ケンカ売ります(時価)
「あんたのおかげで助かったんだって、ツチヤマさんからはなし聞いてさー。御礼も言わなきゃいけないなーって思ってたんだけど、なかなかタイミングあわなくてー」
「俺が来ないときも多いからね」
亜里須以外は、誰が来てもほぼ一緒だからな。
ツチヤマさんとの話し合いとかなければ。俺が来る必要性、実はあんまりないし。
「でさらにー。キミが一度東京に戻ったらしいって聞いてさー。わたしの実家。静岡だけど、ニコタマの方らしいじゃん? なら頑張ると歩いて行けるかなー、なーんて思っちゃったわけ」
「ツチヤマさんが、ラヴィは法王と仲が良い、とも言ってたし」
「たぶんそこが一番の勘違いなんだと思う。――俺と法王は、ツチヤマさんと恋來奈子さん、みたいな関係性ではないよ? 法王は仮にも王様、俺はただの食客だからね」
雑談とかしてる限りは昔のJJそのままなんだけど、立場は野良神官から法王様に大きく変わった。
会うのにも手続きとか結構大変だし、まわりのスケジュール調整まで絡んでくる。
それにこのコロニーのツチヤマさんは頼れるリーダーであり、みんなに仕事を割り振るボスでもあるし、気軽に相談に乗ってくれるアネキでもある。
一方のJJだって今も中身は同じようなものではあるし、本人はそうしたいんだろうけど。
一国の王である立場がそれを邪魔する。
国全体を統率する王様が安っぽく見えてはいけない、というまわりの考えもわかる。
JJ本人が望んでやってるわけでは無い。というのも含めて、わかる。
「それも聞いたんだよねー。やっぱ難しそうかなー?」
「ツチヤマさんからは、その他にも国家予算並みかそれ以上のリソースを使う。という問題もあるから絶対ムリだ、とは言われたんだけどさ。一応ラヴィッツ本人に聞いてみたいなぁと思っててね」
「そう軽々しく、我がマイスターを使われては迷惑なのだが」
もの凄く不機嫌そうな声が会話に割って入ってくる。
わざとか本気か、コイツの場合はすごくわかりにくい。
「顔はさっき見たけど、直接的には初めまして、だよね? わたしは薬師と呪術師をやってるココナコ・アオゾラ。ラヴィッツとは、……うーん、向こうの世界? で意味が繋がるかな。まぁ見ての通り、元からの知り合いなわけ」
「ココナコ、みたところヴァンピールだが……。丁寧な挨拶、痛み入る」
……あー、これは結構怒ってるかな。
こないだ、法王をぶん殴ろうとしてたときと同じ顔だもんよ。
結果的にあのときには。
マジギレのフレイヤにすっかり毒気を抜かれて、事後処理に走り回ってた印象しか無いけど。
本気であの場の全員、一人で敵に廻す気だったもんな。
それにヴァンピールはランドでは吸血鬼を罵倒する蔑称。
そんな設定は知らないんだけど、リアルランドではそういう常識になってる。
つまり、いくら相手が信用ならない吸血鬼でも初対面の人にかける言葉じゃない。
そして非常識な常識人、モリガンがそれを知らないはずがない。
恋來奈子さんはそんなこと知らないから、今のところなんのリアクションもないけれど。
エマリアさんは俺の隣で真っ青になって突っ立ってる。
いきなり初対面の、しかも友好的な相手に。正面からケンカを売ったことになるからだ。
……どうすんだよ、これ。
さすがにここまでは想定してなかったぞ。
「私は、救世主ユーリ・ウトーに仕えし侍従四名がその第三席、モリガン・メリエという」