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後始末

 人間ブルドーザーと言って良いニケと、とにかく何をやらせても手際の良いアテネー。そしてあぁ見えて、実は人を仕切ることにかけては才能のあるリオ。  

 事実上この三人だけでたった二時間。村の片付けは、それでほぼ終わった。



 先ずリオが腕組みで二分程、考えた後に全員にやることをまとめて指示した。


 俺は食事の準備。火を炊いてお湯を沸かすために、村で一番大きな建物に水を運び、暖炉とかまどに火をおこす。

 リオは家々から食材になるものをかき集め、亜里須はかごを持って村中を走り廻った。


 ニケはどこからかあり得ないほど巨大なスコップを持ってきて、村の外にはあまり深くない穴、村の中には深さが自分の身長ほどはある結構な広さの穴を二つ。これをあっという間に掘りあげる。


 その間、アテネーとリオは獣人とドラゴラム、双方の遺体を仕分けて荷車に積んでいく。

 そして村の中に作られた穴には、ニケと俺で獣人達の亡骸を丁寧に寝かせて行き、外に掘られた穴にはアテネーが、ドラゴラムの遺骸を無造作に放り込んだ。

 亜里須が摘んできた花を獣人達の胸に乗せ、リオが何かのお祈りを唱え、ニケが泣きながら獣人達の遺骸に土をかける。


 一方でそれが終わったリオは、今度は積み重なったドラゴラムの死体にもなにかのお祈りの言葉をかけた後、“ファイア”と呟き、数分後。

 死体は全て塵芥に帰し、こちらはアテネーと俺で穴を埋めにかかる。


 2箇所の穴を埋め終わり、俺が広場に水を撒く頃には夕暮れも終わりにさしかかる時間帯。

 リオが手際よく夕食の準備と、明日以降の保存食の前段取りまで済ませていた。




「おぉ、美味い!」

「でしょ? 私、お料理は得意っ!」

 リオは料理にだけは天賦の才があるようだ。

 但し。なにを使って作ったのか、その辺が実に不安ではあるのだが。


 数日ぶりの汁気。スープは実に美味い。まぁワイバーンだって美味かったので、材料は気にしないことにする。

 美味ければ、他を気にするなど無駄。むしろこの状況下においては、気にしたら負けだ。

 なぁに、“あたらなければ”どうということは無い……!



 村で一番大きな建物は村長の家。

 平屋だが天井には物見台まで付いている。多分有事の際の対策本部を兼ねるような使い方なんだろう。


 その村長の家で、夕食を食べながら簡単に今後の方針を決める。

「当分、僕が見張ります」

 ニケは掻き込むように食事を済ますと一人、物見台にあがっていった。


「三神将とか言う人が、村の真ん中に堂々と転移してきたお陰で、四十八時間。転移陣は半径0.3リーグ圏内には、使えないらしい」

【裕利君、1リーグって何メートル?】



 ――距離の単位、1リーグはほぼ3マイル。で、1マイルは約1.6キロ。メートル法ならコンマ1リーグが約一六〇m。なので、コンマ3リーグなら四八〇m。

 つまりは今居る場所から、半径約五〇〇m以内には転移が出来ないと言うことだ。



 ゲームをやらなきゃ知らなかった無駄知識。

 但し、それを知っているから余計な注釈無しで話が進む。

【直径にして約1キロ弱、……結構広いのね】


 ゲームに関わることなら大概知っているのは、リアルならムダ知識以外の何物でもないが、現状はあきらかに強み。

 人生、なにが幸いするかなんて。わかったもんじゃないな。



 そしてまたも、俺の知らない設定。

 転移陣。同じ場所では四八時間以内は、行き、帰り。各々一回ずつしか使えないらしい。かなり広い範囲で規制がかかる。


 当然。普通は戻ることまで考えて飛ぶのだから、どちらかが使えない場所には転移陣は展開しないはず。

 そして飛ぶ前にその“位置情報"は術を展開する魔道士、アイテムを使うものにはわかるらしい。


 確かに設定上そういう縛りが無いとすると。携帯型超短距離転移陣+アテネーの組み合わせで転移を繰り返されたら、誰も勝てなくなっちゃうもんな。




 ……となるとあの鎌女。この村が戦場になるのを見越して、わざわざ村の入り口に出てきた上で転移陣を展開したことにならないか?


 村のど真ん中に転移出来る余地を残したのではあるけれど。

 逆に言えばこちらの対処が容易いように、帝国側が転移陣を展開出来る範囲を絞った、と言うこともできる。


 何故なら今朝、襲撃を受けた時。鎌女が消えたのと反対方向から、帝国側が転移陣で奇襲をかけた、と言うのがニケの話でわかったから。

 そこと、鎌女の消えた位置を直径1キロの丸で囲めば。残りの平地は村の真ん中にしか無い。

 斬と名乗った男は、そこに出て来たお陰でニケに斬られずに転移で逃げ果せた。


 鎌女。彼女が何をしたいのか、敵なのか味方なのか。考えるほどにますます意味がわからない。

 とにかく今は物見台から見える範囲だけ警戒しておけばそれで良い、と言うことだけが事実だ



「それに転移陣は“コスト"が高く付くから、連発は出来ないだろうし」

「……そんな設定あったっけ?」

「せっ、てい……?」

「すまん、続けてくれ。――魔道士の消耗が激しい、とか?」


「うん。あの人数が帝国本国の王宮から直接飛ぶとして、陣の構築から発動、撤退分まで含めたら本来、法国魔導団さいこうクラス三,四人が全力で丸三日はかかると思うんだ」

 本国から直接飛んだ、と言うリオの話は多分正しいんだろう。

 今は農繁期、服装から見ても襲撃してきたのは正規の軍隊。


「メインで術を構築した人は、ほぼ二,三日。使いものにならなくなるくらいに消耗するんだよ。私が現象平面界に飛んだときは、魔導団長が一週間かけて超時空魔方陣を作ってくれたんだ」

 ゲームではアイテムや魔法で、結構お手軽に飛んでいたイメージだったが。


「あ、それと……。アイテムだって、作るのには当然それなりの手間暇と魔力、必要なんだからね。そうそう気軽には使えないよ?」

 なに考えてるか、丸わかりってことね。お前も亜里須も扱いづれぇ。

「あ、そう」


「インターバル無しで既に二往復してるんだから、更にもう一回って言うのは。魔力はともかく、いくら魔導帝国とは言え、魔道士が居ないと思うんだよね」

 どうやら転移陣を使った奇襲に関して言えば、ほぼ心配しなくて良いらしい。


「リオさん、言われた通りに出来たのだが。見てもらっても良いだろうか?」

 ベストを脱いでエプロンを着けたアテネーがキッチンから出てくる。


「何しろ料理というのは、知識だけはあるのだがやったことが無くて」

「今、行くね。焦げないで水分飛んでれば大丈夫。……んー、良いにおい! ちゃんとできてるよ、見なくてもわかる!」

 ホント、料理に関しては自信満々だな。


 ま、良いことだよ。うん。

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