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真贋判定 Side : Country of Regulations

「ちょっとわからないんだが。君のせい、と言うのはどう言うことだい?」

「……言葉通りの意味です。それでも、その私の事を想って。お母さんは、シエラの名前をいただいたのです」 



「君はインコンプリーツ、では無い。……よね?」

「……実は、シエラさんには怒られそうですけど。……むしろ、そうであったら。と考えたことはあります」


「詳しい話を聞いても、良いかい?」

「聞いてもらえるならば……」



 ――もちろん、シエラさんもレイジさんもご存じでしょうけど。

 ――亜人の中でも、アマゾネスやバーバリアンなどは、ほぼ人間と変わりがありません。

 ――では何処で種族を見分けるのか、と言う話になりますけど。

 ――種族を決定づけるスキル。これの有る無しが重要になります。

 ――我らバーバリアンであれば、狂戦士化ベルセルク。これを使えるかどうか。



「つまり君は、それを。ベルセルクを使えない……?」


「そう言うことです。……バカにするようで恐縮ですが、なのでお母さんは私にシエラ。と名付けました。アマゾネスにあって強弓一閃が使えないのに、南の大森林を追放になってなお、一〇〇年に一度の本当のアマゾネス、とうたわれたあなたの一/一〇〇でも強くなれるように。と」


 単純な強さはいわゆる"戦闘種族"ではなにより重要になる。

 アマゾネスはもちろん、そこから別れたバーバリアンであっても。

 そこは変わらないんだろう、とはぼくでもわかる。



「私はそこまでのものではないし、そう言ってもらえたら素直に嬉しいのだけれど。……君の名前に文句を付ける気もないが、私がインコンプリーツである故に追放になったのも事実だぞ?」


 もちろん、この方ならそう言って謙遜するだろうが。

 ぼくもお兄様から、遠回しにシエラさんの事情は聞いている。


 アマゾネスの里を放逐されたのは、インコンプリーツである。

 ということではなく、実は強弓一閃が使えない。と言う理由だったのだから。

 シエラさんのことを知っていたら、それにあやかって名前をもらいたいだろう。

 

「お母さんも、私を産んでしまったために、バーバリアンの里を。……追放になりました。インコンプリーツでさえない、本当に中途半端な私のために」



「うーん。……シエラ。東教区のスラムに居たんだよな? リオ姉様に会ったとき。ならば、母上様はどうした?」


 今のシブリングスを構成するのは全員スラム出身、ではあるのだがもう一つ。

 全員、両親がいない。

 ……ただ、今の話ならシエラは。


「……あそこに流れ着くまでは七年かかりました。貧乏ながらも落ち着いて暮らせる環境を手に入れたものの。安心したのか、半年で亡くなりました」


 ――その葬儀に、わざわざ来てくれた姉様に拾っていただいたのです。

 そう言って顔を上げたシエラは、普通の顔だったが涙だけが頬を滔々(とうとう)と伝っていた。 


 そう、今でこそ若手が、空き時間にスラムへの奉仕活動へ出かけるのは普通だが。

 当時はリオ姉様が巡回するくらいのものだったと聞く。

 ぼくらが住んでいたのは、神職にさえ差別されていた地区だったことを、改めて思い出す。 

 

 だからこそ姉様は、見習い拝殿巫女からの昇格を拒んでいたのだ。

 拝殿巫女以上は当時の戒律の関係上、スラムへの出入りができなくなる。

 自分がいけなくなると、あとは誰も行く人がいないから。

 あの人はそういう人だった。 



「……なので、生意気ですが、シエラ様の本当のところを暴いてやろう、と思って今日、ここに来たんです。お母さんが命をかけてまで手本にして欲しかった人の実力が、どのくらいのモノかを、自分で、この目で、見てやろうって。――お母さんからもらった名前を、捨てる覚悟でここにきました」


 ……だから、どうして会いたいのか言わなかったんだな。

 さすがに無礼が過ぎる、始めからそんな理由でメルカ様に話しても了承するわけが無い。

 今後どうなるのかは不明だが、今のところは大事なお客様なのだ。


「早まってはいけない! 確かにお母様が私と同じ名前をつけたのだろうが、それで名前を捨てるなどと言ってはいけない! なんとなれば私の方こそ名前を……」


「いいえ、お会いしただけでわかりました。一生追いつかないかも知れませんが、要領の悪いなりに、せめてあなたの強さの一/一〇〇に達するように、明日からも精進します」


 そう言ってシエラは深々と頭を下げる。


「これより先も、私がシエラを名乗ること、お許し下さい……!」

「許すもなにも……。えーと、その。レイジくん?」


 良い人だからこそ、そう言われると。お兄様風に言えば、リアクションが取れない。

 ただ強いだけの人では無い。

 あった人がみんな、そう言うシエラ・シエラさん。


 シエラ・セントラルが目標にするのは高すぎる壁にも見えるが、目標は高い方が良い。

 それはメルカ様もルル様も、普段から仰っていることだから問題は無いだろう。



「気はすんだか? シエラ」

「ありがとうございました、シエラさん、……レイジさんも」

「では、ぼくはこれから、シエラさんと少し打ち合わせをする。お前も同席しなさい」

「……はい」


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