混乱の法王執務室
「済まないが、少し休ませてくれ」
「まぁ構わないが、どうかしたか?」
一時間後、とは言ったモノの。
法王の執務室に着いたのはあれから三時間ほど経っている。
ただ時間が経ったというわけでは無く、こちらはモリガンが知り得たことを紙に書いてまとめ、フレイヤとリオが法王に一応の報告をしている。
アテネーとニケは東支神殿に移動し、メルカさんに速報レベルでの報告と、いくつか頼み事があるのでそれを伝えてもらっている。
既に、フレイヤとモリガンには別のことを頼んであるし、リオはリオで政府の遠征担当官。としてやるべき事が山の様にあったのだった。
結果。
法王執務室に居るのは法王の他、神官総長さん。速記係数名や事務系の人達が一〇人ほど。そして魔道師の人が数名。
法王執務室が広いとは言え。法王の後ろにそれがずらっと並ぶと、なんとなく満員電車的な圧迫感を感じる。
一方、遠征組では俺と亜里須だけ。
打ち合わせ用のテーブルを挟んで、こっち側はがらんとしてる。
「まだサルベージの話だって終わってないし……」
「まぁそう言わず待ってくれ、流石に頭がついて行けん。……フレイヤ様から下話を聞いていたとは言え、意図せず速記係のペンが止まる様な話だからな」
「教皇様、申し訳の次第も……」
「気にしないでよろしい、私とて今の話を完全に飲み込めたわけでは無い。ペンも止まろう。――ふむ。話はそなたも聞いていたな? 神官総長リンドリンガー」
「はい」
「この会談終了後、直ちに東の総監に土地の提供、法王軍と法国軍に各々一〇〇人隊一五日分の糧食と水を拠出する準備をする様、打診をしなさい」
jjのおっさん。いや、法王の喋り方がやっと法王モードに戻った。
本気で面食らった、と言うことらしい。
そりゃそうだ。こっちだって、鎚山さんの話については今だって半信半疑なくらいだ。
「そして恐らくだがユーリ殿。そちらで現地の総監代理、リッター副司祭へは先回りをしていますね?」
東支神殿までは、馬車で三時間半かかる道のりなのだが。
あの二人が走るなら三〇分かからないで着く。
冗談事で無く、アテネー辺りは本気で走れば馬より数段速い。
既に話し終わってお茶も飲み干し、土地の下見にまわっているはず。
あの二人は足が速い上、セーフゾーンの避難民キャンプを直接見ている。
その手の仕事には最適な人選だ。
もちろん、ここまで。仕事と人の配置は亜里須の仕事である。
……俺が居る意味って。
「勝手なことをして、猊下には申し訳無く思うが、何しろ時間がない。食糧の確保と空き地の洗い出し、それだけでも先行して貰える様にアテネーとニケを送った。もう話は終わった頃だと思う」
「別に責めようというのではありません。先の話が本当だとすればなにしろ六〇〇人以上、仮住まいの準備だけでも大変なことです」
「そこは超弩級の錬金術師が居るから場所と材料の確保さえ出来ればあとは何とでもなる。材料が無いなら地下都市を作り始めるかも知れないけど」
ただの洞窟をホテルに改装するくらいだ。
森の中に地下都市を造るくらいは楽勝だろう。
「しかし、ならば尚のこと。なぜ東支神殿に拘るものか。中央大神殿城下でも良かろうものではないか? とも思うのですが」
「避難民キャンプの位置は、中央からは出来るだけ距離を置きたい、と言うのが本音だ。……ベクトルがズレたランドから連れて来た、とは言ったよな?」
「概念的には理解したつもりです。ここでは無い、“違うランド"の住人なのだ、と言う話でありましたね。七割方、とんでもない超級の戦闘職ばかりだとも言っていましたが」
何しろほぼ全員がプレイヤーである。
おっさんズなんかはもちろん、たとえランクが低かろうと、“NPC”では勝負にならないだろう。
「純粋に戦闘を楽しむような、戦闘狂と言っても差し支えの無い連中ばかりなんだよ。協力を取り付けて戦力に出来りゃ、これはおいしい。それは間違い無い」





