すうすうするバスタイム
「ところでマイロード。アリスとニケは湯浴みから戻ってのち。すぐに寝ても良いのでは無いか?」
「寝るならかなり早くないか? でもそうなら時間的には八時間、眠れるのか……」
今日の監視係、一番最後。と言うか早朝が亜里須とニケになった。
何故かというと一番最初が、この真っ赤な髪と金髪の(現代基準の見た目が)ヤンキーコンビになったから。
今、モリガンが水を注いで、バーナーの火を調整してるこの実験器具。これの実験があるからだ。
今、休憩所のキッチンで洗い物をしてる大巫女様。
彼女は今日も、監視係には入っていないのだけれども。
だいぶ回復してきたように見えるので、明日は何処かのシフトに入ってもらおう。
当人も望むだろうし。
「シャワールーム、か。アリスはどうして、あんな何も無い狭いところを怖がるんだろうな?」
一人でシャワーを浴びるのは嫌がって、昨日はフレイヤ。今もニケを連れて行っている。
「まぁ二人で入ってもなお、余裕はあったぞ。言う程狭いわけでもない。シャワーを浴びるだけの部屋としては広すぎるくらいだ」
ただのシャワー室なんだけど、結構広い。
男二人となるとちょっとアレだけど、一緒に入るのが亜里須とフレイヤなら余裕だろう。
そして今日はニケと一緒、ただ同じく背は低いけど、ニケはおっぱいが……。
「まぁ湯浴みで洗髪の際に後ろから、――ブスリ。などと言うことは貴族社会ではありがちではある。なにしろ、アリスはどうしても毎日髪を洗うというのだから、警戒するに越したことは無い」
……ありがちなのか、それ。中学生の見た目なんだからお化けが怖い、とか言え。
そして髪は毎日洗おう。
まぁ、アイツは貴族じゃないし、ここも貴族のお屋敷ではないけど。
「お湯が潤沢に使えるなら、確かに髪は毎日洗いたくなるし、それに。あのシャンプーというヤツは確かにヤバいな。洗ってる間、完全に意識が髪の毛に持って行かれる」
「あれ程キレイに成るとあってはの。その後のトリートメントというのがまた不味い。儂の髪が、これほど手触り良く艶やかになるとは驚いた。そう思えば洗っている間は、儂でさえ。周りに気を使うことは忘れるわ」
うん、理由は絶対違うと思う。
アイツは人が嫌いとか言いながら、実は一人だと寂しくて怖いんだ。
いまや、誰も居ない灰色の世界だし。
トイレはさすがに一人だけど、シャワーはいやなんだろうな。
もちろん元の世界なら、お風呂や部屋に居るときは一人だろうけど。
ランドでは基本的にお風呂も寝るときも、誰かが必ずそばに居たからな。
誰も居ない環境を忘れちゃった、みたいな……?
「そのシャンプーとやらがまた、やたらに種類があるのだ。ババァはドラッグストア、という商店、みたか?」
「あぁ見た々々。そもそも売り場自体が男用と女用にわかれておったな。それに汚れを落とすのみならず、潤いだったり艶だったり色がついたり。ただ洗うと言うことばかりでなく、なんと、あとでアリスに聞いたら薄毛に効くものまであるそうだぞ」
「普通の石鹸も売っていたが、顔用と身体用が違うのだと言ったな?」
「外出の後、手を洗う専用の物まであったぞ。もはや風呂場がビンだらけになるのぉ」
「身体を洗うものだけでも結構な種類があったな。……シャワールームのアレはやたら身体がすうすうしたが、それはそれで気持ちが良かったのだ」
そのボディソープ、俺も使ったぞ。
男用のシャワールームにあったヤツなんだが……。
モリガンから話を聞いたアテネ―は、その【すうすうする石鹸】を使いたくて、今は男用シャワールームにいる。
お前ら。亜里須の言う“おっさんのニオイ”、ホントに気にならないんだな。
アテネーは初めて会った頃に亜人と人間では体臭が違う、とは確かに言っていたが。
「ほう。昨日儂が使ったものは、脂はなくなるのに肌が潤って、どうなっておるものかと思ったものだったが」
フレイヤもなんだかんだと、この世界を楽しんでる風ではある。
まぁ、一二五歳だが見た目は中学生。
気になるよな、ボディソープとか。
「なら、今日はそっちを使ってみよう。――なぁババァ、シャンプーはランドで作れるか?」
「まずは材料をアリスに聞かねばな。本当は髪のシャンプーが欲しいのだが、身体用のものなら。石鹸を溶かして分離しなければ、再現自体はデキるやも知れん。但し、かなり面倒な気がする。……手伝えよ?」
「当たり前だ。こんなに湯浴みが気持ちよくて楽しいなんて、生まれてこのかた、思ったことがない」
モリガンの普段はやたら風呂の時間が短い、というのは。お付きの巫女さんたちから聞いたことがある。
「シャンプーの入れ物も。頭、押しただけで出てきて便利なんだが、作れないか?」
「仕組みは良いが、さすがにあの材質は難しかろう。木製ではあっさり腐りそうであるしなぁ、……さて」
お前ら、監視カメラからシャンプーまで。手当たり次第に全部あっちで再現するつもりか……!
麹を増やして、マイタケも栽培しようとしてたな。そう言えば。





