問題点
「エマリアさん、モリガン。なんか俺の名前が聞こえた気がするけど。……なんの話?」
とにかく、傷口が浅い内に介入するしかない。
聞いてないスタンスで誤魔化そう。
「あぁ、ユーリ殿。今日はツチヤマが同席できなかったが、打ち合わせに問題は無かったか?」
「問題なしです。このところは亜里須の荷物以外はルーチンワークだしね。……で、俺がなんです?」
具体的でないにしろ。なんの話か一応、聞く。
中身はともかく、原因は俺の不徳のいたすところ、としかならないんだろうけど。
「内容はわからんが、マイスターを排除したい連中がいるらしい」
「おいモリガン、あたしはなにも話してないだろうが。……それに、さすがにそこまでの話では無い」
……そんなトコじゃ無いかとは思ってた。
モリガンは半分以上、巫山戯て言ってるんだろうけど。ただ本質は突いてる。
いくらなんでも。”気に喰わない”、という理由で排除されたらたまらんのだけど。実はこれ。今のところは結構有り得るセンなんだよ。
当たり前だが、死んだら本当に死ぬ。うん、考えるまでも無く当たり前なんだけど。
何回説明しても現状が”ゲームの延長線上”、という感覚が抜けない連中も多い。
例のザンの知り合いだった連中が結構居る、という話も聞いてるし。
ならば俺の言うことを素直に聞きたくない、と言うのはわかる。
箱庭からランドへの帰還事業については、全面的に俺の名前を出してるわけだし。
気の強そうなエマリアさんがいかにも申し訳ない、と言う表情になる
「別にいまのところ、命を奪おうとかそういう物騒な話では無い。無いのだが……」
「エマリアさん。ごねてるのは帝国、それも騎士とか軍でも親衛隊に籍のあった連中ですよね? たぶん」
エマリアさんが、今度は虚を突かれた顔になって俺を見る。
「ん? わかるのか」
やっぱりザンの知り合いか。
個人的には斬の名前は知らなかったけど、エースプレイヤーの一角みたいだし、聞いたらわりと人気あるんだよな、アイツ。
同じパーティやクランにいなくても、フレンドの繋がりがなくても、なんならあったことさえ無くても。
個人的にファン。みたいな感じなんだろう。
例えば、昔のスクワルタトゥレだったら俺もそうだ。
向こうは帝国、陣営さえ別だもん。
「まぁ、そこそこ顔は売れてるんで。逆恨みとはいえ、その辺は多かれ少なかれ」
ここ半年くらい、俺がチータークサい動きをしてたのはホントだし。
そこをザンが気に喰わない、と言うならその知り合いだって気にいらないだろう。
俺だって、いつか倒す! と思っていたイストリパドオアと初めて戦ったとき、チート全開で向かってきたのがすごく面白くなかったし。
「とはいえ、キミの排斥を望んでるわけじゃない。逆に頼みがあるらしいんだが」
「頼み、ねぇ。俺にできることっすか?」
気に食わないから一戦やらせろ!
みたいな感じで、刃引きの剣で一〇〇連戦とか?
できるかできないかで言えば。箱庭世界にいるかぎりはまぁ、できる。
もっとも、なんでできるかと言えば。
致命的な傷で無い限り、延々と回復魔法と回復薬で無理やりコンディションを戻されながら。という
――無間地獄か!
と言う非道いことになるわけで。
でもその条件なら、リアルランドではともかく。ゲーム的バイアスが強くかかる箱庭世界でならたぶん、できちゃう。
だいたい。リアルランドでそんなことしたらマジで命に関わるけど。
最悪死んでも、箱庭世界なら強制ログアウトで会議室に戻るだけ。の可能性も高い。
とはいえ、別に俺の身体能力が優れている、と言うわけで無い以上ただのメチャぶつけなわけで。
正面からの一対一では、どう考えても勝率も半分切るはずだし、やりたくないな。
疑似にしろ疲労や痛みは感じるわけで、俺の側にメリットがまったくない。
洒落にならねぇ……。





