表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/470

獣人の村

「ユーリ。なんか……。変だよ?」



 村の名前の看板。読めないが入り口、と書いてあるのはわかる。

 その辺は異世界とは言え、ゲーム世界。だいたいそんな感じだろうとは思う。

 日本語でふりがなが出ない分、直接判る。くらいのことなんだろうけど。

 しかしリオが言うのは、当然その看板では無く。



「確かに。……あれは、あからさまにおかしいわな」

 リオの感じた違和感の原因。

 本来は木で出来た柵が見えるはずの村の入り口。

 看板の先には、なにも見えず。

 霧がドーム状に、村の入り口があると思しき部分を覆っている。


 きっと霧は魔導で形作られたものだろうが、非戦闘時に天候操作なんて、そんな都合の良い魔法はなかったはずだ。


 戦闘で辛くも勝ち残って這々の体で生きのこっても。

 天気が土砂降りなら移動が遅くなり、そのまま体力を削られて帰れずに死亡。

 それが起こるのが魔導帝国の興亡、そしてその続編、AdMEの世界である。


「誰か、来る。の……?」

「……! 二人共、私から離れないでっ!」

 リオは腰を落として右手に担いでいた槍を構え、左手で俺達を制止して庇う。



 霧の中、揺らぐ黒いシルエットは、徐々に人の形になり、巨大な首狩り鎌を担いで灰色のローブを纏っている、と言うのがかろうじてわかるところまで進み出る。

 フードを目深にかぶっているので顔は見えない。


「くく……、掃除はしておいたわ。……あとは、うふ、ふふふ……。宜しく」

「……女?」


 台詞が終わった瞬間。コーン! と言う澄んだ音と共に強烈な青い光の柱が天に伸び、霧自体も真っ青になる。

 霧の中にはもう一人、居るか? 人のシルエットらしいモノが、一瞬浮かび上がって。光に飲まれて消える


 そしてその柱が女性を飲み込むと、唐突に細くなって不意に光が消え、次の瞬間にはもう目の前には何も無く、村を覆っていた霧さえ綺麗に晴れていた。

 もう村の入り口、木で出来た柵と門が見える。


「なんて強力で立上りの速い転移陣! 神殿の転移鏡並み!?」

「リオ、今のは短距離転移だ! 何処に飛んだか追えるか? 霧はどうなったっ!」

 転移陣で天候まで変わるなんて聞いた事が無い。

「……ごめん。両方、わかんない」


「りおちゃん、……知ってる、人?」

「……多分、知らない人だと思う」


「女……、だったが」

「声、聞こえたの? この距離で?」

 耳が良いくらいしか取り柄が無いんだよ……。


「いずれ、こうなった以上。リオの立場では、村に行かない。と言うわけにはいかないんだろ?」

 先頭に立ったリオは無言で頷く。


 法国で神職にあるものは、現代日本で言うところの役人であり、警察でもあり救急隊、軍人の指揮官でもある。

 そこは、見習いであろうとリオも巫女である以上変わらない。


「俺は両脇を見る、亜里須は後ろを警戒してくれ。人影があったら、それは敵の可能性が高い。もし何かあったら喋らなくても良い、何でも良いから教えろ」

「……うん」




「……? おかしい」

 リオが再度呟く。

 目の前にはAdME(このせかい)では一般的な村の入り口。

 そして木で出来た柵、門。

 俺の目で見た限り、特におかしなところは感じない。


「村の入り口に誰も居ない? そんなわけが……」

 俺にとってはいつもの光景、誰も居ない入り口から村に入るのは普通なのだが。

 けれどゲームと違って入り口には歩哨が立つのが当然、と言う事なんだろう。


「……ゆうり、くん」

【何かしら? イヤな臭いがする。失礼ながら獣人族の臭いなのだと思って居たのだけれども。だけど、りおちゃんが言うならば。あながち私の鼻もバカに出来ないのかも知れないわね。生臭いような、鉄のような。……血の臭い、かしら……】


「臭い……か。――リオ、亜里須が血の様な臭いがする。と言うんだが、なにか臭うか?」


「血の臭い? まさか……! アリス、私の左肩に手を置いて絶対離れないで。ユーリは、後ろの警戒を間違い無くお願い」

「……わかった。――亜里須、位置を変わろう」


 柵に設けられた門をくぐって直ぐ。おかしい。の原因は判明した。

「さっきの女、掃除したって。……まさか!」

「……こんな!」

「ひっ! むぐ、おぅぷっ……!」

 亜里須が口を両手で押さえる。


 獣人とドラゴラムの双方。まさに死体の山。

 むごたらしくいたましいさまをさして酸鼻、と言う言葉がある。

 言葉の成り立ちは教師に聞くまでもない。鼻をつく血とすえた肉の臭い。

 まさか、それを身体で理解するときが来るとは思わなかったが。


 当たり前だが戦闘となれば。矢を撃って、槍で突き、剣で切るのだ。

 ゲームではダメージを喰らえば、確かにエフェクトで出血はするけれど。

 でもそれだけ。



 倒した敵の死体は徐々に薄くなって消えるから。

 だから気にしないし、気になったこともない。

 でも、現実では死体が自然に消えたりはしない。

 ワイバーンだって消えないから燻製くんせいに出来た。当たり前だ。




 隣では亜里須が完全に真っ青な顔になり、しゃがみ込んで震えている。

「亜里須、大丈夫か!?」

「だ、だいじょ……お、ぶぼぉっ! おげっ……! げは、がっ、うばっ……」


 刀傷も、流れる血も、肉の色も、はみ出す内臓も……。

 全ては倒れた時そのままに転がっていた。

 ただの女子高生の亜里須が、平気でいられるはずが無い。


「亜里須、気にすんな。……無理しないで良い。――リオ、周りは!?」

「……生きてるものは居ない。みたい、だね」


 ……正直に言えば、俺だって平気では無いんだけれど。

 女の子の前だと、見栄が優先するんだな。

 自分のことなのに、初めて知ったよ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ