あんこがお気に入り
「ユーリ、アリス達が写ってるよ」
「あぁ、予定通りではある」
亜里須達が出ていって、残ったメンバーは湯飲みを手に事務所へと移動する。
壁に並んだたくさんのモニター。
順番にセーラー服とジャージの一団が映っては、画面の端に消える。
やたらに解像度が高い。
ニケやアテネ―はともかく、亜里須の顔まではっきり認識できる。
「自動追尾の設定があることになってるけど、どうするんだろ。……これかな?」
「天井から見てんの? これ。……あ、こっちは横からなんだね」
スマホで扱えるツールだけで簡単にシステムには入れた。
俺だって一応、ハッカーの端くれなのである。
自分でも忘れてたよ、そんな設定。
そんなわけで管理者権限までは頂いたけど、あんまり関係は無い。
だって、実際の操作方法は別だもん。
インターフェイスをわざと使いにくく作ろう、とする人はもちろん居ないだろうけれど。
できることがあり過ぎて、使い方がわかんねぇ。
【共用部1F中央通路東】
と名前のついたカメラは、亜里須たちを追いかける設定になったようだけど。
その他の通路や各店舗内、となると。
【共用部メインエントランス3】
、【東テナントA】
【西テナント1-2】
【メインテナント24】
みたいな名前の付いたカメラが複数、どころかモニターの数十倍あるのは確認出来た。
でも、あるのがわかっただけで。それ以上はよくわからん。
データもどこかに保管してるはずで、その流れだけは管理者権限で見えてる。
亜里須の顔がばっちり認識できるくらいだ。
俺たちの分のデータは全員分、消さないといけない。
使う人用の簡易説明書があるはず、まずはそれを探さなくっちゃ。
だってこのカメラ、使うのは警備員さん達で、情報の専門家じゃ無い。
だからそういうものは必ずあるはず。
カメラが自由に使えないと、この部屋に籠もった意味が半分以上、無くなるからな。
「なるほど、監視か。これほど効率の良いやり方も無いな」
「これは凄いものよな。アテネ―の顔まではっきりわかる」
異世界基準だとアテネ―の方が亜里須より地味なんだろうか。
まぁ暗殺者なので、普段から精神的なフィルターを展開してるのかも。
巫女さんたちに急に人気が出たのも、魔導が使えない時期だったなそういえば。
カメラに認知疎外系の魔導は無効だろうし。
「ババァの魔導で再現できんのか? 大神殿の警備を1/3にできるぞ」
報告も帝国も関係なしに、重要な施設の出入り口の監視。
これに、経験値や能力を頼りに、結構強力な騎士や魔導士を割いているのが現状。
要らなくなれば上級の魔導師や騎士たちを他に仕事に回せる。
法王も経費的に助かるだろうけど。
「魔導士では維持すら無理だな。 遠隔視 と 幻想表示 の魔導が使えれば似たことは出来なくも無いが、魔導供給役も含め、魔道師が一か所で三人一組、一体何人必要になろうかの」
……かえって金がかかりそうだった。
「でもババァなら、一人で一〇ヶ所くらい見れるんじゃないか?」
ポットをぶら下げたモリガンと、急須とお茶菓子をお盆に載せたフレイヤが席に着き、お茶を啜りながら何気なく話しているが。
「莫迦をいうでないわ。余人が見られる形にするなら三ヶ所でもギリギリ。それが昼夜問わず四六時中。となったら、専用に魔道具を用意しても、一ヶ所が限界であろうよ。――うん、このあんこというヤツ、旨いの」
スマホが生きているので、あんこの作り方を探してフレイヤに伝える。
フレイヤにその辺にあったコピー用紙とボールペンを渡し、使い方を教えると、俺の言うレシピを書き留めていく。
こうして見ると、わりと簡単に作れそうだなあんこ。
材料が揃えば、だけど。





