野盗の根城
帝国側のセーフゾーン。法国側のセーフゾーンとはワープトンネルでつながっているはず。
500人以上ログインしてるって書いてあったし、だったら”ログインしてる人たち“はそこにいるはず。
「モンスターはめっきり減ったようだが、タングストの廃鉱山跡に野盗が根城を構えたようでな。近隣の村で畑を荒らされたり、食料を強奪される案件が立て続けに起こってる。しかもかなり腕が立つときた」
あたり、だな。
状況がわかんないからセーフゾーンからあまり離れられないんだろう。
その近所でモンスターがやたらに減ったのも。狩られて、食料にされてるのかも、だ。
「なにしろこの状態だろ? 辺境伯軍もウチも討伐隊を出せなくて困ってるんだが。……行ってくれるのか?」
「用事があって見に行くだけだ。別に討伐なんかしないぞ?」
五〇〇人以上居るのがわかってて討伐目的に行くわけないよな。
居るのが雑魚だけだとしてもこちらは三人、多勢に無勢。絶対に負ける。
「そこは、――任せろ! とか言えよ」
「命がけでただ働きするほどの余裕は無い」
「なにか儲け話があるとでも言うつもりか?」
「まぁその辺は何とでも」
ただ、レスキューだとして。
どうやってその人数を救ったらいいんだろ……。
「で? おっちゃん。ここから何リーグくらいあるんだ?」
「それを聞いてどうする?」
「さっきからあそこに行きたいって言ってんだろ。……転移の魔法陣、あるなら売ってくれ。金は払う」
なにしろ、間違いなく五、〇〇〇はあるんだ。一人用長距離転移陣なら、五つ買っても普通ならまだおつりがくる。
「いまここで金をもらってもな……。さっきのコウモリ退治の報酬ってことで良い。川のこともあるし、報酬としてはまだ足らんくらいだ、そっちは貸しにしといてくれ。――ギルドの倉庫に、5人用中距離の在庫が結構あるはずだ。探し出してまだ使えるかどうか、魔導士のじいさんにみせなきゃならん。時間は大丈夫か?」
NPC達は時間を結構気にする。
2時間タイマーのことがあるからだ。
迂闊に、――半日後に会おうぜ。みたいな約束は彼らの側からはしないし、できない。
彼らの生活はずっと続くが、プレイヤーはどうやったってリアルの2時間で強制ログアウトになり、最短でもその後のクールタイムを挟んでの再ログインになる。
事情によってはその日のうちには再ログインできない、しない。なんてことも普通にある。
間違いなく約束の時間に会えるかどうかわからない以上。
ゲーム上とは言え、時限イベント以外では、プレイヤーにログインを強制するわけにはいかない。という事情があるのだ。
当然、そんなことは彼らの側として意識はしてないだろうけど。
約束を破らせることになっちゃうのはマズい。
あたりまえだが、ゲームの世界の住人が2時間タイマーを意識した発言をすることはない。
結局、長時間の約束はあいまいになりがちだし、そもそも普段はそういう話自体がほとんど出ない。
つまりおっちゃんのこの発言。
在庫の確認作業は、リアル時間で一時間以上かかりそうだ。ということなんだろうな。
でも、その辺は通常そんな時間がかかる作業じゃないはず。
……サーバーがフルに動いていないから演算に時間がかかる。ということか?
ステータスコンソールを呼び出してみる。
タイマー表示のカウントダウンは
【Last=119:90 losstime+10sec】
から動いていないし、ログアウトボタンもない。
法律タイマーは効かない。とすれば、2時間縛りはないと見ていいだろう。
多少時間がかかっても、そこは問題にはならない。
ログアウトボタンも、見えないだけでどこにあるかは知ってる。
「いいさ、この辺にいる。……使えるなら全部とは言わん、いくつかくれ」





