議題:危険な少年達 Side : Magical Empire
「姐さん、俺からも一つ。いいっすか?」
「斬から発議なんて珍しい、昨日から良いお天気だけど、これから雨でも降るのかしら?」
「あのですね……!」
「ゴメンゴメン、もちろん良いわよ? で、なに?」
見た目はまさに騎士、と言う斬なのではあるが中身は脳筋大学生。
この手の会議は大抵居るだけ。と言うことが多い。
本人がもともと政経学部で、経済産業局局長でもあるのだけれど。
こと戦闘に関しては本人が単純に強い、以外のアドバンテージはない。
そんなことだから、パーティやクランのチームの成績も問われる統合ランキングで、おっさんズとか花押三姉妹みたいな、あきらかに数段格下のヤツらに負けるんだってば。
例えば。イストリのおっさんみたいに、ゲームのシステムや設定を上手く使うとか。
私みたいに獲得ポイントの増加分を増やすとか、攻撃と防御の計算式の穴を付くとか。
そう言うのがなかったし、いまもあまりない。
でもそこは逆に、純粋に個人の技量だけでランキング上位に名前を乗せ。
今だって帝国屈指の騎士、三神将の一角。
と言うコイツを褒めるべきところかも知れないが。
「知り合いの神官から聞いた話なんですが」
「……この場で話す内容なんでしょうね? みんな暇ではないのよ?」
「間違い無く共有の必要のある内容のはず。話の裏を取る必要も」
「そこまで言うなら聞きましょう。……続けて良いわ」
「で。みんなは当然、法国の信教本部が王都東支神殿に天才の少年少女を集めている。と言う話は知ってるよね?」
「ザン閣下、その話。法国情報部麾下の年少者部隊でありましたな?」
「シブリングス? でしたか。確か先日、壁越しではあるがイストリパドオア閣下の邪魔立てをしたと」
「魔導のほか、剣術や格闘の天才も居る。と聞きおよんでおりますが」
さすがにみんな、存在は知ってるよね。
将来の人間兵器として東支神殿の雌狸、法国情報部部長でもあるメルカ・リッターが直接目をかけている、異様に能力の高い少年少女だけを集めた、東支神殿所属の特殊部隊。
過酷な選抜を経て編成された、超精鋭少年部隊、人呼んで魂の兄弟。
イケメンとかかわいいショタっ子がたくさん居そうな、良い響きの部隊名。
実際に見目の良いことが選抜基準に含まれるのではないか?
などと、法国の紳士、淑女の間で噂される存在。
だが見た目や名前に欺されてはいけない。
今の時点でも、実力は並みの騎士や魔道士などは軽く凌駕するという。
歳が上の子達も、一三,一四歳前後くらいの、戦闘とは無縁に思える彼ら。
あまり凄惨な現場に出ることはないし、教義の縛りもあって王都教区から出ることさえ許されないが。
一方で日常的に身体的にはもちろん、精神的にも相当へビィな訓練を受け。
神職としても、神事では重要な仕事をまかされても居る。
神職で、かつ戦闘はもとより政から軍略まで。
法王に絶対忠誠を誓い、全てを網羅するエリート育成機関、そのトップ組が彼ら、"シブリングス"。
少なくともそこまでは、ここに居る皆は知っている話だろう。
これはほんとうの事でもあるだろうけど。たぶん、現法王の宣伝戦術でもある。
法国のイメージ向上と、少年少女が戦うことでの相手の戦意喪失。
さらに子供達から見た場合は憧れの存在でもあり、父母目線で見ればこんどは可愛い子供達。
彼らが健気に頑張る姿は、信教自体の印象も良くする。
要するに、複数の効果を狙った高度な作戦。
そしてそれはそれなりに旨くいっている。
現法王は戦いは好まない。と公言し、実際に法国から責めてくる割合も大幅に減ったものの。
そう言いながら。裏では着々と戦の準備を進める。そういうタイプ。
こないだの東ゲート攻防戦だって、なんの準備も無しに和平だけを考えてるようだったら。
第三ゲートから東検問所を経て、一番大きな食糧倉庫。
その付近までは一時的にでも占拠できたはず。
でも、現実には第三ゲートを突破、どころか破壊することさえ出来なかった。
いくらユーリくん達も戦闘に参加していた、とは言え。
なんの備えも無しに、あの陣容の攻撃を被害も無しに押しかえすなど不可能だ。
最高のタイミングで増援が到着したのを見てもそれは明らかだし、戦いに参加しなかっただけで弓兵隊二個、騎馬隊一個のほか、遊撃に回る特殊部隊も壁の内側で展開して、出撃準備は終わっていたらしい。
さらに戦いを観測していた物見からの報告では、シブリングスも壁の中から応戦していたし、それはかなり適格、かつ効果的であったらしい。
シブリングスの扱い一つとっても、ろくでもない大狸なのは間違い無い。
法王、とはいえ王様なわけで。そのくらいで無いとやっていけないのかも知れないな。





