悪化させようとしないで Side : AdME Dukedom (3rd force)
「マイスターの建て前はわかるが、俺が教えた以上。既にセレーナは行き先は知っているのだしな。法国絡みならば過敏にもなるだろう」
「知ってんのは、アンタが教えたからでしょ!?」
同い年くらいの、メガネをかけた茶髪でロン毛、長身の優男。と思って侮ってはいけない。
コイツの正体は何をしてくるのか全く読めない、元裏社会の住人。
毒を操るだけでも厄介なのに、さらに 植物使い と言う、読めないにも程がある。と言う能力の持ち主。
公王府情報院院長。毒使いで草使い、サソリ男のインコンプリーツ、クトゥガ・ソイルである。
インセクタの特徴である肉付きの薄いからだ、細い手足。座ってると身長は私とほぼ同じだが、立つと頭二つは違う。
ドンだけ足が長いのよ、改めて思うとムカつく。
メガネは伊達ではなく、半分サソリ男なので複眼ではないが目が悪い。と言うことらしい。
普段の彼とすれば、何処まで巫山戯てんのかわかんない、ちょっとオカシイヤツ。
もともとは情報屋だし、能力的には逃走に特化している。と本人は言うのだが。
草藪で即席の立体迷路を作り、道の真ん中に突如大木を生やして通行止めにし。
それでも追いすがる敵には、鋼鉄の楯が煙を上げて溶けるような毒を容赦なく浴びせる。
裏社会の情報屋としては結構な有名所だったらしい。
でも逆に。能力を平和利用しようとすれば野菜も生やせるし、薬だって作れる。
悔しいがそもそも頭が良い上、テイマーだからやたらに知識も豊富でさ。
公国政府では右大臣も兼ねているので、国家運営にも普通に関わってる。
スゴく役に立つのよ、コイツの知識が。
そんなヤツが、テイマーのもっとも尊敬する人物、マイスターとして私を呼ぶんだけど。
私のどこに尊敬できる要素があるのか、私が教えて欲しい。
「教えなきゃセレーナさんに拷問されるだろ! こう見えてホントにやるんだぞ、仲間なのにっ!」
「と言いながら、お前が面白半分でセレーナに教えた以上、その後のことなぞ知るものか。だが、もしレディに迷惑がかかるなら話は別だ。むしろ僕が直接セレーナを煽ってやる」
「ウルカヌス、マジで止めて! セレーナさんが今も目の前で聞いてるからっ!」
表情と言うものを綺麗に消したセレーナが、意思を感じない冷たい瞳で彼らを平たく眺めている……。
って、――怖い怖い、怖いからっ!
せっかくかわいいんだから普通の顔してっ!!
「……あのさ、ウッキー。面倒くさい事態をさらに悪化させようとしないで……」
こいつも見た目はオヤジ臭く喋る中学生男子、なんだけど。
……ウチの連中はね、見た目で判断しちゃダメなのよ。
身長は一五〇弱しかないヒョロイ少年なんだが、これは両生人の幼形成熟 (ネオテニーと言うのだ、と惣太郎から聞いた)の形質が強く出たもの。
要するに、見た目が子供のまま大人になる、ってことらしい。
惣太郎には例えばウーパールーパーがそうだ、と言われたがどうにもピンと来ない。なんて話はどうでもよくて。
つまり、彼自身はイモリのインコンプリーツで中身は三十五のおっさん。
とは言え。見た目通りに体力はないし、知らなきゃ身体の弱そうな中学生にしか見えない。
見た目はおいても熱使いの超弩級魔道師で道具職人でもある。
どのくらいスゴいかと言えば、真夏に半径100mでダイヤモンドダストを降らせ、誰も扱いかたを知らない“女神の魔力”を、自分でもわかんないまま神殿数個分、と言うとんでもない量で持ち運ぶアイテムをあっさり作るほど。
ついでに大酒飲みでダメ大人の見本でもあるが、そこはちょっとだけ同情の余地がある。
こんなにすごい才能があるのに。帝国ではインコンプリーツだ、と言うだけで非道い目にあい続け。
ついには見た目を生かし、男女問わず に身体を売る事でなんとか餬口を凌いでいた。
ここに連れて来てから女神に頼んで、身体と心の不具合は取り除いてもらったが。
アル中になったのはこの頃だと本人に聞いた。
だからセレーナとは逆に、目を離すと帝国の監視部隊を壊滅させようと暗躍し始める。
恨みに思ってるのは当然だろうけど。
――おっさんなんだから少しは自重してよ、マジで。
「失敬だなレディ、誰がおっさんだ」
「この部屋の中にはおっさん、あんたしかいないでしょ!?」
というわけで、本章は公国みゃあちゃん編からスタートです。





