週間。
「アテネーの姉御ぉ。――おーい、侍従長様ぁ。ちょっと休憩にしよーぜぇ」
「またか、モリガン……。お前は休んでばかりでは無いか!」
「そもそも体力がないんだ。――姉御やニケちゃんと同じペースでなんか歩けるかあっ!」
体力弱体化をステイタスに持つ彼女であるが、俺や亜里須よりはよほど頑丈に見えるんだが。
「インコンプリーツの癖にだらしがないぞ!」
「不眠不休で行軍する蜘蛛って聞いた事あるか? 私はそもそも、そのインコンプリーツであるせいで持久力がないんだ、何回も言ってるだろっ!」
三人とも、実はやたらに素早くはあるんだけれど。
ニケは単純に異常なパワーで、アテネーは瞬発力でそれを実現している。
一方のモリガン。元々言う通りに体力、無さそうではあるけどさ。
でも、半分は蜘蛛女だから身体能力的に普通の女の子。とも言いがたい。
実際、初めて会った時だって手加減無し、本気で首を取りに行った高レベル暗殺者アテネーの一撃。それを見切ってかわしてみせている。
スキルに瞬間ブーストがあるとは言え、剣を見切る目と狂い無く身体を動かす体術。両方揃わないとあの剣はかわせない。
俊敏さはマイナスボーナスでマイナス補正がかかり、さらには体力まで切り下げられてはいるが。
一方たまに。一人で起きてる夜中には、木の枝から見えない糸一本で逆さにぶら下がっている時もあって。
初めて見たときは心臓が止まるかと思ったけれど。
見てくれはさておき。アレはかなり鍛えていないと、バランスさえ取れないはず。
実は。夜中に一人で見張りしてるときは、黙々と筋トレしてるんだよな。アイツ。
だから多分、普通の女の子よりは身体能力が高いけれど戦士になれる程では無い。くらいのものなんだろう。
それがインコンプリーツの蟲使い、モリガンである。
振り向けば確かにモリガンは赤い顔をして、はぁはぁ肩で息をしてるけど。アテネーにくってかかれるくらいなんだから、体力的には余裕があるんだろう。
但しその隣。亜里須はすっかり土気色の顔になって下を向いていた。
亜里須はパーティのお荷物に成ることを気にしている上、薄々気が付いては居たが意地っ張りで意固地、頑固者なのである。あの見た目の癖に、だ。
だから絶対に自分の口から、疲れた。とは言わない。
そう口にすれば。
いまやすっかり荷物が減ったニケが、なにも言わずに体ごと運んでくれるだろうけど、亜里須がそれを良しとしない性格なのは、一緒に居て良く分かった。
彼女の通学鞄は(俺のも、だが)既にニケが持っているので、手に持つのは身の回り品の入った、例の白い手提げのみ。
だがその通学鞄だって、素直に渡したわけじゃ無い。
そしてその性格はモリガンも既に理解しているはず。
だからこれは、亜里須の不調に気が付いたモリガンなりの気遣い、と言うことだ。
でもそれは、アテネーとケンカしないとできないことか?
……全く。
「アテネー。モリガンの言う通り、一度休もうぜ。今日は朝から坂もキツかったし、俺もそろそろ足が限界だ」
俺は本来、こう言う助け船を出したりするような柄じゃ無いんだが。
「……? うん、そうだね。ユーリに賛成。良いんじゃ無いかな? 午後一番には頂上超えられそうだし。昨日、今日と。もう予定より半日以上速いでしょ? アテネーさん」
少なくともリオは気が付いたな。お前がそう言えばアテネーも折れるだろう。
毎度のことながら、色々助かるよ。
「主殿、リオさんまで。ならばここで一時小休止にしよう。――モリガン?」
「へいへい、アテネーの姉御はお優しいこって。……人使い、荒すぎじゃね?」
目に見えない細い糸をつけた蟲が1匹、――蟲を飛ばすんだって体力、居るんだぞ! と、尚もアテネーに毒づいているモリガンの立てた左の子指、そこから飛び立っていく。
「人なら、な。アラクネーなら問題あるまい」
「差別だっ!」
「区別だ」
へたり込んだ亜里須の横、モリガンが革袋を持って寄りそう。
「アリス、水だ。飲め。……あと、少しで良いから横になった方が良い。山の上だというのに、今日はなんだか暑いからな」
コートの前を開けるのは見た目上禁止している。モリガンもかなり暑いだろう。
行進にストップをかけたのは、やはりモリガンなりの気遣いであったらしい。
意外にも、モリガンはパーティ全体に気を使うし、空気も結構読めるヤツなのだ。
変態だが。
「……あ~。リオさん。少し早いが、……昼に、しましょうか。――わかりました。主殿もそれで良いな?」
アテネーも亜里須がへたばっていることにようやく気が付いたようだ。
この辺、イメージ的には逆だよ、この二人。
「おっ、いいねぇ。俺、もう腹減ったよ」
「ではニケさん、準備をしよう」
とは言え、火は使わない。
お昼はお弁当。昼の内に歩く距離を稼ぐため自然とそうなった。
ニケの鼻、アテネーの狩りの腕、そして食材鑑別はモリガン。
――ただ作るだけで良いから楽になったよ。そう言って笑うリオが、朝食と共にお昼ご飯も一緒に作る。
殺伐としたゲーム世界であるはずなのに。あんまり危機感を感じない。
なんならキャンプでもしている様な感じでさえある。
俺と亜里須の職業にある救世の文字は、これは。
この世界には要らないんじゃないのか?





