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過酷すぎる光景

 しゃがみ込んだ亜里須の背中をさすってやる。

「あ、あり、が、……ど、うっ! うっぷ、ぐうえぇ……、うっ、はぁ、はぁ……」

「無理に見なくて良いし、我慢もしなくて良いから。……取りあえずでるもの全部出しちゃえ。――だから見んなっての。ほれ、少し落ち着け」


「うぅ、ぐず。えぇ、うぅ、……ゆうり、くん。ごべ、ひぐっ……。うぶ、おげぇ……、げは、うぇ、う、ごべんらひゃ、ひ、うぇ、ひっく……うぶぇ!」


「死体が平気とか、そう言うキャラじゃないだろ? 無理すんなってば。――謝る必要も泣く必要も無い。ほれハンカチだ。……まずは口、拭けよ」

 目の前の水飲み場。この状況下でも綺麗な水がこんこんと湧いて出ている。

 そこで濡らしたハンカチを亜里須に渡す。


「ごべん、らひゃい、……き、きたな、くて」

 亜里須のお陰で、俺は取り乱さないで済んだ。ホントのところは超ビビってるが。

「気にすんな。むしろなにも思わん方がどうかしてるぜ。――リオ?」

「うん……!」



 亜里須の背中をさすりながら、返事の聞こえた方に振り向く。

「リオ。――これは、帝国の奴隷狩りなのか? 法国領内、それも中央大神殿が近いんだろ?」

 歩いて10日、だったら早馬ならそれこそ2日かからず着くはずだ。法国中央に位置的にはかなり近い。


「近いんだけど、此所は良い道が無いんだよ。馬が使えない山越えで一〇日だけど、それは山歩きに慣れた人間が。って言う前提付」


「俺達じゃかなりかかりそうだな」

「本当は川まで馬をだしてもらおうと思ってたんだ」

「別にその辺をどうこう言うつもりは無い。案内役ナヴィはお前だ」



「その大きな川を2本渡る大回りのルートも、馬だってまる四日はかかる。その上常駐の戦士達は農繁期で引き上げる時期なはず……」

 もともと陸の孤島。そして防衛力が減ったところを見越して襲われた。

 そういう事であるらしい。 



 そして獣人は帝国においては奴隷である。

 ゲーム内の設定において長引く戦火は奴隷の数さえ減じさせていたはずだ。

 そして法国内の獣人達なら、黙って奴隷になるわけは無い。

 此所は帝国領でも奴隷の養殖場では無い、法国の獣人達の村なのだ。


 獣人対爬虫人ドラゴラム

 戦闘力の高い者同士が正面からぶつかれば、こうなるだろう。

 だがこの光景を見渡したリオは顔を曇らせ、そして。



「おかしい……」

 彼女は三度同じ台詞を口にした。

「なんだ?」


「多分、帝国の奴隷狩りが来たのは昨日の夜か今朝だと思う。でもドラゴラム……。リザードマンやクロコニアンの傷が、まだ新しいんだ」


「さっきのローブの女。……か?」

 ――掃除しておいた。彼女は確かにそう言った。掃除したのは奴隷狩りの後、村に残ったドラゴラムと言うことか。……でも、そうなら何の為に?


「……ゴメン。わかんない」

 リオがなにかを考え込んだその時。


 ――っ? 


 間違い無く死体の山の中に音が聞こえた。

「リオ、警戒を解くな! ……なにか居る。――あぁ、正面だ」

 こっちの戦力はリオ一人。生きのこったドラゴラムが居ると厄介だ。


「正面? 普通に小屋しかないけれど……」

「俺はこの耳で生きのこってきたんだ」


 魔法のエフェクト、近づくシルエット。そう言うもので敵や戦闘の接近を知るのはもちろん。

 全感覚投入型のゲームなら視覚の他、聴覚、嗅覚、触覚。状況によっては味覚まで。


 全てのイベントがプレーヤーを殺しに来る以上。

 感覚全てを動員して危機を察知しなければ、生きのこるのはおぼつかない。


 得意な分野は特殊なスキルだけでなく、五感にも反映される。

 ラビットビルだった俺は誰よりも早く敵に気がつける耳が自慢だったし、さっき亜里須はリオより先に、血の臭いを嗅ぎ付けた。


 俺達にはリオに頼る、以外の戦闘手段が何も無い。

 逃げるしか無いのだから、異常を早く察知出来るのは有効だ。



「間違い無い、……あの小屋の中だ。ばらけない方が良い。――亜里須、緊急事態だ。立てるか?」

「ユーリ、……見に行こう」

「リオ?」


「とにかく。アリスには悪いけど、今日はここで一晩過ごすしかない。わけのわかんないものがあるのは、それは不味いよ。安心して眠れない」

 そう言ってリオは、再度腰を落として槍を構えるとゆっくり前進。

 俺と、俺が肩を貸した亜里須がその後に続く。



「カギがかかってる……」

 獣人やドラゴラムなら一蹴りで破れそうなドアではあるが。

「亜里須、ヘアピンなんか持ってないか? 曲げちゃうんだけどさ」


 多少落ち着いたものの顔は青いまま、亜里須が白いビニールバッグをがさごそし始める

「ゆうりくん。カギ開け、とか。……出来る人?」


 お前、あんまり無造作にかき混ぜるとバッグの中身、見えるからな? 

 つうか、今。ピンクのパンティが。普通に見えてたんだけど……。

「……あった、はい」

「お、……おぉ」

 亜里須からヘアピンを受け取る。



 リアルの俺がヘアピン一本でカギを開けるなんて事が出来るか、と言われればそれは胸を張ってノー。

 でもやったことは無いが楽勝で開く。それは感覚でわかる。

 だって此所は大陸ランドのフェリシニア法国、そして俺は盗賊のカテゴリに★が付いている。


 つまり。理屈はともかく、この世界に居る限りその程度は普通に出来る。

 だから。――パチン。

「……ぉお、開い、た? 凄い……!」

 いとも簡単にヘアピン一本でカギは開いた。


 

「良し,良いぞ。……俺が開ける。リオ?」

「わかった。アリスは扉の横に……」

 扉の正面にリオが槍を構えて立ち、俺は扉を開ければ扉に身体が隠れる。そのさらに後ろに亜里須。

 ギィイイ。いかにも立て付けの悪い音を立てて扉が開き、俺と亜里須はそっと扉の隅から中をうかがう。



 その小さな小屋の中。獣人の少女の姿があった。


 黄色いショートの髪、そして頭の上には小ぶりな猫耳。

 床に力なく垂れ下がった、髪の毛と同じ色のフサフサで太く長い尻尾。

 髪と同じ色の毛皮で作られたチューブトップとパンツ。

 そして足首にも同じ素材で作られたもこもこした輪(ブレスレットに対してアンクレットと言うのだ、とあとで亜里須に聞いた)、それを巻いたサンダル履きの少女。


 年齢はリオや俺とそうは変わらないだろうその少女は。

 両手を持ち上げられて、その手をくさりに縛られて。

 ご丁寧に片足にも直径1m以上の鉄球をぶら下げられ。

 意識を失い、膝立ちでうなだれたまま。


 地面に打たれた杭にはりつけにされていた。


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