表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/470

蟲使いVS巫女様ご一行

 むし使いは非常に特殊なカテゴリである。

 攻撃や防御、索敵。

 その全てを、役割に特化した“蟲”を使役することで行う。

 高レベルなら非常に厄介で強力なカテゴリだ。


 さらには使役士テイマー全般、その特殊性から設定的には賢者に比肩するほどの知識量を有している。

 事実ゲーム内では、テイマーから賢者フィロソフィア錬金術師アルケミスト、その派生系職業へと転職するものも多かった。


 但し。強力ではあるが一方、他のカテゴリのスキルを覚えることは難しい。

 もちろん重課金ユーザーなら出来ない事は無いし、アイテム経由でスキルを何とかすることも出来る。

 但し、闇の上級魔法を操る蟲使い。そんな面倒な話は聞いたことが無い。




「さぁ、そのダークエルフの綺麗な顔が崩れる前に。身ぐるみ全部置いていってもら、おぉ? ……えぇええ!?」


 蟲使いの口上が終わる前に、アテネーの口元に笑みが浮かび、芋虫の様な、甲虫の様なその形容し難い蟲の腹を鷲掴みにすると。

 ――メリメリメリ!

 音を立てて、顔から血が飛び散るのも構わず、力で引きはがす。


 ――ブチブチ! 十本以上あった足が三本、アテネーの顔に食い込んだままぶら下がり、そこからも真っ赤な血と、肉の裂けたピンクの傷跡が見える。

 だが。血ぬれの顔に白い歯を見せて、凶暴な笑顔を見せるアテネー。


 蟲は自分を掴んだ手を噛みつこうともがくが、微妙に届かない。

「なかなかに良い蟲だ、このタイミングで私に寄越すとは、気が利いているな」


 アテネーは顔中血まみれのまま、蟲の頭を素手のままもいで地面に叩き付けると足で踏み潰し。もがく蟲から残った足をむしり取り、羽を引きちぎる。 


「…………お、おまえ」

「ちょうど小腹が空いたところだ」



 確かに設定上狩人、それもエルフの狩人なら昆虫や蟲のたぐい、普通に生のまま喰うよな。と思い出す。


 うごめく胴体から紐の様なものを引っ張り出して放り投げると、――ぶしゅっ! と言う音を立ててそのまま蟲に齧り付いた。……うえ。

「さすがは蟲使いが召喚するだけ合って、良い蟲だな」


 高レベルの蟲であれば気力、体力、多少のケガまで全回復ではある、が。

 実際にこうして目の前でみると、絵面えづらが悪いなんてもんじゃない……。


「ぶ、うぇ……」

 隣の亜里須は、明らかに顔色が悪くなって口元を両手で押さえる。

 そりゃそうなるわな……。



「この時期、肝は毒が貯まっているか。本当は肝が一番美味いのだが、毒抜きをしている時間はない様だし、な」

 アテネーは蟲だったものを投げ捨て、ペっ。と口からなにかの残骸を吐き出すと顔にぶら下がった足を引きはがして、足元へと放る。


 血の跡はそのまま残っているが、既に傷は回復しつつある。

 見た目のインパクトと自身の回復。

 両方を狙ってわざと顔に蟲が張り付くのに任せていたらしい。

  


 ――ぴんこん♪

 -【通知】 チェック内容が 樺藤亜里須 と共有されました-


 こっちはこっちで、もはや頼りになるなんてもんじゃないな。

 なんで盗撮のスキル、表示されてないんだ?


「……なにか、わかる?」

 蟲使いの詳細データは俺のスマホにも転送されているはずだが、亜里須は自分のスマホの画面を俺の前に差し出す。

「……珍しい、ってのは確かだ」



「う、……な」

 蟲を頭から喰われて茫然自失の蟲使い。


「うにゃあああああ!」

 ガラぁン、ドサ! 一方、言葉を失った蟲使いに斧を背中から放りだしたニケが土煙を上げてダッシュするが。

巫山戯ふざけるな、そんな簡単にいくかっ!」


「へ? うわわわならららららららら……!」

 ニケはいきなり、見えない網にかかった様にもがきながら宙づりになる。


「しまった! ニケさん!!」

「慌てんな、アテネー! ……アイツはかなり高レベルの蜘蛛女アラクネー、細い糸だが、お前の“真実の目()"なら見えるだろ! ニケの上、何本ある!?」


「五、いや、六本、か……? 済まない、恩に着る! ……喰らえっ!」

 ピョウ! と音を立てて矢が蟲使いに飛ぶ。


「あたるか!」

 蟲使いが身を翻した瞬間、アテネーは既にニケのすぐ横に立って出鱈目に見える軌道で剣を振りまわし。

 どさっ! とニケの身体が下生えの上に落ちるが。

 既にそこにアテネーの姿は無く。


「……闇使いで蟲使い、その上 糸使い(くもおんな) とは、なぁ!」 

「な、しまっ……」

 アテネーの正面からの台詞と共に首を取りにきたサーベル、これをギリギリ交わした蟲使いに、身を起こしたニケがどぉん! と言う地面を蹴った音を残しダッシュ。


 ……裸足にサンダルですりむいたりしないのか? あんなことして。

 そうこう思ううちにも、ずざぁああああっ! と地面にブレーキ痕を長々と残しながらニケは蟲使いの背後を取って、身体を固め口をふさぐ。


「結構、痛かったですヨ?」

「むぅ! ……ぐぅう!」

「……ホントは絡まったときより、ネー様に落とされたときの方が痛かったけど!」


 そしてその額にアテネーのサーベルが躊躇無く迫る。

「……死ね」


「そこまでっ! ストップです、二人共!」

 リオの声が響いた。



「え? リオさん!?」

「しかしリオさん、コイツは追いはぎだ! あなたを襲った犯罪者だぞ!?」

「こちらに対する殺意は無かったでしょ!? それに見習いとは言え神に仕える巫女の目の前で、例え罪人であろうとも。神殿の沙汰さたも無く私刑だなんて、絶対に認めませんっ! 却下です!!」



 ――アテネー。そいつぁ売り飛ばせば金になる、殺すな。努めて冷静に聞こえる様に俺はそう言う。

 ちょっとムカついたので、実際にやるかどうかは置いといて。少しはビビらせてやろう。そう思ったからだ。



「ユーリ殿?」

「蟲使いで糸使い、おまけに美人。……希少価値レアものだ。奴隷市場で高値が付くのは間違い無い。――ニケ、喋らせてやれ」


 ニケが口をふさいでいた手を放すが、蟲使いの身体はがっちり拘束されたまま。

「ぷは……。ご、後生だ! 奴隷商に売ったりしないでくれ! だったら是非この場で殺してくれ!」


「なぁ、リオ。慈悲の巫女様の気遣いが、かえって迷惑になっているクサいが?」

「ユーリ、待って待って! 今のどう聞いたらそうなるの!? 彼女は殺さないし売らないからっ!」


「持ち物と全能力。ひっぺがしてその辺に放り出せ。との仰せだが?」

 俺はスマホの背中側を蟲使いに見せつける。


「ひぃ! ……な、何でもする! 男は一人しか見えないが、なんなら男女問わず体も好きにして良いから、だから! そればかりは、せめてそれだけは、どうか!」



 スキルや魔法を全て強引に身体から引きはがす、そう言うアイテムは実はある。

 それはSSSを超える様な超レアアイテムで、掲示板やまとめサイトでみても出現自体ここまで三個しか報告が無く、使用例は一回のみ。

 しかも対プレーヤー戦、イベント内戦闘では使用不可。


「そこの男! リーダーだろっ!? ……ここ、こ、こう見えても私は。うぅ、しょ、その。処女だ! 美人かどうかは自信が無いが、処女の体を好きにして良いんだぞ! ことの後で殺せば後腐れもないじゃ無いか! ……考え直してくれっ! 頼む!!」



 蟲使いがそのアイテムの存在を知っているなら十分に脅しになるだろうと思った。

 ただ、どんなアイテムなのか。ほぼ誰も見たことは無いので、魔力の籠もった綺麗な板ことスマホ。これで代用してみた、と言う次第。



「引っぺがした能力は俺とリオでわけようか」

「ユーリっ! 私、そんな事。一言も言ってない! ホントに言ってないから!」

 そしてリオも本気で戸惑っているところを見れば。俺や亜里須がそれを出来るかも知れない、と言う可能性は否定出来ないのだ。


 つまりその手のアイテムというのは、本当にあるんだろう。

 直接戦闘を避けるためのこけおどし、これは結構大事だな。覚えておこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ