チーター
俺、こと卯棟裕利はさる公立校に通う高校生である。
学校のレベルも高くは無いが、その中でも自分のレベルは自覚している。
残念なことではあるが、高い。とは口が裂けても言えない。
アニメやマンガなんかは、まぁ嗜む程度。読書が趣味だと一応言うけれど、読むのはもっぱら、いわゆるラノベとか言うヤツくらい。
そして自慢出来るくらいにゲームが好き。これはなにも、オンラインゲームに限った話では無い。
あとは少しだけPCやプログラミングに詳しいが、こっちは実際には自慢出来るほどでは無い、
【魔導帝国の興亡】。初めて大ハマりしたゲームだった。
その為にわざわざPCを更新して、VRモニターもゲーム機兼用から最高級品に買い換えた位だ。
俺と、俺の興した無課金と腕前を信条とするクランは常にランキング上位に居た。
だがそれを作ったゲームデザイナーを名乗る人は、どうやら人間としては問題がある人であったらしく、次回作から外されただけで無くゲーム会社も辞めてしまった。
【Advance of the Magical Empire~魔導帝国の興亡~(通称、興亡AdME)】は、そのゲームのバージョンアップ版だが当然の様に作る人は変わった。
のみならずそのゲームクリエイターが関わるようになってから、イベントの方向性や課金の考え方もまるで変わった。
設定は前作から約二〇年後。
当然前作からの引き継ぎはキャラクターの見た目以外、ほとんど出来なかった。
お金を払ったユーザーは、それでも息子や娘、と言う設定で半分くらいのステイタスを引き継いだのだが。
だから、と言うのは言い訳なんだろうけれど。
チートツールを作った俺は、いきなりランキング上位に躍り出た。
パーティーも組まず、クランも作らず。
たった一人でモンスターを狩り、帝国軍、法国軍の区別無く蹴散らした。
基本的には前作をベースに、課金アイテムや課金イベント周りを強化しただけ。
そして、AdMEで実装された武器や防具、スキルの類は“潜って”さえしまえばプログラム的にはいかにも稚拙な、誰でも、俺でさえも。
簡単に好き勝手に出来るようなものだった事も大きい。
だから“横浜の大学生”に来たメールも警告なのだ。何しろ課金アイテムやスキルには手を出していない。
本人や武器のステータスを大幅にレベルアップした様に、プログラム上“見せている”だけ。
俺は無印興亡では、無課金傭兵クランの頭領。
当然クランのなかでは戦績もトップである。
その俺が、〈見かけ上〉最強クラスの武器防具を持てば。
元のゲームシステムが変わっていない以上。
モンスターも対人戦も。特種イベントでない限り、どうとでもなるのだった。
向こうは侵入した“足跡”さえ見つけられない。問題になるわけが無い。
まぁ経緯はともかく、単純にお気に入りのおもちゃが無くなった事に対する八つ当たり、だったのかも知れないけど。
いずれにしろ。元貧乏クランのリーダーでエースプレイヤー、それなりに有名だった“ラビットビル”は今や運営からは半お尋ね者の扱い。
何故“半”のままでアカウントが止まらないかと言えば、証拠がないから。
SNSのアカウントはさっきブロックされちゃったけどな。
「ちょっとおにい! またお母さん怒るから! 早く降りてきて!」
「今行くってば」