いつも通りの世界 Side : Country of Regulations
「それこそ、神ならぬぼくが決めるわけではないですし。……それにぼくだって、まるで考えていない。と言ったらウソになりますからね」
「あぁ。そうか、ユーリ殿。……君の心配の一番はそうであったな」
「お兄様を心配しようがそんなものは杞憂、時間の無駄。ぼく如きでは、何をしようが、プラスどころかマイナスにさえなりはしない。頭ではわかっては居るのですが……」
「まぁ、私たちが勝手に心配をしている分には良いだろう。自分の仕事に支障を来さない範囲であれば、な」
この人もまた、救世主様の侍従の列に加わりたかった人の一人。
アリスさんのあまりの高潔さに心を打たれ、どうしてもお側でお守りしたい。必要なら巫女も辞める。とメルカ様の前で言い切った。
アリス様もお兄様と同じく、普通にしているだけで人を魅了する。そんな魅力をお持ちだ、とは思う。
その後、メルカ様はもちろん、教皇様から直接諭されることになり。それは諦めざるをえなくなった。と言う経緯がある。
アリスさんからも、――法国の無辜の民を守って欲しい。と言われたと聞く。
ぼくと違って、実力として十分以上。単純に流れが悪かっただけのようにも思える。
流れが悪くて中央騎士団長になる。と言うのも、この人くらいのものだろうけど
「大導士様、ご無礼。――アビリィ閣下、よろしいでしょうか」
中央騎士団の鎧がぼくに一礼してリズさんの隣に立つ。
「以前にも言いました、同じ騎士団の仲間なのです。意思疎通の邪魔にしかなりません、閣下などとは呼ばないように。……どうかしましたか?」
「は、失礼を。――白騎士様がお伝えしたいことがあるので、団長に来て頂けるように、とのことでした」
「わかりました。ここは任せても良ろしいのですね?」
「は、この場は私にお任せを。すぐに交代もまいります」
「それならばもう一つお願いする。交代後で良い。彼、レイジ・イースト大導士の、このフロアでの移動の自由を関係各員に通達して下さい。フロア内の移動まで制限されると、彼は立場的に少々困ってしまうでしょう」
そう言う意味では別に困らない。
気を効かせてくれたようだ。そういう所は相変わらずリズさんだった。
「ははっ! 交代後、そちらも間違い無く」
「頼みます。――ではな、レイジくん。……アリィ様方に関しては常識などハナから通じぬ。さっきキミが自身で言ったとおり、考えるだけ時間の無駄、無意味だ。いずれあと二時間と少しでお帰りになる、それだけが事実だからな」
「リズさんは、何故そんなに泰然としていられるのです?」
「お戻りになる、と言った以上は戻られる。あの方々は間違いなくそうなるのだ。……ならば、まずは戻られる場所を死守する。それが今の私の勤めだからな。――むしろ、その間のお役目を振られなかった君の方がツラかろうさ」
お戻りになった時に、お世話が万端にできるよう体調を整える。
ぼくらに今、求められるのはこれだけで。
リズさんが言うように、何もすることがない。というのはとても困るのだった。
「団長?」
「あぁ、すぐ向かう。……白騎士殿、ハイアット卿はどこにおられるか」
扉を開け、バルコニーに出る。
そこには、お兄様がこの世界に居ないことなど関係ない。と言わんばかりに。
いつも通りのランドの景色が広がっていた。
次回は裕利達のタワー探索ですがここで章変り、となります。
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