実はわりと落ち込んでます
「その、改めて。……お兄様、アリス様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
ぞろぞろと7人の少年少女が法王の執務室に入ってくるなり、扉の前に整列して一糸乱れず一礼する。
「あ-なんだ。ありがとう」
「私もユーリも、今は休憩時間です。あなた達も楽にしなさい」
法王の言葉を聞いて、全員キビキビとお茶の準備を始める。
神官総長さんのいった、――甘すぎる。の意味はわかった。
リオの弟妹達の主要メンバー全員が、教皇執務室の前で待っていたらそう言うわな。
能力的にも立場的にも高級幹部で間違い無い彼らである。
しかも、今や教皇独立親衛隊の扱い。スケジュールどころか、人員配置にさえ誰も口を出せない。
この忙しいときに、全員でなにしてるの? と言う話だ。
文句の一つも言いたくなるだろう。
「椅子があるのです、座りなさい。それと、あなた方の分のお茶も必要ですよ? お菓子はユーリ達以外は先ほど、誰も手を付けなかったので余っています。もったいないからあなた方でいただきなさい」
準備が終わって、俺達の後ろに控えようとする彼らに法王が声をかける。
おずおずと、と言う言葉がしっくりくる感じでお茶の準備をすると。
俺と亜里須の座るバカでかいソファには座らず、部屋の隅に立てかけてあった折り畳み椅子を持ってくると、テーブルを囲むように座る。
「なぁレイジ? みんなで出迎えてもらうのは光栄なんだが。……暇なのか?」
「実はこの場に来るのはボクと、バニティ姉さんだけの予定でした」
「なんでこうなった」
「その、有り体に言って……、まかれました」
「なにそれ」
「ほぉ。……何がどうなったのか、休憩だと言いましたがこの場で報告を。良いかな?」
「申しわけの次第も御座いません、教皇様。――ではカナリィから。休憩中のところですが、教皇様のお耳にも入れておかなければいけないはなしではある」
表情を硬くしたレイジが、法王の顔を見ながらカナリィちゃんに話をふる。
教皇直属の特殊部隊で、主な任務が俺達の護衛。
護衛相手に意図的にまかれた、となれば。まぁ、そうなるよな。
「はいです。……カナリィは、シエラと共にモリガンさんとフレイヤ様についていたですが……」
「王都大結界の中だというのに、……突如発生した、比喩で無く十重二十重の結界、実際には二十一層ありましたが、それに阻まれ、二十一層全てを突破するころには、お二人の姿を見失ってしまいした……」
突如発生したわけじゃ無い、あの二人が発生させた結界だな。
モリガンならば大結界を無視して魔導の行使が可能だし、姿を隠す魔導なら大得意。
フレイヤに至っては、――誰が大結界を張ったと思ってあるか? というわけで魔導は使いたい放題。
見失った。とレイジに報告する、カナリィちゃんとシエラちゃんの姿を想像して可哀想になる。
たぶん、若い神職や“コドモ”には見せたくないなにか。
そう言う仕事をしようと思ったんだろう。
特にフレイヤが居るんだから、子供に対する気遣いは言うまでも無い。
この二人は見た目が完全に子供なわけだし。
「では、次はポーラ。良いかな?」
「はい。こちらは私のほか、レジーナとアバラスくんの三人で、アテネーさんとニケさんについていたのですが……」
ポーラちゃんが申し訳なさそうに話し出す。
――東支神殿の副司祭様に、少々急ぎの用事があるのだ。あなた方のお役目はもちろんあるだろうが、後ほど東で合流することとしてほしい。
「そう言い残されると、お二人はいきなり全力疾走にはいりまして」
「あっという間もなく、僕らには見えなくなっちゃいまして……」
物理的にまかれたのか……。
護衛をしろ、と言われた身にそれはツラい。
だいたい、あの二人が本気で走ったら、馬なんか問題にならないくらいに早い。
自転車と自動車くらいに違いがある。
そりゃ、あっという間に見えなくなるだろ……。
あえてお世話係が居ないうちに、メルカさんにしたい話があるんだろう。
闇の世界の住人で、異常なまでに強い快楽殺人鬼。
ルル=リリさんはそう言う人だし、アテネー自身は元からその話を知っている。
アテネーが居る以上、例の話をルル=リリさんにお願いするのは抵抗がある、と言うのはわかる。
「あなた方でもかないませんか、あっはっは……」
「わかるけどさ、笑ったら可哀想だぜ。あんたに報告するのにドンだけ勇気が居ると思ってんだ」
「まぁ、わかるがな。……あぁ、なんだ。すまない」
「いえ、ボク達のミスですので」
「ちなみにルル=リリさんが今、なにしてるか、知ってる?」
「お兄様のお帰りになる五分ほど前までは御一緒だったのですが。その後お姿を確認したものが、中央大神殿内部では誰もおらず、今に至っています……」
ホントに何考えてんのか、謎だな。あの人。
西の調査に関してはメルカさんに任せちゃおうかな……。





