屋根の上の亜里須
【一の試練を男子の欲望のみで完全クリアー、たいしたものね】
救世主様の専属従者となれば、今のところは亜里須も主人側。
だったら亜里須には報告しておく義務があるだろう。
そう思ってスマホで経緯を屋根の上に飛ばした返信がこれだ。
【考え無しに、煩悩のみでどうにかしたように言わないでくれ……】
スラリとした長身でモデル体型、美人のお姉さんアテネーに、妹タイプで背の低い僕ッ娘、巨乳のニケ。
その二人のメイド服姿とか、言われなくても結構、いやかなり。アレな気はするけれど……。
【褒めたつもりだったのだけれど、なにか後ろ暗いことが? 強力なパーティメンバーも二人加わったのだし、これで王都までの約十日の道中はかなり安心】
普通に考えればアテネーとニケに敵うヤツはほぼ居ないと言って良い。
【それにあの二人が、そこまで社会的に不安定なのだとは思って居なかったし、だったらもちろんそこも感謝するわ。……うん、煩悩から入ったのだとしても悪くないと思う】
猫耳少女とエルフなお姉様の専属メイド。……って、断じて違う!
俺はあの二人に当面の居場所を作ってやりたかっただけだ!
【煩悩から離れろ! 俺はアテネー達を救いたかっただけだ!】
【この際、実質が伴っていれば、タテマエはどうでも良いのだけれどね。私ではまとまる話もまとまらないし】
そこはわきまえてる感じなのが、かえってイラッとくる。
もっともテキスト亜里須さんよりも、本体の方が実は数段辛辣。
なのでテキストベースでやりとりしている現状は、多分俺にとっても良かったんじゃ無いかと思う。
亜里須にその辺をポツポツと単語で責められて、ジト目で見つめられたら。多分心が折れる。
自慢じゃないが健康な高校生男子なのである。
本当に煩悩は関係がなかったか。と真顔で聞かれて冷静に返せる自信は無い。
あの二人はその辺の判断が揺らいでるんじゃ無いか、と思わせるような容姿の持ち主で、俺が男だと言う部分は変えようがない。
【あら、返事が無いのは気にしているの? 判断しているのが自分だから納得がいかないかも知れないけれど。単純に女の子は可愛いと得をする、くらいに思っておけば良いのでは無いかしら】
さすが、よくわかってらっしゃる。
と言って、みえみえだろうとなにも返さないわけには行かない。
ここは男としては絶対に肯定できないところだ。
【お前と同じスピードで文字を打てるか!】
【それもそうね。すぐに返事をしないとむくれるような、そんな面倒くさい女だと思われたくは無いものね。今後気をつけるわ】
……亜里須もその辺はわかってる、と。
なんで俺の腹の中、読み切ってんだよ。お前は俺の母さんなのかっ!
【いずれにしろ次は精霊。気に入られるように精一杯頑張ってね?】
【ここはAdMEの世界なのであって、ドラゴンズ・クエストでは無いんだぜ?】
確かに精霊の加護を得ることが出来れば、それだけでこの世界ではかなり優位に立てる。でも、どうやってあえば良いんだろう。精霊。
【精霊イベントが本当にあるのなら。それなら最後の剣を引き抜くイベントだってあるかも知れない。……そうすれば私達、かなり救世主的な感じになると思う。だからこそ精霊には期待しているの】
あれ、必要以上に前向きな発言ですね。亜里須さん。
【大地の精霊。彼が勇者の存在を認めないと三の試練、剣のイベントの開始フラグ自体が立たないのだから】
自分の出来る事、その幅があまりに狭いことに不満のある亜里須ならば、当然そうも考えるだろうけど。
【剣を引き抜いて突き上げたところでやっとオープニングだもんな。……ま、亜里須の言いたい事もわかるんだけどさぁ】
「あれ、ユーリ? もしかして今、スマホで屋根の亜里須とお話ししてる? ――だったらちょっと伝えて欲しいんだけど」
昨日の夜、ベッドで寝られたせいか幾分顔色のよくなったリオに声をかけられる。
「あぁ、リオ。ちょっと待った」
【リオから連絡事項だそうなので、直接音声送る】
そう書いて、画面の中。マイクのマークが書かれたボタンを押す。
「良いぞ、なんだ?」
「ねぇユーリ、アリスにお昼前には見張りは私と交代って伝えてくれる?」
【え? お昼まででは無かったの? ……リオちゃんが平気なら良いのだけれど】
即座に返事が返ってくる。
「んーと、アリスには伝わった? なにか言ってきてる?」
「ありがとう、だとさ」
「うーん。直接お話、してないのに。どうなってんの? それ」
どうと言われれば、亜里須がコミュ障なだけなんだが。
「ところで出発はどうすることになった?」
「今日は身体を休めつつ、食糧その他を準備して。明日の、日の出前。山歩きに詳しいアテネーさん、力持ちのニケちゃんが居るから、昨日ユーリが言ったように夜通し歩いてでも、一気に山の麓までは移動しようと思うんだ」
「わかった」
【私に出来る事をリオちゃんに】
「歩き詰めになるから、特にアリスには午後から身体を休めておいて欲しいの。そこも言っておいてね?」
【聞いておいてくれるかしら】
「あぁ、了解。――だ、そうだが? ……聞こえたよな?」
【= 樺藤 亜里須 との音声通話が切断されました。通話時間2m43s=】
【疲れているわけでもないし、私個人に充電の機能が付いているわけでも無いのだけれど】
【人の好意は素直に受けるもんだぜ?】
【……でも確かにお荷物には、絶対に成りたくない】
亜里須からの返信はそれきり無かった。
アイツでも拗ねるんだな……。





