中央大神殿本宮付き助祭 Side : Country of Regulations
"会議室"からは短い渡り廊下で繋がった大きな建物。
近所に歩いて来ただけで圧倒される。
名前が無いと呼びづらいので"一時避難所"。
とお兄様達は言っていたし、それが通称になってしまっているが。
どうみても貴族のお屋敷か、もしくは高級な宿屋の様な巨大な建物。
名前と見た目が完全に乖離している。
何か違う呼び方を考えた方が良いと思うのは、ぼくだけではないはずだ。
こんな巨大なものを"箱庭世界"で作った上で、分解して運び、ここで組み立てている。なんというか、でたらめだ。
まぁ、分解して持ち運ぶ。とはいえ、それはアリス様の"持つ、"ストレージ"ありきの話。
あの方については、大きな方の荷馬車三台分程度なら、普通に"ストレージ"で持ち運ぶことができる。
ただそれについても秘密、という事になっているのでぼく以外は知らない。
あまりにも今回、秘密が多すぎるし、そのことごとくにぼくまで絡んでいる。
正直に言えば、ぼくはそこまで重要な人物では無い。……荷が重すぎる
「ようこそお越し下さいました、大導士様。法国中央教区の皆さまには大変お世話になり、皆一同に感謝しております」
建物の玄関前に立つ、同性代の導士の服がぼくを呼び止め頭を下げる。
今は灰色のお世話係の制服では無く大導士の服を着ているので、彼にも僕の階級はわかったらしい。
服装は、事情を知らない人に説明するのが面倒くさいから。
リオ姉様にそう言われて着替えたのだが、確かにそうだった。
あの服にも、大導士を示す記章は付いているけれど。
知らなければそこまで細かくは見ないだろう。
僕に声をかけた彼は、同じデザインではあるが、服の色は帝国教区の所属を示している。
「お役目ご苦労様です。ぼくは法国中央東支神殿の礼拝士長、レイジ・イーストと申します。御礼のお言葉、ありがたく頂戴致します」
「お待ちしておりました、礼拝士長。自分は帝国ヴィルキント辺境伯領第二拝神殿付きの神殿導士、イラと言います。お話は伺っております。……その、助祭様がご同道なされると伺っていたのですが……?」
あぁ、そうか。
中央管区でシブリングスを知る相手なら。
その辺の事情は有名だから、説明の必要がないので忘れていた。
確かにリオ姉様からは、――中央大神殿の助祭が会いに行く。と通達を出して貰っている。
ぼくの後ろに隠れるようにして立っているのはシエラ・セントラル。
あまりにも特例的にいきなり高位神職になった、しかもあからさまに少女の見た目、なので。
いらぬ諍いを避けるため。
と言う理由で、本人の性格もあって彼女は普段から巫女でさえなく、導士の服を着ている。
――エラそうな服、しかもスカート履くなんてイヤです。
そう言い張って同じく導士の服を着ている少女。副司祭カナリィ・アクシズとはその辺の事情が少し違う。
でもまぁ本当は二人共、リオ姉様よりもエラそうな服を着たくない。
と言う部分が根っこにあるので、そこは誰も何も言わずに教皇様にも直接認めてもらっている。
なので、大導士と導士二人しかここには居ない今現状。
待っている彼からしたら、
――ところで、助祭様が来られていないようですが?
となるのは当然である。
「諸事情あって、今はこのような服装をしていますが、僕の後ろに居る彼女がそうです。……思うより若く見えたと思いますが」
「……あの、えーと。こんにちは、導士様。私がその、助祭です」
「え? あ! こ、これはとんだ失礼を……!」
基本的に経典や典範の研究者として、外部の人間に会う立場では無いのだけど。
司祭級なんだし、多少は人前に出る訓練を。しなくちゃいけない、よな……。
「これについてはあなたには責任はないですよ」
「あぁ、いえ。……知らぬ事とは言え、ご無礼をお許し下さい。――既にサロンでお待ちです、ではご案内いたします。どうぞこちらへ」
彼がドアノブに手をかけると。
適当に作った、とは到底思えない大きく豪華で重そうなドアが音もなく開いた。





