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色を失わないもの

 バスから降りて周りを見渡す。

 駅本体はもちろん、バスや車両、自転車など、色を失っていないものが結構ある。


「この辺は、わりと前のまんまなんだね」

「そこそこ“色”が残ってんな」


「わぁ、きれいだよ! あっちなんかピカピカしてる! ほらほらモリィ!」

「私としたことが月並みな感想ではあるが。美しいものだな、姉後」

「美しいものは美しいでいけないか? ひねくれ者も大変だな……」

「文字が次々に代わるのが興味深い。――マイロード、あれはなんと書いてあるのかや?」



 ……現在、一部電車の運休によりダイヤが大幅に乱れています 

 ……また鉄道施設内で障害の発生を確認、区間を限定し折り返し運転中です

 ……本線は暫定ダイヤで運行中です。ご利用時は次発予定をご確認ください

 ……快速電車は運転を見合わせています。ご了承ください

 ……現在、他社線で遅れ、運休が発生しています。乗り継ぎにご注意ください

 ……他社線への乗り入れは現在停止しています、行先にご注意ください


 そして。


 ……現在、無人運転車両のみの運行になっています。ご確認の上ご乗車ください



「亜里須、スマホの日付を見たか?」

「……朝なのはそうだけれど、日付? ――二カ月以上の大冒険、だったのに。たった三日……?」


 大冒険ってお前。なんか戻ってきて以来、語彙力ががっくり落ちてないか……?。

 それはさておき。


「で、三日たってもバスも電車も、動いてる。ということはだ」

「……ゆうりくんの考える、灰色になってないもの、の定義って。……もしかすると。人がかかわらずに、自立運転している、もの?」


 頷いてみせると、亜里須は周りをクルクル見渡す。


 バスは国が区と協力して、区間と乗る人を限定した上で乗車率を運行システムが判断、増便と行き先変更を自動でおこなう実験をしていたもの。

 そして電車も、一部の編成が人間の関与無しで緊急対応が出来るか。と言う運用実験をしていたはずだ。


 バスは他の路線が止まっているから大増便。それに走るためには車庫に戻っての補給も必要。

 電車はもっと大変で、走れる線路、使えるホームを割り出し、運行経路を見直し、ダイヤの組み替えまでやらないといけない。


 両方、大災害で運用する人間がいなくなる。という想定で、もちろん実際には使っていないけれどプログラムはされている、と何かで読んだ。



 駅前で、灰色にならずに駐車場に並んだ車やスクーターはレンタカー。

 麦わらのカゴをつけて原色で塗られた自転車は、あれはレンタバイクだろうな。

 貸し出し予約、施錠や解錠、現在位置の検出にAIや自動制御が絡んでる。


 人間は灰色になって消え失せ、人間が制御する電車やバスを含めた機械や施設も、オブジェになって動きを止めた。


 管理運用する人間が、誰もいなくなり。他の施設も動きを止めたから。

 だから最低限の移動手段を提供するため。バスも電車も災害モードに切り替わって運転してるんだろう。

 レンタバイクなんかは、普通に運用状態のままなのかも知れないけど。


 駅舎やビルも同じこと。

 管理する人間は常駐していなくてリモート監視。

 だから、リモート信号が途絶えたから。建物が緊急事態だと判断して、勝手に施錠して警備しているだろう。


 ……あのビルの中には本当に人はいなかったんだろうか。

 もしかしたら、――外は危ない。

 と“ビルに”判断されて、出られなくなっているのかもしれないが。



「多分、な。電車が半端なところで折り返し運転なのは、多分灰色になった電車がその先にいるからだ」

 その半端なところこそ目的地、なんだけどな。

 だから普通に都合が良い。


 でも、今や障害物になってしまっている電車本体と、そして中に乗っている人たちは。どうなったんだろう。

 いずれ、世田谷に行くなら。まずは駅に入ってみないといけないが。



「なぁ、亜里須」

「……えと、はい」

「お前も徒歩通だったよな? 家には戻らないけど、いいかな?」


 俺と同じく、亜里須も学校から徒歩圏内に家がある。

 家がどこだか知らないし、バスにも乗ったけれど。でもここからだって、一時間あれば家には付くはずだ。


「……おうちや、ママやパパがどうなってるか、なんて。……そんなの怖すぎて、確認したくない。……ムリ。帰れない、帰るの、……いや」

「おっけー。……なら、行こうぜ」


年内の投稿はここまでとします。

年明けは第二土曜から始められたら良いな

と思っております。

忘れないで待っていてもらえたら幸いです。


では良いお年を。

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