私、だいたいわかるよ。 Side : AdME Dukedom (3rd force)
「ふむ、クの字。……帝国については何かある。と僕には聞こえたが?」
「あぁ、それは当初から話は入ってる。魔導力不足の解消、だそうだ」
「僕には意味がわからないな」
「そこはダンナだけでなく、俺も知りたいところでね。帝国も今んとこ、案件が三神将直下の扱いになっててさ。こっちに戻って以来、かなり高度な実験をやってる以外の情報がない。帝国の中枢以外、誰もわかっちゃ居ねぇんだな。……それとマイスター、ついさっきだが。魔方陣の件でもう一つわかった事がある」
「私、公王からなにも聞いてないけど?」
「情報院で絶賛精査中の案件だから、まだ公王まで話が上がってない。――帝国側の、異世界転移実験の同行者、その中に皇帝三神将、スクワルタトゥレが居たらしい」
は? スクワルタトゥレ?
“この世界”でスクワルタトゥレと言ったら、帝国最強騎士にして皇帝の相談役だぞ?
「帝国政府でもすごく大事なヤツの一人、だったよな。それは例えば。……公国で言うと、危ないとわかってる魔導実験に、ミーヤかセレーナを使う様な感じ。で良いのか?」
ぱっと見、女の子にさえ見える整った顔。
そしてそうでありながらそこだけ異質な、別につり上がってるわけじゃないのに意志が強そうな目を持つ、向こう傷だらけで銀色の髪の少年。
カムイが珍しく大真面目でクトゥガに問う。
中身、キチンと理解できてるじゃん。
実は前回話を聞いたときも。聞いてないふり、してただけなんじゃないか? コイツ。
自分でバカだと言い切るけれど、実は地頭は悪くない。
この程度の話なら、内容も十分理解できるはず。……ちゃんと聞いてれば、だけど。
「向こうは人材も多いが、わけても皇帝三神将。概ねその理解で良いだろう。問題とすれば……」
「なぜそこまでのリスクを冒すか? だよね? ……公王もそうだろうけど、理由は私、だいたいわかるよ。アイツも私と同じ、もともとあっち側の人間だからね。水先案内人は必要でしょ?」
私みたいに、ほぼゲームのイベントに関係無いプレイヤーであっても、名前くらい聞いたことがある。
元エースプレイヤーにして、運営のテストプレーヤー。中の人もホントに女子大生。
公王も間違い無く本人だ、と言ってたし。
なんで帝国のエライ人になってんのか知らないが、有名で強くて影響力がある、と言うのは間違い無い。
「ふむ……。お姉様やクトゥガには言うまでも無いでしょうが。いわゆる帝国が“特異点”、法国では客人と呼ぶ異世界からの転移者。これは彼女だけに限った話では無いはず。……お姉様は、それでもあえて、異世界に政府でも重要な役割を担う彼女を送る、その理由がある。と仰るのですか?」
「そこが問題なのよ、セレーナ。……アイツはモノが違うの」
「お姉様。違う、とはどういうことでしょう?」
「ん~、なんだろね。……向こうではこの世界の構造を触れる立場に近いところに居た。……うーん、わらんよなー。えーとね、――神、とかそういう感じのヤツらの下でアルバイトしてた。みたいな感じ?」
「すみません。学のないセレーナには、お姉様がせっかく御教示下さった言葉の意味が……」
スクワルタトゥレ。もともと、彼女は総合ランク上位にして運営サイドの人間。
NPCから見たら、それこそ神にも等しい立ち位置ではある。
ただ、それを説明するって。どうしたら良いの?
よし。この際、いったん誤魔化そう。
「今んとこわかんなくても良いから気にしない。っていうか、知ったかぶりしてゴメン、実は私も良くわかってない。……ウッキー、帝国ではスクワルタトゥレ、どんな風に言われてた?」
「数年前、まさに二十年前そのままの見た目で帰還した。という話はクの字に聞いて知ったくらいだから、今の評判がどうなっているかなどもちろん知らんと言っておく。……僕の知る限りでは、騎士、剣士、戦士、策士。全てにおいて比肩するものなし。女だてらに騎士としてコインの絵柄にさえなった、騎士の括りでは歴代最強。まさに 騎士の中の騎士。それが初代黒騎士、スクワルタトゥレの一般的な評価だ。法国でもそれは大きく変わるまい?」
「黒騎士とはそこまでのものなのですね、ウルカヌスさん。……かつての私は、黒騎士が指揮を執る部隊、いえ。そもそも居る可能性のある陣地には近づくな。と厳命されていましたが、なるほど。そういうことなら納得です」
あまり他人には興味のない、ヴェスターさえ気にするほどの戦闘職。
まぁ、この娘が気にするのは“どれだけ殺しにくい”か、くらいのものだろうけど。
少なくても、かつて彼女の居た“暗殺者の一族”は『危険度が高い』として判断した。
そして本人は、そこまでのもんか? と思ってたらしい。
「その後の黒騎士はともかく、スクワルタトゥレ本人は、間違い無くヤバいのよ」
「同じ称号を継ぐ以上、気をつけるに越したことは無いでしょう。話は、私ども挺身隊だけの問題にとどまりませんからね」
女神挺身隊は公王直下の、戦にも政にも、宗教にさえ関わる特殊な部署。
軍だけでなく、公国の役所や一般市民も。全体が挺身隊の動向を見た上で動く。
それに挺身隊に直接ぶら下がる国防隊の部隊、例えばカムイの突撃軍団とかクトゥガの諜報部隊がいる。そしてヴェスターも女神教の僧兵隊を率いる立場にある。
こちらが危機感を持っていないと、タダでさえ少ない部下の命を無駄に失いかねない。
「そりゃそうよね」
「僕が子供の頃の話だし、もちろん直接あったことなど無いが。……初代黒騎士に就任後、納得がいかない、と声を上げたモノ全てを、あえて公開の果たし合いで全員返り討ちにしたそうだ。その数二十四人と聞く」
うん、これは聞いたことある。
非公式イベントを立ち上げて、自分のクビに自分で高額賞金をかけて。
そのうえで「俺の方が強い!」と言い張る参加者全員を返り討ちにした。
まだ運営入りする前の話、つまりは一プレーヤーとしての立場だったはず。
そんなイベントに参加しようとするなら、強さには自信があるヤツに違いない。
それを一人の例外も無く返り討ちにするくらいに強い。
それがゲーム、AdMEの世界のスクワルタトゥレという女。
法国の白騎士と並んで、魔導帝国の最強騎士【黒騎士】。
この黒騎士の“ブランド力”は、初代のスクワルタトゥレが作った。で、間違い無い。





