三つの啓示
「……精霊」
唐突に単語を呟くのはそれは亜里須だから。
要するに会話の始め方がわからない、と言う事なんだろうな。
それに反応出来る俺が隣に居ることも大きい。――大きいんじゃ無いかな? 大きいと良いな。
多少で良いからその辺、気にしてくれてると嬉しいんだけど……。
「ん? 私が精霊? ……まぁそう遠くない気もするが、でも自分で言うのは、それはちょっと違うんではないか、とか」
まぁただ、アリスの話を聞いた上で返す。というなら、さっきからはモリガンも居るわけで。
但し、今回は当たり前だがモリガンには意味が通らない。
だいたい、変態の精霊では世の理に悪影響を及ぼしそうだ。
「……もりちゃん、違くて。――ゆうり、くん?」
「まぁ、そう言われてもな……。イベントの発生条件自体が謎だ。一の試練だってたまたまそう見えてる。なんて可能性も、あるだろ?」
「……あぅ」
「なんの話だ? イベント、とは?」
おんなじゲームの作者が……、ってそのゲーム世界の住人に、そんな話が通じるわけも無く。
「イベントってのは。うーん、なんだろう。……預言の様なものだと思ってくれ。俺と亜里須はこの世界に来たら、3つの特殊な事件に遭遇する。……かもしれない。と、過去に啓示を受けているのだ。と言う感じかな」
「ユーリにしては、もって回った言い回しだな」
俺はモリガンから見ると単刀直入な話し方であるらしい。
自分としては。結構面倒くさいオタク全開な話し方をしてる気がしてたので、そこは意外だな。
「で、具体的には?」
「その中に獣人とエルフを助ける、と言うのがあった。――で、先日。村を潰されたニケとアテネーを連れて王都に向かうことになった。啓示その一は、結果的に成就した。……のではないか、って」
亜里須が試練に拘り始めたきっかけでもある。
「もうひとつわからんな。……ユーリ、精霊はどうした?」
「それはイベントの二だ。俺達がその精霊から加護をもらう。……かも知れない、とかな」
「だがなユーリ。加護をもらう以前に精霊だ。話には聞くが、私でさえ見たことが無いぞ?」
「だよな」
「あのダークエルフ、……アテネーか。アイツなら無駄に物知りっぽいから、なにか知ってるかも知れん。明日にでも聞いてみよう」
――ケンカになる様な話し方しかできないのか、お前は!
でも言われてみれば。確かに試練の話は、俺と亜里須でしかしたことが無かったな。
メイドから魔法まで豊富な知識量を誇るアテネーに、見習いとは言え神に仕える巫女、リオまで居るのだ。聞いてみても損はないだろう。
「もりちゃん、アっちゃんと、ケンカ。……ダメ、だよ?」
「わきまえてる。アイツが侍従長、私はその配下だ」
「むしろそのわきまえ方が、かえって怒らせるんじゃ無いかと思うが」
「……バレたか」
「わざと怒らすな……」
そして亜里須はモリガンしか知らないから、そんな事を言われてもピンとこないだろうが。
ある程度のレベルの使役士は、そのまま賢者に転職できるほどに。異常なまでの知識量が必要な職業である。
この世界ではテイマーは博学、物知りなのであり、そこはモリガンも変わるまい。
「冗談はおいてもだ、アリス。私は、世の理やら伝承、言い伝え。なんてものにはそこそこ詳しいんだ。明日の昼にでもゆっくり話し合ってみよう」
「そう言うテンションで頼むぞ? 二人共大事な俺達の仲間だ」
――大事、仲間。そう呟いてモリガンはちょっと俯く。
「……で、その三もあるのだろ? なんだ」
モリガンは、気持ちを切り替える様にぱっと顔を上げると、テンション高めに切り込んできた。
仲間、と言われたことに照れたらしい。
変態のくせに照れ隠しか。可愛いトコ、あるじゃ無いか。
だから、あえてそのまま。余計な突っ込みはいれずに答えてやる。
「伝説級の武器を俺か亜里須が手に入れる、らしい。剣では無いかと思うがこれも良くわからん」
岩から引き抜く。と言うのがゲームの中の話なんだけど、話をややこしくしたってしょうがない。
もらうのか拾うのか、とにかく手に入れる。と言う表現なら間違って無いだろう。
更にはそれを天に突き上げて、ようやくOPが流れゲーム開始。
つまりは英雄の冒険譚。それはまだ始まっても居ない、と言うことになるが。
「貴族の護衛騎士が持ってる様な豪華な剣とか、なのか?」
「わからん。地味でやたらに使いやすい、みたいな感じだと良いんだが」
――そうじゃ無いと俺が使えない。ならば亜里須はもっと使えない。
「まぁあの類の剣は装飾でやたら重いし、このパーティで重たい剣をもらって喜ぶのはニケちゃんくらいだろ?」
「アイツも、それならホントはウォーハンマーが欲しいだろうけどな」
「え……、彼女は槌使いなのか? なんて珍しい。……ユーリの元には珍しい人しか集まってこないんじゃ無いか? 私も含めて!」
「いろんな意味で、お前ほど珍しいヤツも居ねぇよ!」
従者三人、全員がインコンプリーツだしな。
まぁ珍しさで行けばお前の優勝だろうけど、ウチのパーティーは別にそう言うことを競う場では無い。
「いずれ伝説の剣、か……。ちょっと考えてみよう」
「おぉ、頼むぞ。――それともう一つ、変態に委ねるには、内容的に多少気が重いんだが。……折り入って頼みがある」
「うむ、なんだか知らんが引き受けた。任せてくれ!」
「ならモリガン、……ちょっとこっちに来い」
「も、もちろん私に否は無いが。――いや、だがしかし。どうだろう。せめて、初めてくらいは。アリスの目が届かないところで、と言うのは、それは。……虫が良すぎるだろうか? 蟲使いだけに」
うるせぇよ! しかも“身体の中”に蟲が居るんだろ?
できるか、そんなこと!
「それにその……、初めのうちは痛いものだとも聞く、ユーリに痛くされるならそれもまた良し。ではあるのだが。――しかしそれでつい悲鳴を上げてしまったりすると。イメージ的に若干、私は……」
なにも言っていないのに、亜里須の視線が突き刺さる。
なんでだっ! こんな理不尽な事ってあるか!?
「な! ち、な、なに言ってんだよ! 違ぇよ、莫迦!」
「もう既にプレイのうち、だと言うのか……! さすがはユーリだ、私の知識の遙か上を行く!」
多分背中は視線が突き刺さって大出血してると思う。
ホントにやめて、マジで。
「それはいいから。ちょっとこっち来て耳貸せ……」





