帝国軍最精鋭
ガラガシャン……!。
飛び出したニケが、バトルアックスを手放して顔面からばったり倒れ。
カラン、カラカラカラーン……。
続いてリオも槍を取り落として膝をつき、頭を押さえてうずくまる。
「ほぉ。魔導耐性も無しにノーガードで前に出てくるとは恐れ入る、捕まえてくれと言わんばかりでは無いか。獣人のインコンプリーツに法国の魔導巫女か。両方、マニアには高く売れそうだ……」
開いた右手をかざしながらゆっくりと、青い服に白い法衣、黒いケープを纏ったダイノロイドが姿を現す。
服装を見れば色は違うがリオと同じく、帝国に所属するフェリシニア信教の神職。
リオの巫女に対して男の場合は導士と言われる。
さらに同じく黒いケープ。
ダイノロイドの魔導導士! こんな手強そうなヤツが……!
「自分で出てくるとなれば、わざわざ閣下にお出まし願うことも無かったものを」
やはり封印はバレていて。
ドラゴラム以外の誰かを連れて来たらしい。
「なんて強力な魔力を。……うぅ、ニケ、ちゃん! 無理、……しないで!」
「がぁ……! はぅあ……! ……うぅうううう! がふぅ!」
ニケは顔面を強打して、額を割り鼻血を流しつつ、力を奪われてもなお立ち上がろうとして、結果。白目を剥いて涎を垂らしてのたうち回っている。
「強制魔封じと能力封印のみに特化しているのでね。魔導反射を使えるものが居れば途端に役立たずなのだが。クックック……。取り押さえよ。後ろの女も傷を付けるな? 属性が今ひとつ見えん。――どうやら人の括りでも珍しい種類のようだ、陛下に献上することとする。男も一応連れて行く」
「ははっ!」
――くそっ、リフレクタなら魔法レベルが低くてもデフォで使える技だ。
多分俺でも威力を半減する程度のことは出来るはず。
おかしな条件封印が無ければ。それなら俺だって簡単に展開出来るのに!
エラそうに喋る青い導師の服を着たダイノロイドの命令に従い、正規兵を示すくすんだ赤の上着を見に纏ったダイノロイドとリザードマン達が、俺達を取り囲む。
――何も出来ないのか、救世主なのに!
――っ!
感じたのは気配、と言うヤツだ。
そしてむやみに速い。……後ろ、じゃない! 前にまわった!?
「インコンプリーツを回収に来てみれば、どうなっている。……ふむ。気にくわないツラだ。しかも学ランにセーラー服ってなんだ? 全く。……名乗れ」
目の覚めるような真っ赤な上下揃いの軍服に、金のモール。
いきなり前触れも無く目の前に現れたその男は、無遠慮に俺の顔をのぞき込む。
……学生服に反応した? と言うことは、この男も転移者だと言う事か。
ならば、向こうの世界がどうなっているのかわからないが、本名を名乗るのは絶対に不味い。
今時、学ランとセーラー服である以上、人によっては服装だけで学校名はあっさり割れる。
俺の襟に付いている校章は見えないかも知れないが、亜里須の胸当て(?)の部分にもやはり校章の刺繍がある。
リアルで二十三区内に住んでいれば。学校名は制服だけでバレる可能性が高い。
「漫画だろうとアニメだろうと、名乗れというなら先に名乗れ。って言われるシステムになってんだろ、普通。アニメも漫画も見ないヤツか? あんた。……小説とかも読まねぇの?」
目一杯虚勢を張ってはみるけれど。
リザードマン三人に囲まれているし武器も無い上、ヤツらは俺の手の届かないギリギリの距離を保っている。手の出し様は初めから無い。
「……ビビらせるようで悪いがな、帝国筆頭騎士、刹那斬だ。今は皇帝三神将が一人でもある」
「……ゴメン、知らん名前だ」
「ちっ! ……そ、そちらも名乗ってもらおうか」
「と……!」
「と?」
珍しいことに、亜里須が一歩。前に踏み出して正面から斬を名乗った男を睨む。
「と、遠い異界の空の下より、みんなをいじめる悪人を、叩いてつぶして平たくするため、わざわざ私が来てあげたのよっ! ……っ、チェぃンジ、プリティっ! 夢も希望も平和も愛も、欲しいんだったら誰かにあげる! 今の私に必要なのは、あなたを倒した経験値っ! 天界第四の翼! び、美少女魔法天使、マジカル☆アリスぅ、けんっ! ざんっ! しゃきーん!」
喋るのは苦手なはずの亜里須が、真っ赤になりながら、MPを吸い取られそうなおかしな振り付きで、変身の口上と、効果音付で最後の横ピースの決めポーズまでやって見せた。
冬にやってたポンコツ魔法少女の深夜アニメ、お前も見てたのか……。
男が、その口上とおかしな変身ポーズを見て気色ばむ。
「まほてん☆アリス、だとぉ。き、貴様らぁ……!」
そして男もどうやらアニメを知っていた。
主人公の名前がアリスで変身前は地味なセーラー服。
変身して、丈の短い白とピンクのセーラー服になったりはしなかったが、変身の口上、パフォーマンスからキメポーズまで。亜里須は全て完全にやってのけた。
流石はスキル超記憶持ち!
そして意味も無く毎回戦いに巻き込まれる相棒は、いつでも学生服。
これで俺の学ランも、彼女の着るセーラー服もコスプレ疑惑が付いた。
どうやら亜里須も俺と同じ危険に感づいたんだろう。
しかも喋るのに苦手なくせに、やるじゃんか!
「ふざけてんじゃねぇ! 名乗るんじゃ無かったのか!!」
「ふん、自分でハンドルを名乗っておいて本名を名乗れとかさぁ、だいぶ虫が良い話だとか自分で思わねぇの、あんた。……微妙に情報引き出して現実世界に干渉してくるヤツ、ってタマに居るんだよなぁ。どう思う? アリス」
「ぅっわぁ、サイァク。……なに、それ。キモっ。マジ、無理……っ!」
単語で喋るのは普通通り、なんだけど。
なんだろうこれ。俺までイラッとくるんだけど。
「て、てめぇ。……今度こそ、名乗ってもらおうか」
……名前の他には武器らしい武器も無い事だし。これで引いてくれると有り難い。
そもそもハンドルが有名人なんだよ、俺は。さぁ、ビビってもらおうか。
「元、慎ましき凡人の団、頭首! 現在は無職のラビットビルだ!」
「た、例え偽物だとしても……。その名を俺の前で口にして、無事で済むと思うなよ……!」
……あれ、逆効果?
そんなに恨まれることって無いはずだけど。――お前、もしかして運営側っ!?
「元英雄のくせに、チートでフラフラとぉっ! ……貴様だけはこの手でっ!!」
斬は腰にぶら下がっていた剣を抜き手も見せずに抜刀。それと同時に切りつけてこようとする。……居合いの類か!?
何故か目は付いていけているのだが、身体が全く動かない。
あ、間違い無く切られるな。これ……。





