もちろん補助輪はありません
小一時間。歳相応の顔に戻っていたレイジ達だったが。
俺と亜里須のお茶の残りを気にしてテーブルに戻ってくる。
どこまでも真面目だね、キミ達は。
「こんな良いものをいただいて、教皇様に叱られないでしょうか……」
心配する内容も真面目よりなんだよ。
「法王には俺から話してあるから気にすんな。面白がってもらえて何よりだよ」
「教皇様は、既にご了承されているのですね……」
「まぁ、そんなことより。だ」
「教皇様のお言葉をそんなことで括られると、ぼくとしてはお返事ができないのですが」
【いいじゃ無い。今のところはそんなこと、でも。法王様がここに居るで無し】
亜里須がレイジの顔を見ながらスマホを持ち上げる。
「……アリス様まで」
【ま、そんなことより。よ?】
「ええ、あの。……はい」
スピーカーのひと言で黙らせた。
すごいな、お前。
「……わたしからも、おみやげ。あるの」
「アリス様まで、ぼく達に……?」
「……ゆうりくん、説明。良い?」
亜里須セレクトのおみやげだ、ってたった今自分で自分で宣言したんだけど。
自分で説明、しないの?
「スマホで自分でやっても良いんじゃないの?」
【かなり上手く喋ってくれるのだけれど。このとおり、どうしても感情が乗らない平板な話し方になるので、説明なんかするとある意味、嫌味クサいなってしまうのではないかと思うの】
……何もしなくても文章が嫌味クサいだろ、お前の場合。
とは言え、自分で話せない事情はあるからな。そこは汲んでやろうじゃないか。
俺を頼ってきてるわけだし。
「わかったよ、俺がやって良いならそうする」
「……ありがとう。おねがい、ね?」
上目使いでこっち見るの止めろ。
……あざといと思いつつ嬉しくなっちゃうから。
【ただ、三台しか無いからみんなで順番につかってね?】
「アリス様、お兄様。これは乗り物、……なんですよね」
「でもレイジくん、こんな細い車輪が二つしかない。これでは自立しないぞ」
「魔導で安定させた上で人が動かすのでは? あ。でも、アリス様達の世界ではそもそも。魔導自体がないんでしたっけ……」
亜里須がストレージから出したのは、シティサイクル。いわゆるママチャリが三台。
電動アシストどころか、変速すらない一番チョロいヤツ。
持ってくるときに。
――パンクしたらどうすんだよ。
と聞いたところ、
――実はこれ、ノーパンクタイヤなの。……だから、問題はタイヤが減ること、だけ
と、キッチリ答えが返ってきた。
タイヤ自体もモリガンとフレイヤが見分した上で、似たようなものは作れるのではないか。
と、コピーに前向きな回答を得た上で持ってきている。
異世界の科学レベルをひっくり返す気マンマンだな、俺達。
実は五台持ってきたんだが。
二台はフレイヤ預かりになっていて、既に大神殿詰めの化学者達が、コピー製作のための見分を始めてるらしい。
電動アシスト付きも何台か持ってきてるのは知ってるが、これも扱いは同じ。
こっちはノーパンクタイヤじゃないので、空気入れも持ってきてる。
もちろん、タイヤやチェーンなど、その辺は亜里須が集めたので、消耗品は売り場にあっただけ全部。ガメてきたわけで
なんかごめん、ホームセンターの人。
「アリス様? これは何か特殊な訓練が……」
「亜里須、乗って見せてやれよ。俺が説明するまでもなく、それで全部解決だろ?」
鈍そうに見える、というか。
シブリングスから見たら、あからさまに鈍い亜里須が運転したら。もう納得するしかないだろう。
これは普通の人が使う乗り物なんだって。
「……うん」
結局、次の日。
シブリングストップの七人は日の出前から日没直後まで、ずっと中央大神殿中庭にいて。
トランシーバーで距離を取って会話をし、自転車の練習に明け暮れたらしい。
身体は休まらなかったけど、心はいくらか休まった。かな?





