最終手段
結構な戦闘力を持つモリガンなのだが、一騎打ちとか決闘とか。そういう感じの戦いになったら絶対勝てない。相手が集団ならなおのこと。
自分でも、
――基本的には逃走する。というのを前提で各種能力を鍛えてきたのだ。
と言ってるくらいだ。
魔導が全てアウトなニケ、攻撃と名の付くものが掠ったらおしまい、のアテネー。
と言う極端な例は置いても。
アイツの防御力は、実は魔導を使わなければただの女子中学生。そんなステータスであるフレイヤ同等。
まさに紙。いうなら障子紙だってもっと強い。
さらにはそのフレイヤに増して持久力がない。
アイツの戦闘はもの凄く手数が多い印象だが、元になるのは目眩ましと誤魔化し。
戦術の前提になってるのは糸と蟲、あとは黒魔法の疑似発動と超高速ダッシュ、手先の器用さでおしまい。
意外なことに、一撃必殺の特殊攻撃はない。
得意の蟲でも、即死級の攻撃力を持つものは簡単には呼べないし(これは見てる限り呼ばない、かもしれない。と最近は思う)、不可視の細い糸で首を墜とすのを常道にしているが。これも狙ってるのを知っていて相手がプレーヤーなら、避けるのは難しくない。
アイツ個人の攻撃力とすれば実はそこそこ、でしか無い。
つまり、やることが全部バレてたら。……その先なんかない、当たり前だ。
そして今回は”プレイヤー”複数が相手、となると。さすがにインコンプリーツの優位性も保てない。
『先日、起死回生の最終手段について”我ら三人”には色々聞いておったぞ。もちろん、何故それを聞きたくなったかなど、知らんが。……但し、三人が皆、得意を磨きに磨いた極端なやり方。最終手段だ。インコンプリーツとはいえアラクネー向きの手段など、ない』
攻撃も防御も魔導はガン無視、物理全振り戦士であるニケ。
防御力はゼロ、必ず相手の先手を取って攻撃させないことが前提の暗殺者であるアテネー。
法国に留まらず、ランド中に知らないものの無い魔導の大家フレイヤ。
必殺技を教えてもらうには少々、相手が悪い気がする。
もっと普通のヤツに、基礎とか基本とか教えてもらえよ……。
『まぁ、内容が気になるならあとで教えるが、どのみちモリガンには向かん手ばかりだ。――もっとも、アレが感情にまかせてどうにかするなど、儂よりも有り得ん。と言うのは確かに自分で言う通りであろうが。……なればこそ、さっきの言動はなんらかの思惑ありき。ということになるので頭が痛いのだよ』
――こないだ、法王の部屋の真下なのをわかったうえで。感情任せに大神殿の床をぶち抜いた人の言葉は、重みが違うよね。
『う。……あれは、法王が謁見の間を無駄に豪華にしようとして、床が少々重くなりすぎたのだ。だから多少軽いものに張り直したと聞いた』
「先週までに全部綺麗に張り直したよ、ニケがな……。それはおいといて。モリガン、何する気だと思う?」
『モリガンのことだ。直接マイロードの不利益になることを行うなどとは、彼奴めに限っては絶対するまい。これはかけても良い。……だが、だからこそ。 監視して おく必要はあろうぞ?』
「アイツが何か始めたら、もう俺じゃ止めらんないぞ」
『それでもだ。さきの話ではないが、マイロードの存在が最後の重し……。それは儂だけでなく侍従全員。もちろんモリガンにとっても、そうであるが故、な』
やっぱさっきの話、聴いてたのね。
それでこの対応か。すごくオトナになったね、お前……。





