天の声
【……あの、ゆうりくん、聞こえてる? ホントに……、大丈夫?】
いきなり耳元に亜里須の声が聞こえる。
つまり俺は”飲まれてない“みたいだ。
「あぁ、大丈夫みたいだな。そっちから俺はどう見えてる?」
【……本人は椅子に座って普通にVRゲームしてる人。ゲーム内ではモニター見る限り……、普通に門番の人と話してるけど、私の認識って、両方。あってるかな?】
「オーケーだ。アテネ―とニケはこれから合流する。ログアウトのやり方には心当たりがあるから、たぶん二人とも何とかなる。こっから先はみんな予定通りでいいぞ」
【なら、……私とフレぴょんはあっちの部屋に行くね?】
「おぉ、頼むわ」
【えーと。……どのくらい、ゲームの中に居る予定?】
「法律的には2時間で強制ログアウトのはずだけど、5時間たってもまだいるようなら声をかけてくれ」
【おっけー、わかった】
「天の声、か……」
おっさんが不安そうにこちらを見ている。
リアル側と会話をしてるとなんか独り言を言ってる人っぽくなる。
それを称して、NPC達は”天の声“と呼んでいるわけだ。
それはプレーヤーキャラ、つまりは結構な戦闘力、もしくは素質を持ったキャラしかやらないから、NPCから見ると神が強者を守護してる。なんて言われる。
実際は『ご飯だよ~』とか『早く寝なさい!』みたいなことが多いんだけど。
……改めてそう考えると、妹や母さんから守護はされてるのか。
「お前は適当にやっておけとさ。……まずは仲間と合流しようかな」
「いい加減なのか大人物なのか、相変わらず判断に苦しむな。……なにか言ってたか? 聞こえるやつとはグレーイング以来、合ったことがねぇんだ」
ゲーム内の時間の流れは通常よりも2倍強ほど早い。
亜里須とのやり取りと違って、おっちゃんとの会話も、実際に俺の口で話したわけじゃない。
つまりは全部考えただけで動いてるから、多少早くても問題がない、……らしい。
ゲームには詳しいけど、根幹的な技術はよく知らないから、ホント。
いずれにしろ。
ここがログイン再スタートの街、としては帝国側で一番、利用者が多いわけで。
グレイング発動からリアルなら約10日、ゲーム内時間で20日強、俺以外の”プレーヤー“とは誰とも会っていない、と言うなら。
新規ログインはあれ以降、したものがいない。と言い切ってもいいんじゃないだろうか。
「ま、そうだな。あんたらにとって今回の俺は、意外と救いの神になるかも、だぜ?」
「そうなってくれると助かるよ、正直な話をすれば、今のお前さんが敵か味方かすらわからんのだからな」
どちらの勢力にもつかないが、本拠地は法国にある傭兵。
ラビットビルは今でもそういう認識なんだろうな。
「ずっと言ってるじゃねぇか。俺の立場はここ一年ちょっと、一貫して神の敵。だよ」
「……なら、天の声は誰がしゃべってる、ってんだ」
一般的には、天の声は神のみ使いが話している、と言われてるらしい。
「さっきなら、しゃべってたのはコミュ障だったが?」
「なんだよそれは……」





