知り合い
洞窟の前の広場にでると野次馬も含めて、既に結構な人が集まっていた。
俺はそれを横目にしながら、足元まである真っ黒のマントで全身を包み、マントに付いたフードを深く被った女性と話している。
元のフレイヤと同じ恰好にも見えるが、顔に布は下ろしていないので表情は伺える。
日のある内はこの格好でないと、太陽に弱いこの人は大やけどを負うのだ。
もっとも、顔と両手には日焼止めがたっぷり塗られてるはずだけど。
「なんつうか。久しぶりだよねぇ、ラビッツ。半年くらい会ってなかった?」
「うんまぁ、そんな感じかも。……でも、ログインはしてたんすけど」
パーティもクランも、興亡からAdMEに移行してすぐ活動停止、事実上の解散だったし。
一人でなんかしてたのは事実だし、あまり旧知の人達とは会わないようにしてたし。
なんなら、運営のトップであるクリエイターとは、週一で口喧嘩してるくらいだったし。
「運営おちょくるためだけに毎日ログインするとか、変わってるよね、キミは」
間違っちゃいないんだけど。
……でも面と向かって言われると、なぁ。
ログイン勢でもエンジョイ勢でもなく。無課金とはいえ自称、ガチ勢だったわけで。
素直に認めるのは、それはちょっと。
「ゲーム時間の昼しかログインしてないし。他にもやってたことあるんすよ? ……まじで」
違う、と言いきれないところがまたなんとも。
「例のスライムも君の仕業だってツチヤマさんから聞いたよ? しかももともとは嫌がらせのつもりだった、って。他のこと、してないじゃん」
「う、痛いところを……」
この見た目から怪しい人物はゲーム内の知り合い、 蒼空 恋來奈子さん。
カテゴリはなんと吸血鬼、その中でも種族最強のノスフェラトゥ。
とはいえ、ゲーム内でその過激なステータスを持つカテゴリを生かすことはほぼせず。
法国の片田舎でほぼ非戦闘系のミッションだけこなしつつ、静かに暮らしていた人だ。
同じ法国民だったので、その戦闘力を見込んで何度か加勢をお願いしたり、逆に人数が必要なイベントの時にヘルプがきたりしたことがあって、知り合いになった。
蒼空 恋來奈子。いかにもな名前だけど、実はこれ本名なんだよね。
本当は滅茶苦茶強いのに、”儲かりそう”な大規模実戦イベントにはあえて出てこないのはそういう事情もある。
ゲームの中で友達と会う約束をして、本名で新規ログイン。
で、たまたま吸血鬼のキャラを作った。作れてしまった。
そこまでは良かったんだけどその後、恋來奈子さんは”育成”にも成功してしまったのだった。
戦闘可能なレベルまで育成することが難しい、と言われる吸血鬼。わけてもカテゴリ最強のノスフェラトゥである以上、作成はもちろん、育成難易度もインコンプリーツ程で無いというだけで、ほぼMAX。
それの育成に成功してしまったわけで……。
結局、恋來奈子さんは本名のアカウントをそのまま保持し続ける結果になった。
別に変更できないわけじゃないけど、名前の変更って意外とめんどくさいんだよね。
……ストーカーとかには遭遇してない。と聞くけれど、中の人も本当に女性で二〇代と聞く。
本当になにもないのか、少し心配な彼女である。
「こっちでログインしてたんですね……」
彼女は他に匿名アカウントで、魔道士と騎士のダブルカテゴライザで結構強いキャラを持ってるはず。
「ま、自力で安全地帯に入った組なんだよ、私は。このからだ、めっちゃ強いしさ。……でもどっちかといえば貧乏根性だよねぇ、もったいなくて」
隣に居たモリガンでさえ、もともと法国に籍があって俺と顔見知り、さらには直接的な敵意がない。
これを確認した時点で
――まさか、吸血鬼にまで知り合いが居るとは。さすがに規格外が過ぎると思うぞ。
そう呟いて、少し距離を取った。
ゲーム内の吸血鬼は、基本的に儀式的なものを除いて直接の吸血はほぼしないが、ゼロ距離で接触すればエナジードレインで精力を奪うことができる。
要するに身体の何処かが触れれば、それだけで直接体力を奪われる可能性がある。
もちろん吸血による失血死やゾンビ化も(ゲーム上ではできないが)設定上は可能。
ノスフェラトゥであれば吸血鬼にした上で眷属化、これも不可能じゃない。
でも今現状、この辺はゲーム内と同じく”箱庭世界”でもできないと思うけど。
でも、ゼロ距離で接触すればエナジードレインを発動できるのだけは確実。
なので、有事に備えてあえて距離を取ったらしい。
とはいえ、だからモリガンの見積は少し高すぎる、とも言えるわけで。
相手が恋來奈子さんだったら、そこまで危険はないってば。





