実力差
「おとしまえってなんだよ! 俺が何をしたってんだ!」
「お前が謎のスライムを放流したのはわかってんの! 全部で一二六人が、そのスライムを殺したおかげで引継ぎイベント、クリア扱いになってんのよ!」
意外にも多くの人が助かってた。
あのスライムのお陰で、パーティやクランごとクリア扱いになった人が多かったみたいだ。
でも文句を言われる筋合いでは無い気がするんだが?
「良いことじゃないか!」
「VRの世界から帰れなくなるのは、それは良くないことではござんせんか?」
……それは俺のせいじゃないんだけど。
でもまぁ、スライムのイタズラを仕掛けたのがバレてたなら。俺のせいに見えなくもない。
実際は俺も出られなくなりかけたんだし。
「帰れないのは俺のせいじゃねぇよ!」
「問答無用! この場で千六本に切り刻む、覚悟しろ!」
いや、あんたもたまには人の話聞けよ!
それに関しては俺は無実だっての!
相変わらず人の話を聞かないヤツだ。だからバーサーカーなんて呼ばれるんだろ……。
「紫陽花さん。それは素直に困りんす、殺さず捕まえてくれなんし」
「確かに生け捕りだって言ってたわね。迂闊に殺してはダメよ、紫陽花ねぇ様」
「ちっ、ふざけた話だ!」
「ふざけてんのはお前らだっ!!」
ん? ……生け捕りだと言っていた?
誰かが俺を捕まえようとしてるってこと?
俺でさえここに来ること自体、自分でわかってなかったのに。
事前に俺を生け捕りにする指示が出てる、だと……?
「主殿、今後のこともあるかと思ったので、ぜひ聞いておきたいのだが」
で、ここでツッコんでくるのか、ウチの侍従長様は。
「彼女らは主殿の知り合いか?」
「顔見知り、ってとこだな」
なんかやたらに目が座って、めっちゃ怖いんだけど。
いつもより若干おっとりした見た目になので、アホ毛も相まってむしろ怖さ倍増。
「いきなり殺しに来る顔見知り、な。物騒な話だが。……あのお嬢さん方がどなたで、主殿とは過去に何があったのか。侍従としては是非、聞いておかないといけないと思うのだ。――なにしろ、“失礼”があってはいけないからな」
「アイツらにも言った、俺は関係ねぇ!」
「過去、彼女らに一体何をしたのだ? 謝って済むことなら私も一緒に謝罪しよう」
「何もしてねぇわっ!」
「ユーリ? あの変った服の綺麗な人たち。……だぁれ?」
来ると思った。この流れなら、もちろん来ると思ってたさ……!
顔はいつもと違って至極真面目で。
耳としっぽがピンと立って、大きな目の瞳孔が全開になっちゃってるけど。
ケンカ売られたから戦闘態勢を取っただけで、俺に怒ってるわけじゃないよね……。
「あの。なんか怒ってるっすか? ニケさん」
「ボクも自分でよくわかんないんだけど、なんか。話ししてるユーリを見たらイラっとした……!」
……なんで俺が責められる流れに!?
おかしいだろ! 毎回々々……!!
「あぁ、おほん。――二人とも、状況は後で説明する。……あの三人は殺さず、逆にこちらの捕虜にしたい。行けるか?」
腕やレベルの差はあるんだけれど、流石に三対一はキツイ。
できなくはないと思うが、おれがやるならお互い無傷に。と言うわけにはいかない。
こいつらだってオーバーロールランキングに普通に顔を出す強者だ。
かたやこの二人はぶっちゃけ、イベント用の超級NPCなわけで。
彼女らに後れを取ったりすること自体があり得ない、と思うんだけど。
「命令には従うのだが、……流石にこのサーベルでは無傷は厳しいかもしれないぞ」
「ボクも壊れた石のこん棒、持ってくればよかった……」
いや、まてまて。そんなにか!?
そこまで強くなかったはずだぞ、こいつら!
「あんたさ、女の子に戦わせる気なわけ? どこまでクズなのよ!」
「某に刃を向けるなら、見てくれが子供であろうと容赦できんぞ?」
「やめておくんなんし。わっちらは、その男以外には用はありんせん」
「カタナとヤリはボクが、姉さまは奥のタバコ吸ってる暗器使いを!」
「あぁ、心得た。飛び道具を使うなら私の方がいいだろう。あの二人も、魔導の気配はないが十分注意を。特にあの槍使いは何を考えているのか読めん、危険だ」
なんだかんだで、戦力の分析はきちんとできてんのね。
さすがは超級キャラ。
「自分は出て来ないの!? この卑怯者ぉ!!」
「覚悟あり、か、良かろう。三枚におろしてくれるからそこになおれ……!」
「静謐に解決ができんせんこと、まっこと残念至極でありんす」





