地図の読めない女 Side : Yuri's buddy "Alice"
彼がゲーム世界に“行く”前の仕込みはもう一つ。
このフロアの図面をあえて印刷した紙に、赤いボールペンで○と矢印、数字が書いてある。
「これってこのフロアの図面、なんだよね?」
「……そうだね。この○はカメラ、っていうんだっけ? それの位置、かな? あ、矢印が映してる方向だね」
リオちゃんの言葉で、この図面が何を意味しているのかようやく分かった。
リオちゃんとフレぴょん、二人とも地図は普通に読める。
フロア平面図なんか。見ただけで自分の現在位置から主要な出入口まで把握できる、ってなもんだ。
うーん、典型的な地図が読めない女である私が、このパーティに同行してる意味は何だろう。
なんで私が裕利君とセットで呼ばれた?
ちょっと根源的なところまで考え込んでしまうところだが。
「ならば見るべき画面は絞られるな、あのエレベーターという機械が六台、階段が五箇所。各々今は扉が閉まっているから、動きがあればすぐわかる」
分割された画面は五〇以上あるが、そうなれば実際に見る画面はかなり絞られる。
エレベーターと階段が両方映ってる画面もある。
見るべき画面はさらに減る、という寸法だ。
ホント。彼はこう言うところ、そつがない。
「時にアリス。マイロードの書いた記号は画面の記号と符合しておるのよな?」
「数字、読める?」
「10種しかない、そのうえ数字だと知れれば造作もない」
「二人で留守番してるときに裕利に教えてもらったから、私も大丈夫」
この二人が数字を読むことができるから、あえてカメラの画面番号書いてったのかぁ。
なんか、リオちゃんが会議室班に来るとこまで考えてたフシもある。
ホントに周到なんだね、恐れ入りました。いやマジで。
「モリちゃんにコーヒー、もっていくけど。良い?」
「あぁ、そうしてやってくれ。口でどうこう言ってはいるが、見るだけで介入できない。というのは、かなり溜まるものがあるであろうよ」
「でも耳のヤツ、ヘッドホン? あれ取ったらこっちの声は聞こえるんだよね?」
「先ほどアリスと話している間、明らかに画面の中の動きが鈍った。本当に危機的状況ならむしろその手の介入はしにくいであろうな、とは思う」
いったん大部屋に出て、テストプレイのデスクの上、チョコバーやらポテチやらかき集めて戻る。
あっという間に大量のお菓子が手に入るんだけど。
ゲームをテストプレイするのにお菓子、こんなにいる?
それを会議室のテーブルの上においてチョコバー、グミの袋を持つと、フレぴょんがコーヒーを入れてくれていた。
もう一度テストルームへ。
「モリちゃんっ……!? なにか。あった、の?」
かなり硬い表情で脂汗を浮かべつつ、モニターを食い入るように見ている。
彼女のこんな顔はあからさまに珍しい。
「なにかどころではない、ホンモノの化け物が出てきた。アマゾネスのサマナーなど、聞いたこともない。だいたい、わたしはアマゾネスにだってあったことすらないぞ。ニケちゃんたち獣人とは角度の違う、対人戦闘を主にした生粋の戦闘種族だが。……あの強さはそれとも別物、だな」
「それは、……すごく強い感じなの?」
「姉御とニケちゃんが、マイスターの逃げる時間を作るために即座に死を覚悟した。それも、まるで時間稼ぎにすらならないのを理解したうえで、だ。――あの二人がコンビを組んで、まるで勝負にならないような、そんな相手が普通にいるなど。思ってもみなかった」
――ふぅ。ため息を一つつくと、持ってきたコーヒーに砂糖とミルクを三つづつ入れ、かき混ぜると。――くいっ、と半分くらいあおる様にして飲む。
「熱っつぅ……。とは言え、ハナから向こうに戦闘の意思が無かったのは幸いだった。ただし、何処かに連れていかれるらしい」
画面上はなんか、ぞろぞろと大人数が移動しているのが裕利君、ニケちゃん、アッちゃんの視点で表示されている。
字幕が次々表示され、裕利君視点に関しては、それを音声にしたものも流れているが。
命のやり取りをしようという感じではない。
モリちゃんから”アマゾネス“、と呼ばれた彼女以外は全員顔見知りのようだし。
何処かに連れて行かれるのだと言うが、連行されている風には全然見えない。
裕利君は斜に構えてやる気のない風を崩さずに。でも、どうでもいい会話が途切れないようにしつつ、いくらでも情報を引き出そうとしてる。
この辺は最近、何となくわかる。彼は彼でコミュ力は決して低くない。
ますます、私のここにいる意味。それを考えてしまうところだが。
「捕虜になった、とかではないんだよね?」
「一応カタチの上では招待された客人なのだそうだ。……マイスターにも考えがあるようだし、ならば展開をしばらく見るしかない。三〇分も歩けばアジトに到着すると言っていたしな。私もいったん、休憩でよかろう」
彼女はチョコバーを手に取ると、――ただ歩いているのを見ていてもな。そう言いつつ、何気なく包み紙を開けてかぶりつく。





