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長い名前の助太刀

 ひょう! と言う風切り音が聞こえると同時に斬の姿はかき消え、――ボッ! 俺を囲んでいたリザードマンの一体、その頭がいきなり破裂する。

「魔導の乗った弓だと!? 何者だっ!!」



 いつの間にか、一番後ろ。青い神職の服を着たダイノロイドの位置にまで後退した斬が叫ぶ。

 このスピードと破壊力で弓? 今のが? 有り得るのか!?

 しかもリザードマンって、皮膚も骨格も爬虫人ドラゴラムの中で一番固いんだぞ!?


 そしてそれを見切った斬の目と体捌きも、敵ながらあっぱれだ。

 名のあるエースプレイヤーと言うのは嘘じゃ無いんだろう。

 ……俺は知らないんだけど。


 

「ダークエルフ、パロアムティルネントエミイースプホゥル・サベイヤレルファ! 儀によりて、これより獣人の少女に助太刀するものなり! 不意打ちの奴隷狩りにて我が故郷を滅ぼした帝国の雑兵ぞうひょうども! 卑怯者の末路がどうなるか、その身をもって知ってもらう! ……覚悟せよっ!」


 良く響く女性の声が名乗りを上げるが、姿は見えない。


「ダークエルフっ!」

「先日の村の生き残りか?」

「サベイヤレルファだと? 吹きやがって!」

「獣人どもと結託していたか!」



 どうやらこいつ等は帝国の奴隷狩り部隊で確定らしいが。

 だが、なんでこのタイミングに連続で奴隷狩りなんかやってるんだ?

 農繁期は人が集まらないのは、帝国だって同じはず。

 しかも国境線付近では無く、法国領内深くで……。



 長い名前のダークエルフ。姿の見えない彼女が名乗り終わった次の瞬間。

 もう矢の飛んでくる音とそして斬の舌打ちが聞こえ、


 ――ぼっ!

 法衣のダイノロイドの左肩から胸にかけて丸く無くなる。

 ケープは後ろに吹き飛び、杖を握ったままの腕が落ち、身体はそのまま地面に崩れ落ちる。

 当然、斬の姿は既にそこには無い。



「うごぉおおおおおおおお!!」

 カラカラ、カカカカッカッカッカ……!

「ザン様! 回避を!」


 魔法の妨害が無くなり、目で捕らえきれない勢いで立ち上がったニケは、大地を踏みしめた足で比喩で無く、どおぉん! と言う音を上げ。

 土埃を上げつつ斧を引きずって猛ダッシュ。一気に敵との距離をつめる。


「だあぁああああああああ!」

 斬がまたしてもその場からかき消えた、次の瞬間。

 巨大な斧の一振り、その動きに対応出来なかったダイノロイドとリザードマン、三人まとめて上半身と下半身を切り離され、直立したままの下半身が噴水のように血を吹き出す。 


「閣下! 我らに構わずここは撤退を!!」

「くそったれっ! ……ラビットビル! 本物だとして言っておく! 次に出会ったときには、殺すっ! 必ずだっ!!」

 カーン! 転移陣の青い光の柱が立ち斬を包む。



 ニケの大斧が斬の首を跳ねた、と見えた瞬間。青い光は消え失せ、盛大に空振り、バランスを崩して。握ったバトルアックスごと、明後日の方向に吹き飛んで行く。


 そこに追い打ちをかけようとしたリザードマンが、背中に魔力の乗った弓の直撃を受けて胸の真ん中に巨大な穴を開け、そのまま前へと倒れた。

 一人残ったダイノロイドは、動かずにダッシュで戻ってくるニケを正面で迎え撃つ。


 ニケは走り込んで一気に距離を詰めると、大斧を振り上げ、一五〇キロ以上ある巨大な刃、それの取り付いた鋼鉄の棒を竹のようにしならせながら。

 走る勢いも乗せて踏み込み、物理法則を無視したスピードで力任せに振り下ろす。


「はぁあああああああ!」

「させるかぁあああっ!」

 獣人のパワーを受け止める様に鍛えられた大斧は、シールドにそのまま振り下ろされた。


 一方のダイノロイドも見事としか言いようのない体捌きで、頭上に落ちてきたバトルアックスを巨大なシールドで受け止め、次の一手。そこでニケを上下二つに両断する準備が出来ていた。

 先の後、ってヤツか! ……本物の戦士だ。


 ……だが。

 ニケの、獣人の常識をはるかに超えるパワーを受けたシールドは、ガラス細工よろしく粉々に砕かれ斧はそのまま頭を通過、勢いそのままに体ごと二つに斬り裂いて。刃先どころか本体がほぼ全部、地面にめり込んだところでようやく止まる。


 ダイノロイドだった残骸が。血しぶきを上げながら。どぅ、と。左右に倒れた。

 七人の敵を事実上二人だけで、俺達三人のお荷物も護りながら。

 一瞬にして屠ってしまったことになる。


「ふっ、ふっ、ふぅっ、ふぅうう……。お姉ちゃん、仇は半分取ったよ」



 

「戦士の身のこなしでは無いが、その体捌き見事なり、と言わせてもらう。獣人の少女」

 俺よりちょっと高い背丈、浅黒い肌にスラリとした身体つきの女性が弓を背負い、右手にはサーベルを持って近づいてくる。


「そしてよもやこんな田舎に、中央の巫女様がおいでになっているとは存じませんでしたが、馳せ参じるのが遅れ、言い訳の次第もございません。お怪我なぞ、ありませんでしたでしょうか」


「私のことは別に。……その、あなたは」

「パロアムティルネントエミイースプホゥル・サベイヤレルファ、見ての通りのダークエルフにございます。人族では呼び辛い長い名でございましょうから、私の事はアテネーとお呼び下さい」



【確かに長い名前ではあるけれど、問題はそこでは無く。その名前の何処をどう略せばアテネーの要素に行き当たるのか、私はそこがとても気になるのだけれど】

「亜里須、黙ってろよ? 話が前に進まねぇ」

 ……わからんではないけどな。俺だって突っ込みたいの我慢してるんだっての!



「ダークエルフのアテネー・サベイヤレルファさん、ですね? 助けて頂きありがとうございます。私は王都中央大神殿の拝殿巫女見習い、リオンデュール・カニュラケイノスと言います。リオで良いです」

「ありがとうございました。僕はこの村の最後の生き残り。ニケ・バラントです」


「ニケさん、で良いのかな? 最後では無い。奴隷として連れて行かれようが、まだ村の皆さんは生きている。そう信じよう。でないと私も……」


 碧の黒髪、では無くて言葉通りに黒緑。ダークグリーンなのに透明感のある髪。ショートなのかと思ったが頭の後ろで結ってあるらしい。

 そしてエルフと言えば特徴的なとがった耳。それはあまり目立たない。

「巫女様。なにか私でお手伝いの出来る事があれば、何なりとお申し付けを」




【裕利君は、この世界に関しての知識はあるものとして質問するのだけれど、ダークエルフというのはなにかを企んだり、腹黒かったりする種族なのかしら?】


「あぁ、無い無い。普通のエルフは森に住んでるけれど、彼らは草原に住んでるから日に焼けてる、くらいの感じなんだよ。耳がとがってるとか狩りが上手いとか、その辺は両方ともイメージ通りかな。草原で狩りをする都合上、若干普通のエルフより罠の扱いが上手い人が多い、みたいな」


【魔法が得意で帝国の魔王に近いとか……】

「魔法は得意な種族だけれどね。――ん? なにを言いたいかって? 例えば法国の巫女であるリオが普通に魔法を使っているんだけど、……その辺、どうよ?」


「うん、……ロマンが、ね? ……無いよ」

「要るのか? そう言うロマン……。まぁ種族的にダークエルフだと、闇魔法やその上位にあたる暗黒魔法は得意な人が多いけど。でもきっと、お前のロマンはかなえられないな」


 ここ数日で思い知った。

 ロマンでは腹は膨れないのだ。

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