セーフゾーン(アジト)に到着
所属:フェリシニア法典による神聖聖道王国 (※条件付き加入)
灰色世界の救世主:卯棟 裕利
結局、道中。なにひとつ情報らしい情報は引き出せなかった。
まぁ、規格外の錬金術師。というのだけはみんな言ってた。
そしてシエラさんは規格外に強いだけで粗暴な人では無い、と言うのもわかった。
なら、美人の巨乳お姉さん枠で良い。うむ、実に良い。
……俺の余計な言動で、その枠から外れないようにしないと。
獣よけなのか、結構高い塀の真ん中、四人ほどが剣や槍を持って立つ門が開く。
「マイスターにシエラがお客人を連れて戻った、と伝えてくれ」
一人が頷いて走り出す。
綺麗に整地されて、柵や物見台まで整備された広場にはたくさんの人の姿。
学校の校庭どころか、野球場とかよりも広いんじゃないか? これ。それこそ東京ドームと良い勝負だ。
……六〇〇人居るんだもんな、この程度整地するのは余裕か。
そっちこっちに陣営問わず、見たことある顔もチラホラ。
「お客人には、敵対する意思がないことが確認できたことでもある。お前達はとりあえずここで良い。マイスターには私から報告しよう。ご苦労だった」
「あら、そう。……ね、デンちゃん。暇だし、まだ日も高いし、狩りに行かない?」
「誰がお前となんかと、遊び半分の狩りになんか行くか! ……と言いたいところだが、備蓄がわりと厳しい、と聞いている。狩りは必要、デカいのが必要ならば、山の奥の方だが」
「俺達ゃ行かないからな!」
「わっちらも右に同じ、でありんす」
「そうはいくか! 大物狙いなんだから荷物持ちと、獲った獲物を獲られないように見張りが必要なんだよ! ストレージがつかえないんだからな!」
悪いけど、俺の携帯ストレージの話は今んとこ黙っとこ。
何故だか持ってこれちゃったんだよ、どうなってんだか。
いずれ、俺の得になるかどうか、それだけを基準にしてキッチリ見極めた方が良い。
そのかなり広い広場の奥に崖があって。
その壁面に開いた洞窟の中に案内された。
というか入り口だけは洞窟だった、といった方が良い。
しばらく歩くと行き止まりになっていて、そこに付けられた扉を開けると様相は一変。
「おいおいおい……」
「我がマイスターがお一人でなしたことではあるのだが、私もさすがにここまでとは思っていなかった」
「これを、一人で。マジか……!」
さすがに現代風とまでは行かないまでも、ランドであれば貴族御用達宿屋のロビーとか、平民お断りの高級レストランで通りそう。
テーブルに椅子にソファ。
窓も無いのにどうなってんの? 外より明るいくらいだぞ……。
入り口のあたりはカモフラなんだな、あれ。
「洞窟の奥さ。転移陣的なモノで法国側にも繋がってるはずだが、あえて全員こっちに集めてんのか?」
このロビー的な場所も、テニスコートが2,3面取れるくらいに広い。
「……知っているのか。法国側出口は狩りに出る時以外は閉じてある。――もしかするとマイスターと同じく、状況を理解しているのかも知れないが、基本は法国側の生き残りも含め全員、戦闘狂ばかり。集団が割れると、どうしても収拾が付かなくなるからな」
ほぼ全員戦闘職、しかも結構なレベルのヤツが多い。
となると集団を維持するのも難しそうだ。
花押三姉妹やおっさんズだって、ニケとアテネーだから一蹴できただけで、普通に強いんだよ。
なにしろ、"死に戻りが無い"とわかってたってゲーム世界の延長。
さっきの"みこちゃん"の認識が普通なんだろう。
完全な異世界に、"生身"で放り出された俺や亜里須とは違う。
手綱を緩めると命がけで遊び始める、と言うのはわかる。
シエラさんが直接見えない場所に行くと、何しでかすかわかんないからな。
さっきも遊び半分で殺されかけたし。
ホールの先、扉が並んだ廊下に入る。
「シエラさん、もしかするとみんな個室とかあるの?」
「さすがに六〇〇人分ともなるとな。……一部を除いて六人から八人くらいの相部屋だが、寝るだけならそれで構うまい。基本は皆、ここか、雨が降らなければ外にいる」
……テクスチャやアイテム、どころか地形や環境までねじ曲げることができる。
シエラさんの御主人様、錬金術師でアイテムクラフタだという話ではあるけれど。
ここまで無茶苦茶できるもんか?
「ねぇ、ユーリ。洞窟、だったよね……?」
「錬金術師とはここまで出来るものなのか」
「できねぇよ、普通なら。な」
錬金術師はゲーム内では魔道師の上位互換。高位の魔道師はフレイヤを見れば分かる通りほぼ人間兵器で、ゲーム内の役割もその通り。
とは言え、錬金術師は壊すのでは無く作る方がメイン。
具体的には、その場には存在しない材料的なモノを作るのを得意にする職業。
自分で材料を作った上で、用具職人となれば。モノがなんだろうと、魔導力の続く限り、ほぼなんでも自分で作り放題。
但し、アイテムクラフタはユーザーでは成れない職業であり、イベントにしか出てこない道具屋のじいさんなんかが、そう名乗っていたりした。
ここまで出来るヤツなんか、居るか?
「マイスター、お客人をお連れしました」
「ご苦労様、開いてるよ」
ドアの向こうから。良く響く、女の人の声が答える。





