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リーダーの資質

「リオ。予定よりだいぶ早かったな?」

「ん? 一気に一二リーグ以上だもんね。……うん、すごく早いね!」


 1リーグは5キロ弱なので、イメージとしては徒歩で一時間歩けばそれで約1リーグ。

 標準的な移動距離は一日8リーグ前後。健脚、と言われる人なら一〇リーグ以上、アテネーならば走らなくても二〇リーグは移動するだろうけど。


 森へと続く一本道の入り口。振り返るとはるか彼方に、夜明け前に出てきた獣人村が小さく見える。結構標高、高いな、ここ。

 だいぶ視界がオレンジになったが、まだ日は落ちていない。


「亜里須、何時になった?」

「……五時を。ちょっと、過ぎた」


「一日でこの距離を歩ききるとは。みんなたいしたものだな」

「アテネー、お前一人ならもっと早いんだろ?」

「走らずとも、ここまでなら昼前には到着できるだろうが。それは現状、意味がないだろう」


 ……実際には荷物を全てニケの引く荷車に載せて、小休止以外ほぼ止まらず小走り、早歩きでここまで来た。



 ついでに言えば本人はかなり嫌がったのだが、途中から荷物に亜里須が加わった。

 だがニケのスピードはそんな程度では全く鈍らず一気にここまでたどり着いた。

 と言う次第。


 しかもニケは、村を出るときに、例の巨大な斧を背中に背負ってきた。

 でも、これには柄の部分に仕掛けがあって、なんと畳んで短くなった。

 その状態で背負って持ち歩く為に、紐を通すくぼみや穴、刃の部分を覆うカバーまであった。


 とは言え、単に背負いやすくなっただけなのであって。

 明らかに一mを超える刃の部分が縮むわけも無く、もちろん百五十キロ以上の重量が軽減されるわけでも無い。

 今、刃の部分を覆う木製のカバーだけでも、亜里須がなんとか持ち上げられる、と言う程度の重量がある。


 どんだけ力持ちなんだよ……。素手だろうとぶん殴られたら、その場で即死する自信有るわ。

 見た目は、そう思ってみればちょっと二の腕と太ももがムチムチしている気がしないでもないし、力を入れると腹筋が割れてるのはわかるんだけど。


 それでも怪力を誇るようには一切見えない。

 見た目と言うなら、何回見ようが猫耳巨乳中学生のニケである。



「ね、ユーリぃ。荷車は勿体ないけれどここでバラして薪にする、で良いの?」

 そのニケから声がかかる。

 何故か俺がリーダーっぽいことになっているが、これはリオの仕事だろうよ。

「リオ?」


「うん、どうせ山越え終わるまでは使えないし、私達の痕跡を残しておくと気持ち悪いし。――それに薪拾いだって、なんだかんだで結構大変だったでしょ、ユーリ?」

「ま、荷物にはなっちゃうんだけどな」


「それでも使えば減るんだよ? 手持ちの食糧だって五人も居るからどんどん無くなる。重いの、最初だけだって。……さ、みんな。段取り替え、よろしく」



 みんながてんでに荷物を背負って、手に持ったあと。

 アテネーが冗談の様に荷車をバラバラに解体していく。

 なにやらせてもホント、手際良いのな。コイツ。


 その後は当然の様に木片のほとんどをニケが背負う。ほぼ身長が二倍になった。

 ゲームの中と違って、異空間アイテムシェルターは無いのでこうなるんだけど。

 なんか、見方によってはいじめてる様に見えなくも無い絵面だ。




「少し深いところまで入っておきたい。暗い森の中をだいぶ歩くことになるが大丈夫か? リオさん、ユーリ殿。――ふむ、アリス殿が心配なのだが。どうだ?」

「……大丈夫」


 主人という設定にブレが出ないよう、アテネーの会話は、俺とアリスには殿が付いた。少し気持ち悪いが彼女等を救うためである。仕方が無い。

 決して異世界ハーレムの布石では無い、と言うのは残念な気もするが。


 ちなみに敬称略を嫌がったので、(アテネーの方が年上だから)“くん”付けで呼ぶ案を提案したが断られ、“様"で呼ぶのはこちらから断った。



「私は夜目が利くとして。――ユーリ殿、ランタンを持って貰っても?」

「あぁ、どうせそのくらいしかできないしな。もう一個あったろ? 燃料は入ってるか? ――じゃあ、亜里須も持て」



 布石じゃ無いからさ、仲間だから。なのでその辺は大事。

 異世界ハーレムについてはちょっとだけ考えるに留めておこう。

 そう、俺だって男子の端くれ。ちょっとは考えるのだ!



「完全に暗くなる前にあの崖の下まで行きたいが、大丈夫か? アリス殿」

「心配、……要らない」

 休むにしても三百六十度オープン状態はさすがにちょっと、と言う事らしい。


 いくらアテネーとニケが居るとは言え、いや、ここはそんな彼女たちが居る様なファンタジー世界である。

 その彼女たちを躊躇無く襲ってくるとすれば当然、それはただの狼やクマでは無いだろう。

 背中に崖を背負えば、警戒する範囲も限定出来ると言う事だ。


「この辺は洞窟も多い、ならば四人くらいなら潜り込める隙間があるかも知れない」

 これについては昼間に、――大きくなくて良いならあるはずだ。とアテネーが言っていた。


 道が悪いとは言え王都への最短の街道である以上、自然か人工かは別にして、夜に雨露を凌げるような場所はあるはず。

 と言う話で、これは俺も同感だ。が。



「なぁ、アテネー。なにげに俺が数から漏れて居ないか?」

「……ユーリ殿は石の下にでも潜れば良いだろう」

「虫かっ!」


「穴なら、僕が掘ってあげるっ!」

「要らねぇ! お前も嬉しそうに言うな!」

 素手だろうとなんだろうと、ニケが掘るなら新しく洞窟が出来そうな気がする。こう言うのも自然破壊なんだろうか……。



「さて。……完全に日が落ちるまでもう一踏ん張り、行ってみようか」

「おっけー」

「おーっ!」

「行こうか」

「……うん」


 なんで独り言の延長線上にみんな反応するんだよ。

 うん。なんかやっぱりリーダーっぽいな、俺。


 スキルや職業にだいぶ引っ張られるこの世界のこと。

 確かに頭領のスキルは持っているけどさ。


 俺自身に何一つそれっぽい要素が無くて、ちっとも嬉しくない。

 すごく落ち着かないんだけれど。 


 テキスト亜里須さんが出てこなければ完璧な亜里須の他。

 ロリ巨乳で毛皮ビキニのニケ。

 美人お姉さんのアテネー。

 そして自慢の可愛い妹に瓜二つのリオ。


 ……むしろ、これ。

 いっそストレートにハーレムだったらすごく嬉しいのに。

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