隈のある大巫女様
「……細かいところはまるで覚えてないんだ。さっきも言ったけど。どんな人達だったのかはもちろん、見た目さえ……。ユーリやメル姉が何を心配してるかは、良くわかってるけど。それでも」
……たぶん忘れている理由。
リオの最愛の家族、その人たちの亡くなる瞬間をリオが見てしまったからではないか。
メルカさんがそこまで言い切るなら、最期に立ち合ったのは確定なのかも。
それを思い出す、としたら。
為人だけでなく、その最期の瞬間まで込みの可能性が高い。
俺が思い付くくらいだ。
メルカさんなら当然、気にして心配する。と言うのは想像に難くない。
「うん。それでも、だよ。……頭の中にしまってあるなら思い出したい。どんな死に方をしたのかなんて、もちろんそんなの知りたくないけど……。でも。どんなお顔で、どんな人たちだったのか。真面目だったのか、面白い人だったのか。思い出したいんだ。そうでないと私は、どんなにえらい巫女様になっても、家族の為にお祈りどころか、悲しむことさえできないんだよ……」
「簡単に言っちゃって悪かった。もっともだと思う」
「良いの。――だって、忘れてた方が幸せなのかもって、実は私も思ってるもん。ユーリは悪くないよ。……私だってわかってるんだ、頭では」
「言う程、簡単な話でも無いだろ?」
「いつも通り、私が莫迦なだけなんだよ。――そう言えば、ユーリは妹さんが居たんだよね?」
「うん。ちょうど背格好も何も、お前みたいな感じだった」
「お兄様、かぁ。……実際に横にいたら、どんなだろ」
リオがそれ以上話を広げないのは、俺の妹が、灰色に飲まれていなくなってしまった。
それを知っているから。
……コイツの方が、俺より色々大人だよなぁ。
「……ところで、だ」
「ん? なぁに?」
「またしても目の下が真っ黒なんだが、お前、昨日まで何してた? ……しばらく休憩室で寝てろ、――亜里須の方は、カメラの設定弄りつつ俺が監視しとく」
「でも、フレイヤ様とモリガンさんは?」
「フレイヤたちは見えないんだから気にしても仕方ない。……壁はさんですぐ、そこにいるんだけどな」
「二人一組でって、ユーリが自分で……」
「監視組は基本、休憩でいいだろ。見えてんだしさ。――俺しかいないんだ、少し気を抜けよ大巫女様。……さっきのザブトン、二つに折って枕にすりゃいい。つかれてんのは見りゃわかる。とはいえ、何かあったらもちろんすぐ起こす。熟睡できるような状況でも無いけど、な」
「……その、見えてんだもんね?」
「そう言うこと。ほれ、今だって見えてるだろ? ――あと。外でなんかあったら、女の子の悲鳴が上がって蟲が湧く。そんなの、もう寝てる場合じゃねぇじゃん? だからそんときは、否応なしに叩き起こすよ。……とは言え、今は何も無い。少しで良いから、寝ろ」
「……ありがとう、じゃあそうする。 なんかあったら、起こしてね?」
「そうさせてくれ。俺一人じゃ、どうせ何もできない」
それからしばらく。
休憩室から控えめないびきが聞こえてきたので、起こさないように。そっと頭の向きを変えたりしながら。
とても久しぶりにキーボードを叩いた。
茶の間で昼寝をしていびきをかく里緒奈の、頭の位置を変えたりしながら。
父さんからもらった、少し古いノートパソコンでプログラムを弄っていた。
そんなことを思い出した。
さっきから思い出すのは里緒奈のことばかり。
【スキル;シスコン】。付いて当然なのかもな、俺。





