理路整然とした言い訳
ん? なんだろう。棚の向こうでガサゴソと。
「で。樺藤さん、何をなさっているので?」
「……チョコレートと、グミを。ちょっと」
「なぁ亜里須。基本的には泥棒だからな? 今の状態」
「……うん、ちょっとだけ」
だから泥棒だ、っつってんだろ。
現状、そこに意味があるかはおいといて。
「ちょっとだけ泥棒するって?」
「あ、……えぇと」
「まぁまぁ。多少は良いでは無いか、マイロード」
フレイヤは基本、モラル的な事にはもの凄くキビシいお嬢様なんだが。
……なんで庇う?
こっちも既にパンとスープ、唐揚げも食ってる。
責める気は全然無くて、弄るくらいのつもりではあったんだが。
「貴族様的には良いのか? 泥棒」
「倫理的に良いとは言わんが、この世界の食べ物には賞味期限? と言うものが設定されておって、たといモリガンが大丈夫。と言っても、それを過ぎしものは口にはせぬが決まり。であるのだろう?」
「さっきのあれは、賞味期限とかじゃないけどな」
ま、俺とフレイヤ以外は食っても大丈夫、とは確かにモリガンは言ったんだけど。
さっきそれでも亜里須は止めてたな。
温ケースの唐揚げ食うの。
モリガンの見立てなら、亜里須は食えたわけだが。
「儂らに読めんとはいえ、口にするものの入れ物や包みには、それがもれなく書いてあるのよな?」
「まぁ、そうだな」
賞味期限と消費期限は違う、とか。
かなり日付は余裕を持って設定してある、とか。
知識ではわかっていても、なかなか期限切れのものを口にするのは。
少なくてもこの世界では抵抗がある。
「儂が見てもわかる。ここは本来、人の集まる場所だ。そうであろ? なのに誰も居ない」
まぁ駅だからね、そしてそろそろお昼時。
改札前のコンビニ、黙ってたって人は集まる。本当は。
「そしてここだ。いささか整いすぎているきらいはあるが、商店であろうことは言われずともわかる。なれば本来、儂らの食したものは、何某かの代価を支払わねばならぬ。当たり前ぞ、マイロードの言い分が正しいし、儂らは引き換えに渡すモノも無く、この世界の通貨など持ち合わせておる道理も無い。……だが」
「なんだ?」
「街には商うものも咎めるものも、誰もおらんのだ。食い物を無駄にするのは、それは少々もったいないと思うてな」
なかなか良い話にまとめたな。
……上着のポケットから、チョコの包み紙がはみ出してなかったら。の話だけど。
甘い物、あんまり無いもんな。あの世界。
「で、フレイヤ。旨かったか? それ」
「え? ……あ! その、うん。……儂は一〇〇年以上生きておるが、生きていて良かった。と始めて思ったぞ」
……そんなにか!
チョコバーが一〇〇年分の生活を凌駕しちゃったよ!
ランドの文化程度は、一七世紀前後じゃ無いか? なんて前に亜里須と話していたが。
その辺りだと。記憶が間違って無ければ、香辛料だけで無く砂糖もかなりの高級品。
砂糖が取れることが分かってからのてん菜の大量作付けやら、サトウキビのプランテーションやらが始まるほどの重要物資。
地域によっては薬みたいな扱いだったはず。
現状の法国でも、サトウキビを栽培しようとしたが上手く行かず。
てん菜は栽培しているが大した規模ではない。とはメルカさんから聞いた気がする。
もう一つの大国、帝国は工業の国。嗜好品を栽培しているわけが無い。
農業の盛んな法国ですら、砂糖については第三国からの輸入がメイン。
つまり、甘いものは基本的にランドの人間から見ると貴重品なのである。
「後に払えるものならば、もちろん払う所存ではあるぞ」
元貴族にして、現在でも法国では有数のお金持ち。フレイヤの言葉が終わると同時、他のメンバーも動き出した。
……フレイヤにタカる気マンマンか!
飴やチョコに惹かれるのは、これは年頃の少女達としてはしょうがないのかも知れない。
世界を問わず。女子はみんな甘い物、好きなんだな。
「……ゆうりくん。はい」
そして亜里須が差し出すのは、あぁ。いつも買ってた“のど飴”。
良く知ってんな、精霊に取られたのしか見てないと思うんだけど。
一部店舗のみで販売、となってたけど。エキナカでも売ってたんだな。
精霊に手持ちを取られて以来だから三ヶ月ぶりだ。
「……これで、ゆうりくんも共犯」
亜里須が。――ニコ、っと笑う。
うん、勝てねぇわ。
「……そうだな」





