チームリーダー Side : Country of Regulations
転移陣で戻って、慌ただしく自室で着替えて。
いつのまにか少しずつまわりが明るくなる時間、日の出まではあと数十分。
朝の祈りの時間が始まる少し前。
「ご苦労様でした。今日は朝のお祈りは免除します。全員、昼まで休みなさい。これは命令です」
そう言われて総監代理の部屋の扉を静かに閉める。
部屋の前の廊下にはぼくと同じグレーの制服が六人、こちらを見ている。
「全員、昼まで自室で休息を取ること。これは情報部長からの命令だ」
「でも、それではユーリ様達の……」
「もう、ぼくらはいなくても大丈夫。でしょ?」
みんな渋々、といった風に頷く。
これについては、ぼく自身も言いたくないのだが。
既に"救出作戦"は軌道に乗り、ルーティンワークのように行えている。
こちらに来た"お客様方"についても、結構自立されて行動している。
ご案内やお世話がそこまで必要な状況ではもう無い。
人数的な問題があるとすれば。
サポートするぼくらではなく、実際に移動するのがお兄様達七人しかいないことの方だろう。
「……あの、レイジさん。今日の午前中の……」
多少遠慮がちにぼくを見上げるのは小柄な少女、シエラ・セントラル。
最年少記録を大幅に更新して、中央で助祭の地位に就く彼女。
また、魔導の研究者としても魔道具職人としても今の時点で法国指折り。
そうでありながら、控えめで引っ込み思案な彼女である。
そして彼女とは今日の午前中に約束を一つしてあるのだが。
情報部長からの命令は、これは絶対である。
「大丈夫、約束は覚えている。午後からにして頂けるよう、お話はぼくからしておく。心配しなくても一緒に行くよ」
だから、こういった気遣いも必要になる。
……さすがにシエラでなかったら放っておくところだが。
「……ありがとう、ございます」
「約束だったものな。――ではいったん解散しよう。みんな、一二時半頃に現地で集合。で良いですか?」
一晩くらい寝なくても平気だと思っていたけれど、廊下を歩くにつれ、何かしら眠気が襲ってくる。
一歩ごとにぐらぐら揺れる視界の隅。
眼の部分に黒いヴェールをおとした、高級神職の細いシルエットが見えた。
「見ていたよ。良くやったね、レイジ」
「ルル様。……あの場におられたたんですか?」
「あぁ。神敵排除執行部にそう言われて嬉しいかはおいて、良い仕事ぶりだったよ」
本当にルル様が隣を歩いておいでなのか。
それすら、夢うつつでどうでもよくなりつつある。
「特に現場を離れる前の見回りは見事だった」
「見事、……ですか? 見回りが?」
「お前があった男、アレはお前達の動きに気が付いて調べにきていたのさ。……だがお前は実力行使を留まり、魔導導士であることを仄めかしただけできゃつの行動を止めた。その見切りと胆力、まさに賞賛に値する。――褒められてもお前は嬉しくないだろうが、ね」
……! あの男が、本当に問題のある相手だったとは!
一気に目が覚めて隣を見るが、既にルル様の姿は廊下の何処にも無かった。
「いま、ほんとうにルル様がおられたのか? ……それとも」
――それとも、ぼくが"仕事"を褒めてもらいたくて幻覚を見たのか?
ここまで考えたところで、急に眠気が戻ってくる。
どのみち、このままでは頭が回らない。シエラとの約束もある。
部屋に戻って少し寝よう。
全てはそれからだ。





