しとやかなる探索 Side : Yuri's buddy "Alice"
至極簡単に三〇階に到着。
筋力増強、ハンパないわぁ。
――何なら普段からかけっぱにしてほしいくらい。
「そうもいかんのだ。あとで後遺症、反動が来るからの。一時解除しておくぞ」
「……あるんだ、後遺症」
「今のでも、通常の4倍以上の力を出しておるのだ。一〇倍や二〇倍なぞとなったら、慣れないと筋肉痛で二、三日歩けなくなるぞ?」
作用があれば副作用も当然ある、か。
明日とか、来るのかな? 今の分の筋肉痛。
なんか、そう言われてみると。すでに太ももが熱を持ってる気が……。
「リオよ、ドアまでたどり着いたが。三〇階の廊下、様子はどうか?」
「今のところは誰もいないよ? 見えてる範囲は。っていう話だし、階段の出口はここからは見えないんだけど」
フレぴょんの魔導のおかげで、まわりに音はしないはずだけれど、そっと
【!注意! 外に人がいます 優しく開けましょう !注意!】
という、黄色いステッカーの貼られたドアを開けて廊下に出る。
リオちゃんと連携を取りながら、最上階への非常階段を目指す。
とは言え廊下一本で数一〇mあるくだけ、ではあるんだけれど。
遮蔽物がない、というのはこんなにも心細い。
そして。
「図面で位置のあたりを付けていなければ、ドアだと気が付かんところであった」
「……ただの壁、だよね。これ」
廊下の行き止まり、壁の中に壁と同じ色の鉄の枠があって
【非常階段 常時閉鎖施錠中 使用禁止】
という文字だけその真ん中、ひかえめに書いてある。
すごくきれいに隠してあるし、これをドアだと思えという方が難しい。
「扉自体は普通と同じか。……鍵開けをした跡があるの。傷がついておる」
「……カギ、かかってたんだね。上にしか行かない階段だものね」
「人の気配自体はない、開けるぞ」
壁に溶け込んだ大きなドアは、魔導は関係なしに音もなく、――すっと開く。
薄暗くはあるけれど照明はついている。
昨日、裕利君に聞いたら。法律で決まってるから非常口は真っ暗にしちゃダメなんだ。って言ってたけど。
なんでそんなこと知ってたんだろう、雑学王にもほどがあると思う。
扉の中は、今まで歩いてきた階段と違って普通の家みたいな感じ。
むしろこれ、土足で入っちゃって良い場所なんだろうか。
そう言う高級感はひしひしと感じる。
床も壁もシンプルだけど、すごく高そうな雰囲気を感じる。
でも。あがりかまちもないし、下駄箱もスリッパもない。なら、土足でいいんだよね、きっと。
ホテルの部屋とかだって、カーペット敷いてあっても土足だし。
「ふむ、人が歩いた形跡があるの」
「……そういうの、わかるの?」
「そう大したことではないし、正確な話でもない。あまり使われていないからだろう。床の上を見よ、ホコリが無くなっている部分がある」
言われてじっくり見ると、廊下の真ん中はすっかりホコリがなくなって。
その外側には、明らかにスニーカーっぽい足跡がいくつか。
「直近で誰かが歩いたっぽい。みたいな……」
「それだけのことだが。これはますます、上に上がるのに躊躇するのぉ」
専用のエレベーターがあるのに、あえて個人宅に通じる非常階段のカギをこじ開けて入る人達。
――帝国のことが無くたって、あまり会いたくない。
「そうも言っておられん事情は我らにもある。……アリス、少しだけ動くなよ?」
フレぴょんの両手が薄く金色に光って、その光が広がり、私たち二人をドーム型に覆う。
「これで外から聞こえないだけでなく見えなくもなった。儂の結界でもあることだし、なればその辺の魔導士が見破ることも出来んだろう。……ただし、”物理接触“をすれば当然バレるので、ここからは務めてしとやかにせよ。よいな?」
物理接触、つまりすることは偵察オンリー。戦闘行為はするな。ということでいいのかな。
とはいえ。私も彼女も直接戦闘はからっきし。
私に至っては現状、剣や変身どころか魔導さえ。なんの力もないんだけれど。
「……うん」
「もっとも。儂ら二人に限ったれば、いつも通りにおればいい。とうことだがな。はっはは……」
「……あのさ、ちなみに。なんだけど」
「なんぞ?」
「これって”後遺症“、……みたいなものはあるの?」
「うーむ、……まぁ、あるな。――さ、行こうぞ」
あるの!?
ねぇ、フレぴょん! なんか今、変な間があったんだけど!
ホントに大丈夫なんだよね、これ……。





