表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/470

理路整然とした言い訳

 ん? なんだろう。棚の向こうでガサゴソと。


「で。樺藤かばふじさん、何をなさっているので?」

「……チョコレートと、グミを。ちょっと」

「なぁ亜里須。基本的には泥棒だからな? 今の状態」

「……うん、ちょっとだけ」


 だから泥棒だ、っつってんだろ。

 現状、そこに意味があるかはおいといて。


「ちょっとだけ泥棒するって?」

「あ、……えぇと」


「まぁまぁ。多少は良いでは無いか、マイロード」

 フレイヤは基本、モラル的な事にはもの凄くキビシいお嬢様なんだが。

 ……なんで庇う?

 こっちも既にパンとスープ、唐揚げも食ってる。

 責める気は全然無くて、弄るくらいのつもりではあったんだが。


「貴族様的には良いのか? 泥棒」

「倫理的に良いとは言わんが、この世界の食べ物には賞味期限? と言うものが設定されておって、たといモリガンが大丈夫。と言っても、それを過ぎしものは口にはせぬが決まり。であるのだろう?」


「さっきのあれは、賞味期限とかじゃないけどな」

 ま、俺とフレイヤ以外は食っても大丈夫、とは確かにモリガンは言ったんだけど。

 さっきそれでも亜里須は止めてたな。

 温ケースの唐揚げ食うの。

 モリガンの見立てなら、亜里須は食えたわけだが。

 

「儂らに読めんとはいえ、口にするものの入れ物や包みには、それがもれなく書いてあるのよな?」

「まぁ、そうだな」


 賞味期限と消費期限は違う、とか。

 かなり日付は余裕を持って設定してある、とか。

 知識ではわかっていても、なかなか期限切れのものを口にするのは。

 少なくてもこの世界では抵抗がある。


「儂が見てもわかる。ここは本来、人の集まる場所だ。そうであろ? なのに誰も居ない」

 まぁ駅だからね、そしてそろそろお昼時。

 改札前のコンビニ、黙ってたって人は集まる。本当は。


「そしてここだ。いささか整いすぎているきらいはあるが、商店であろうことは言われずともわかる。なれば本来、儂らの食したものは、何某かの代価を支払わねばならぬ。当たり前ぞ、マイロードの言い分が正しいし、儂らは引き換えに渡すモノも無く、この世界の通貨など持ち合わせておる道理も無い。……だが」

「なんだ?」


「街にはあきなうものもとがめるものも、誰もおらんのだ。食い物を無駄にするのは、それは少々もったいないと思うてな」



 なかなか良い話にまとめたな。

 ……上着のポケットから、チョコの包み紙がはみ出してなかったら。の話だけど。

 甘い物、あんまり無いもんな。あの世界。


「で、フレイヤ。旨かったか? それ」

「え? ……あ! その、うん。……儂は一〇〇年以上生きておるが、生きていて良かった。と始めて思ったぞ」


 ……そんなにか!

 チョコバーが一〇〇年分の生活を凌駕しちゃったよ!




 ランドの文化程度は、一七世紀前後じゃ無いか? なんて前に亜里須と話していたが。

 その辺りだと。記憶が間違って無ければ、香辛料だけで無く砂糖もかなりの高級品。


 砂糖が取れることが分かってからのてん菜の大量作付けやら、サトウキビのプランテーションやらが始まるほどの重要物資。

 地域によっては薬みたいな扱いだったはず。


 現状の法国でも、サトウキビを栽培しようとしたが上手く行かず。

 てん菜は栽培しているが大した規模ではない。とはメルカさんから聞いた気がする。

 もう一つの大国、帝国は工業の国。嗜好品を栽培しているわけが無い。


 農業の盛んな法国ですら、砂糖については第三国からの輸入がメイン。

 つまり、甘いものは基本的にランドの人間から見ると貴重品なのである。


のちに払えるものならば、もちろん払う所存ではあるぞ」

 元貴族にして、現在でも法国では有数のお金持ち。フレイヤの言葉が終わると同時、他のメンバーも動き出した。

 ……フレイヤにタカる気マンマンか!


 飴やチョコに惹かれるのは、これは年頃の少女達としてはしょうがないのかも知れない。

 世界を問わず。女子はみんな甘い物、好きなんだな。



「……ゆうりくん。はい」

 そして亜里須が差し出すのは、あぁ。いつも買ってた“のど飴”。

 良く知ってんな、精霊に取られたのしか見てないと思うんだけど。

 一部店舗のみで販売、となってたけど。エキナカでも売ってたんだな。

 精霊に手持ちを取られて以来だから三ヶ月ぶりだ。


「……これで、ゆうりくんも共犯」

 亜里須が。――ニコ、っと笑う。

 うん、勝てねぇわ。

「……そうだな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ