ベース構築
【テクパ・モール従業員/関係業者入口】、の看板に従って建物を大きく迂回していく。
シャッターの降りた、トラックがそのまま入れるような大きな入り口の隣。
鉄製で建物の中で、そこだけ無愛想に見えるドア。【解錠】のランプが付いたままのそこをくぐって、建物の中へ。
受付窓口の台の上。名前を書くノートや端末がずらりと並ぶが、人気はない。
【搬入業者・工事業者入館口】
のプレートが示すとおりに進んでいく。
《定期搬入の方も必ず許可を受け、ゲートを通過して下さい。なお……》
自動アナウンスはそう言ったが。
許可をしてくれる人がいないので、無許可でゲートを通過した。
何も起こらなかった。
【スマートグランタワー管理ステーション/防災センター・テクパモール入退館管理事務所】
と入り口に書かれた部屋の中に入る。
大きな事務所のなか。
受付の窓、入館許可業者の名札、火災や通報と書かれたボタンやランプ。
【テクノパーク/誘導員】と背中に書かれたチョッキ、赤い誘導棒。
【S.G.T.営繕部】の文字が付いたヘルメット。
【防犯】と大きく書かれた腕章。
遠隔解錠装置とカギ束の入ったボックス。
ホワイトボードには搬入業者の名前トラックのナンバー、工事の予定場所や時間、内容がびっしり書いてある。
但し、日付は全部1週間前くらい。
ここに居たはずの、たくさんの警備員さん達は何処に行ったんだろう……。
「休憩室があるんだし、一旦休もうぜ」
事務室の奥に【休憩所】のプレートを見つけた。
引き戸を開けると結構広い畳の部屋。
「……こんなに事務所は近代的なのに、畳敷きなのね」
「靴を脱いで寝っ転がらないと、休憩した気にならないのかもな」
「なんだろう、落ち着くニオイ、草のニオイだ」
「ニケちゃん。たぶんこの部屋の床だ、これは、全部が全部、草で編んであるんだな。これはこれでデンシャとは方向性が違うが、精密な技術だ」
どうやらホンモノの畳が敷いてあるらしい。
休憩室なのに、結構お金かけてる。
「床だけ見ても凝った作りであるな。ここが皇帝の居室かや? マイロード」
ここに皇帝が住んでたら、それはそれでまわりが困るだろうな……。
「この草で編んだ床。何かしら風情があるな、主殿」
「これは畳。この国では、昔は標準だった家の床だ」
「かつての風俗、ということであるのか、……風情があって良い部屋だの」
ジャージに合わせて、俺のスニーカーのデザインをコピーした靴が並ぶ。
一足だけパンプスは亜里須。
「……リオちゃん、靴は脱いでね?」
「ふーん、靴は脱ぐんだ。……あれ? これ、なんか落ち着くねぇ」
……ある意味お前だけは、“覚えてる”可能性があるからな。
そう言う事言われると、ちょっとドキッとする。
家は母さんの趣味で、いわゆる洋風なリビングは無くて茶の間だった我が家。
里緒奈は晩飯のあと、よくテレビを見ながら寝っ転がっていたな。
――スカートで気軽に寝っ転がんじゃねぇ。青いの、見えてんぞ。
――えぇええ? 妹のパンツが良いの? おにぃ、実は変態?
――うるせ、とりあえずパンツしまえ。まくれて、ケツが見えてんだよ!
――ふふーん、見せてあげても良いよぉ、ここから有料だけど。
――アホか。金が取れるかどうか、玄関で姿見、見てこい。
――おにぃだったらモテないし、生パンツだし。お金、払うと思ったのになぁ。
外では優等生の良い子ちゃんだったが、家の中ではこんな感じだった。
もしも付き合うヤツができたら、ソイツは大変だろうな、なんて思ったりしたもんだったが。
「ユーリ。……どうかした?」
その里緒奈と同じ顔が、心配そうに俺を覗き込んでくる。
「あ。いや、なんでもない」





