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歪んだ愛のカタチ

「……でも、入ってはこなかった?」

「気配はあったけれど、――うん。入ってこなかった」

 そして外に居たドラゴラムは首狩り鎌の女に一掃された。

 ……うん。わけがわからんと言うのはわかった。



「リオ、なんでだと思う?」

「……奴隷に出来るのは当たり前だけど元気な人。だったら村の一大事に、家に籠もって寝てる人は、要らないよね?」


「考え方ではあるけどなぁ。――インコンプリーツは奴隷としてはどうなんだ?」

「奴隷なら最上級だね。何やらせても優秀だし見た目も美形ぞろい、そもそも探したって普通は居ないからね」



「……それ、初めから。……初めから、知っていた、なら」

「なんだ? 亜里須」

「……インコンプリーツは、珍しい、優秀、可愛い、強い。……でも、防衛戦。これには、出て。こない」


 ぴゅい!

【封印されたインコンプリーツが居る。そしてその封印の解除条件。初めからそれらを知っていたならば。わざわざ攻略条件を難しくしないでそのまま残しておく。という手は有り、だとおもうの】


 さらに着信音。

 字数制限に引っかかる様な長文を、どんだけ早くうつんだよ!


【殺さないで生け捕りにすれば洗脳みたいな技術は当然あるのでしょう? だったら私達のように封印解除を発動させない、“人間”を連れてくれば良いのだもの。ニケちゃんが魔法に弱いところまでモロバレとしたならば、だったら私ならそうする】


「わざとニケの居る小屋を残した、と?」

 亜里須は俺の顔を見て頷く。



【一応、思いつきだから自信なんか無いわよ? と言っておくけれど。でも、わざわざ奴隷狩りに来るのであれば高価なもの、貴重なもの、希少なもの、綺麗なもの、使えるもの。そう言うのを狩りたいでしょ?】


【インコンプリーツが居ることを知っていたからこそ、リスクを冒してまでこの村が狙われたのでは? さっき、王都からさして距離はないのだと、そう言っていたわよね?】



 初めからニケの存在を知っていたら、か……。


【そして特殊な封印の存在を知っていたからこそ、この小屋が残されたのでは? もしくはドラゴラム以外がこの扉を開けるまで、待っていたのかも知れない。カマ女が掃除した、と言ったのはその、待っていた連中のことで】



 鎌女は確かに掃除をした、と言った。

 わざわざ手間をかけて“掃除”をすると言うなら。

 当然。それに見合う理由があるはず、だな。



【そして彼女が私達に期待したのは、ニケちゃんを助け出してここから“逃げる”ことだったとしたら……】


「つまり、別働隊がドラゴラム以外を連れて戻って来る可能性がある、と言う様なことを言いたいのか?」

 亜里須が珍しく、意思を伝える様に強く頷く。


「……ゆうり、くん?」

「あぁ、わかった。考える前にまず逃げよう。――リオ、この辺に村とは言わない、身を隠せるような森かなんかあるか?」

「……川の船着き場まではずっと草原、山の入り口の森も、そこまで草原が二日続くんだけど」


「止まらずに森まで歩く。まだ燻製ワイバーンはあるよな?」

「四人だとギリギリ一日分だよ?」

「二日持たせよう。水汲んだらすぐ行くぞ。――ニケ、立てるか?」

「……ユーリ、さん?」


 

「さんなんか要らない。ユーリで良い。ニケには悪いがこのまま行く。――リオ、どっちだ!」

 ドアを開け、後ろでニケが息をのむ気配を感じるが無視する。

「ユーリ、向こうだよ。――うん。いくらか力が戻ったから、私はニケさんに簡単な治療を。アリス、お水汲んで」


 せめてなにか。足元にあったナイフを拾おうとするが。

「……おもっ!」

「僕ら獣人やリザードマンなんかの使う武器は重さもだいじなんだ。人族じゃ持つのも大変だよ。それも多分三〇キロはある」

「……俺には使えないな、そもそも持ち上がらねぇ」




「あれ、私の魔法で綺麗に治った……? なんで!!」

 あぁ、リオには言ってなかったな。――魔導耐性ゼロだ、その子。

「ふーん。ユーリそう言うのもわかるんだ、凄いね。……って、えぇえ? ゼロって、耐性皆無ってこと!?」

「他にどんなゼロがあるんだ? ――ニケ、調子はどうだ?」 


「血も止まったし、もう痛くない。なんか身体も軽くなった! ありがとうございます、リオさん」

「むぅ、……まぁいいや。簡単に食べ物見繕ってくる。ユーリ、この子と一緒に五分だけ待ってて!」


 ガシャガシャン……。

 振り返ると、ニケの背丈よりも長いバトルアックスを握りしめたまま倒れた獣人の女性のわきにしゃがみ込むニケ。


 バトルアックスを握りしめたその女性の指を、そっと一本づつ、ニケが開いているところだった。

「お姉ちゃん、借りるね? 中央の巫女様と救世主様、僕が絶対守るから……!」


 亜里須と違って、死体そのものにはそこまで忌避感はないらしい。

 ゲームの設定として獣人は基本的には戦闘種族。

 戦士や軍人へと志願するものも多い。死体や戦闘はそこまで埒外の存在では無いんだろう。



 ニケが何気なくバトルアックスを持ち上げたところで、戻ってきたリオが驚いた顔で声をかける。

「ニケちゃん! なにそれっ!? どう見ても一〇〇キロ以上あるんだけど!?」


 ニケはリオに微笑むと、それを軽々と振り回してみせる。

 あからさまに重い頭を振り回してなお、それが取り付いた柄の部分もしなる気配さえ無い。


「多分、頭だけで一五〇キロ前後あると思う。……僕は莫迦ばかだけれどその分、力だけはあるから」

 クソ重い斧に、それを取り付けて見合うだけの鋼鉄の棒が柄になっている。

 ……全部で何キロあるんだ、あれ。



「ゴメン。日持ちしそうなのは、ほとんど無かった。ついでに備蓄の穀物も、馬や豚の家畜まで。全部丸ごと持って行かれたみたい。……やってることは軍じゃなくて盗賊だよ!」

「……りおちゃん、ゆうりくん。……お水、汲んだ」


 袋を手に持ったリオと、水の革袋を持った亜里須が戻る。

「あぁわかった。なら急いで出発の、……っ!」


 ――っ!? なんの音だ……!


 今度は俺以外に、ニケも反応した。

「今の、ニケも聞こえたな? 足音、――か?」

「7,8人、赤い屋根の建物の裏、一〇〇m!」

 がしゃんっ! ニケは巨大なバトルアックスを無造作に片手で振りかぶる。


「ゆうりくん、……ニオイ」

「はい! そうです、ダイノロイドとリザードマンの臭いがしますっ……!」

 聴覚も、嗅覚も。彼女は動物のそれだ。俺や亜里須が敵うわけが無い。


 ――僕がココまで気がつけないなんて! ニケが呟いてアックスの柄を両手で握ると同時に、ネコ耳がぴんと立ち髪の毛がぶわっと逆立つ。

「多分転移陣だよ、だから気が付けなかったんだ! だって、今まで居なかったんだから! ……ゴメンね、私も魔導を検知できなかった!」


 元々魔道士としてはそんなに優秀なわけでは無い、その上かなり疲労している。

 リオを責めるわけには行かない。


「ニケ、もう逃げても、……間に合わないか?」

「……うん。建物の両側から来るから死角も無い! みんな、僕の後ろに!」

 チャカ。ニケは不釣り合いに巨大なバトルアックスを構えて腰を落とす。

 リオも槍を構え、穂先に火がともる。


「先手必勝! アタマになってるヤツを潰せばお終い! リオさんも戦いは得意じゃ無いでしょ? ぼくが先陣を切るっ!」

 純粋では無いしろ、戦闘種族の血を継いだ少女。それがニケだった。

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