避難民キャンプ Side : Country of Regulations
森の中の広場。人数と作業量が増えたことで急遽立てられた、炊き出しとお世話係の食堂兼休憩所。
昼食のピークは乗り切ったが、既に夕飯のため二〇人以上が集まって、鍋は湯気を上げ、食材の下準備やら、次々搬入される荷物の整理やら忙しそうにしている。
「レイジぃ。七人全員。ちゃんとご飯、食べた?」
「全員いただきました、ぼくらは午前中、何もしていないのにすみません」
「その辺はいーのよ。――昨日の夜、なんかメルねぇに頼まれたんでしょ? 眠くない? 大丈夫?」
森の中にかなり広い広場、お兄様達の仮設小屋にテントが数張。
確か最初に来た時はそうだった。
「そこはメルカ様からもキツく言われてます、大丈夫でないならここに来てません」
「ふーん、ならいいんだけど」
広場のテントがあった付近には、総二階建て、一部三階建てという立派な建物が建ち、その後ろ側は森の中に食い込むようにして伸びている。
そして、現在進行形、そのままの意味で建物はさらに森の中へと広がりつつある。
「あの……。リオ姉様、あれすらも仮設の建物なのだと聞きましたが……」
「ツチヤマさんが規格外なのよ。錬金術と魔道具創造で強引に作った建物を、さらにパーツごとにバラして持ち歩ける大きさにするとかさぁ。帰還事業が終わったら法国にくれるらしいけど、こんな大きなもの、どこでなにに使ったら良いんだろう」
あと二倍くらいに大きくなるのは確定だと聞いた。
――寝るところが無くても、適当に自分達で作るんじゃないの?
当初からお兄様はそう言ってはいたが、適当に作ったというレベルではない。
一度だけ中に入らせてもらったが、たぶん東教区、どころか中央の最上級の宿よりも居心地は良い。
そのうえ、大きな風呂に綺麗なトイレ。
ここより快適な場所は多分、法国には無いだろう。
ツチヤマ、という名の錬金術師は完全に常識を外れた人だ。と言う事だけはわかった。
だいたい。作ったご本人がまだこちらに来られていない。
この豪華で優美な建物は本当に、ただ部品を組み立てただけなのだ。
「丸太の仮置きがキビしくなってきたなぁ。運び屋さんをもう少し増やさないといけないんだけど」
「それ以前に丸太に加工する方と、枝や根を処理する方の方が先なのでは……」
その建物を建てる森の伐採抜根に関しても、お兄様の言う『箱庭世界』から来た人達によってごく簡単にすすめられている。
森自体は、東支神殿の近くにあるのに開発の手が足りなくて放置されていた場所だから、とても都合が良いのはそうだろうけれど。
但し、スピードが完全に常識を外れている。
作業にあたる人達は、単純な力も、魔導も。みんな桁外れといって良い人ばかり。
まるで牧草のようにあっさりと森の木々を伐採し。
地中深くまで張った根を持つ切り株を、冗談の様に引き抜いていく。
「両方、専門の業者を頼んではあるんだけどさ。急にはムリなんだって。これるのは来週になっちゃうみたい」
「この状況は誰も予想できなかったでしょうし、さすがにリオ姉様のせいではないのでは?」
「とはいえ一応、この場の仕切りは私の仕事だしね……」
ここ暫く、東教区は材木が多少不足していたのだが。
今は加工した丸太を仮置きする場所すら無くなりつつあり、以降に搬出する丸太を置く場所を探しているところらしい。
枝と切り株の量も、東教区では向こう一年はまきで困ることは無さそうに見える。
丸太への加工も、枝葉や切り株の処理も、それを運ぶ人達も,それを置く場所さえも。
間もなく何もかも足りなくなるが、別にリオ姉様の怠慢では無い
ここまでのスピードを予測したうえで、段取りを取れる人など誰も居ない。と言うだけの話なのだ。
広場は広場としてスペースを確保しておきたい。と言うのがリオ姉様の考え。
もっとも、丸太やなんかが積み上がっているのは全体の1/4に満たない。
普通に考えたらまだ場所はある。リオ姉様が基本的には雑なのに妙に心配性なのは、これは性格だから仕方が無い。と思うしかない。





