実は一番多芸多才
「おいババァ。これは、どう言うことなんだ?」
「ランドにごく細く、パスが繋がっておる感じだ。……! マイロード、もしやスキルが?」
俺がどうしてそれを聞いたのか、気がついたようだ。
「抜刀術も鑑定眼もダメだな、魔導も発動しない。亜里須はどうだ? 変身、出来そうか?」
「……指輪が、喋らない。普段からお話、出来てたのに」
「えーと、……普段から喋ってたの!? その指輪!!」
しかも喋るとすれば独逸語だったはずだが。――どうやってコミュニケーションとってた!?
「んー。……翻訳アプリ?」
ドイツ語だってわかってるんだから使え……、ねーよ!
ネットに繋がってなかったんだぞ!
スマホ本体だけじゃ翻訳できない。
「俺を誤魔化したってしょうがねぇだろ……」
“テキスト亜里須さん”の時はほぼ出なかった癖。
目立ちたくないから誤魔化す、こうやってウソで糊塗して出来る事を隠す。
これが癖になってるんだな。
ちょっとかわいい、と言う自覚はあったから。
だから普段から伊達眼鏡と本で顔だって隠してた。
……だから。普通に喋れてそこそこ社交性もあるのに、“コミュ障”なんて、厄介なスキルが付いちゃうんだよ!
「でも、……ドイツ語。喋れたの? お前!?」
「……うん。簡単な単語程度、だけど」
異世界語の辞書を作りながら、ドイツ語で指輪と会話してるとか。
なにリンガルなんだよお前は。非常識にも程がある。
美少女で空気も読めてアタマも良い。天は何物与えるんだよ。
天は二物を与えず、なんて。俺は一つももらってないが。
でもまぁ。天がいくらくれようが、なにも使えてなかったけどな……。
むしろコイツにとっては静かに、目立たず平々凡々と暮らすことこそが至高。
人と違う。というのは、それが人より優れているのだとしても。
亜里須には、かえって邪魔にしかならなかったのかも知れない。
「……スティックも変型しないし、変身も出来なさそう」
聞く前に既に色々試したらしい。
「ふむ、アリスのアレは一発逆転の切り札として、私も期待していたのだがな」
――うんうん。ニケも頷く。
この二人は一発逆転したのをその目で見てるからな。
「とにかく、だ。フレイヤとモリガンは、リオさんとともにアリス殿から絶対、目を離さないでくれ」
「承知した」
「あいわかった」
「私もなのね、りょーかい」
「ニケさんは私と一緒に意識して主殿につく。いいね?」
「おっけー!」
「スキルが無ければ二人共、自衛の手段が無い。みんな、周囲への警戒を一段あげてくれ」
……まぁ、見渡す限りの灰色の街。人の気配なんか皆無。
なにも、居ないんだけどね。





