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蟲使いの戦い

「ミイラにしてやるから!」

「その前にお前が焼死体だ」


 モリガンが呟くと、これに呼応して二の腕より長い、細長い蟲が三匹、虚空から飛来する。

 なんか見たことあるような……。デカいけどカミキリムシだ、あれ!

 でも、何回かここなこさんの近所を飛ぶとそのままいなくなる。


「で。……結局、なにもしないの? 蟲使いさん」

「蟲の仕事はもう終わったから帰した。それだけだ。……呼んだのは、人の街の近所に住み、家も樹木も切り裂く指定害蟲”神切り蟲”。蟲自体に特に害は無いうえ、人を恐れる性質なので可愛そうなヤツらなんだが」


 動かずにそういうモリガンの鼻から、ぼたぼたと赤い液体ががしたたり始め、真っ赤になった左目を閉じると涙の代わりに血が流れ始める。

 あのデカいカミキリムシを呼んだのは、完全に過負荷オーバーロードだったらしい。


「蟲の説明は良い! ――まって。今、あんた終わった。って……」


「あ? あぁ。普通に見えて、遮光カーテンの生地の下に、火伏せのマントに使う生地を二重にしたうえで、鉄の糸を編み込んだやたら頑丈な上着に、綿とウールの分厚いチュニック。吸血鬼の莫迦力で無ければこんな重い服は着られないが。……まぁ太陽対策としてはこんなものか。考え様によっては防刃素材、と言えなくもないが」


「なんでそこまで知って……、」


「さっきも言ったが、蟲が見て、嗅いで、触った全ては私にも共有される。麦の粒より小さい蟲も居る、ということだ」

「……まさかっ!」

「ここまで言えば、神切り蟲に何を(・・)切らせたか。なんて説明は要らんだろ? 防刃素材なんかそもそも無効なのだし」


 モリガンがそう言い終わった直後。

 マントの様に見える、長いパーカーみたいな服の上着と、その下のワンピース風に着ていた分厚いチュニックがバラバラになって地面に落ち、銀色に輝く髪と、意外と細い青白い肌があらわになる。

 こうなるともう下着姿。ではあるんだけれど、さすがにエロさを感じるような余裕が俺にもない。


「当然さっきまでの時点で、服としての構造と機能は把握した上でほぼ分解してあった。神切り蟲は、単に物理的にバラバラにしただけだ」


「半端に服のなかに潜り込んで噛みつきもしない、毒も吐かないと思ってたら。そういう……」

「どのみちこうなった以上。早く私から精気を吸い取らないと再生がかからない、全身大やけどだろうが. 良いのか?」


「もちろん良いわけないでしょ! 悪いけど事情が変わった、少しキツく行くわよ? エナジードレインっ!!」


 そう言ったここなこさんだが,なにも起こらない。

 

「早く吸えというのに」 

「ちょ、なんで? え? えぇ? なんで発動しないの!? どうして……!!」


 どこからどう見てもピンチのモリガンは落ち着き払っていて。

 圧倒的優位のはずのここなこさんは完全に余裕を無くしていた。


「ふふ……。簡単に説明しよう。私は蜘蛛女アラクネーの血を引くインコンプリーツでな。それ故何本か糸が出せる。そしておまえの能力、エナジードレインは……」

  

 ここで始めて、ややうつむき加減だったモリガンが顔を少し上げ、開いている右目で後ろを見る。


「……衣服等は無視できるとしても、”直接接触”しなければ発動しない。そうだな?」

「動かないと思ったら、……糸なの!?」

「蜘蛛には自分の糸で、細長い袋状の巣を作るものが居る。アラクネーの血を引く私が、透明な糸で自分の体より五ミリだけ大きい”巣”を作ったところで、驚く事ではあるまい」

 

 日光に照らされた白い肌が徐々にピンクに染まり。

 輝く白銀ストレートの髪も、少しずつウェーブがかかり始め、色が茶色く変わり始める。


「言葉で煽りまくって怒らせたとしても。吸血鬼の眼と嗅覚、これをどう誤魔化すかが問題だったが」

「本当に糸でコーティングされてる!? ニオイがホントに蜘蛛の糸だ!!」

「ここまでアタマに血が上りやすいなら、もっと簡単な手はいくらでもあったというのに。まったく、無駄に手をかけさせる」 

「な……、だ、だ、黙りなさい!っ」

 

 ピンクになった肌が徐々に真っ赤に、そして一部は軽い火傷のようになって湯気が上がり始め。

 髪の毛全体も完全にきつめのウェーブがかかって、一部焦茶色になりつつある。


「あー、私が言うのもなんだが早くドレインなり降参なりしないと……」

「うるさい……! こんな糸、引きちぎってやる!!」

 

 すごい勢いで両手がモリガンの身体の上を滑っては空振りして、徐々に指が赤くなる。

 モリガンに言われた直後から糸は見えてるみたいだけど。

 あの糸。同じく最強生物の一角であるドラゴンの一種、ワイバーンさえ巻きにして地面に叩き落とす糸だからなぁ。

 いくらここなこさんでも簡単に引きちぎる、というのは難しいのかも。


「あ、あぁあ、こんな……」


 空振りするたびにココナコさんの指の赤みは増し、指の先や肘から上がる湯気の量も増える。  

 でも、……いくら日光に弱いとは言え。ここまで劇的に効くもんか?


 そうか、さっき蟲がたかってた時点でもう、服の”日焼止め”機能は半分以上無くなってしまっていて。さらには顔や腕、足の”日焼止めクリーム”も全て、蟲に剥がされてしまったんだろう。

 だからモリガンに覆い被さる前には既に日焼けが始まってたんだ。


 あくまで見た目としては服が無くなったのはたった今、なんだけど。

 

 

「もう無理です、ここまでっ! ――ココナコを戦闘続行不能とみなし、失格とします!」


「救護班、タオルと幕、……ただ居る連中も樽で水を準備しろっ、大量に要るぞっ!」

「……負け、た?」


「この決闘の勝者をモリガン・メリエとし、これにて終結としますっ!」

「異議無し。立会人二人の意見一致により、決闘の勝者はモリガン・メリエ!」


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