みんなわりと空気が読める Side : Magical Empire
「黒騎士に対抗できる高潔さなんて、誰に対しても求めること自体ムダだけどさ」
「あそこまで振り切れているなら、それはそれでいさぎ良いがな。――陛下から見ると、俺はだいぶスケベ根性があるように見えているか……」
イストリパドオアは肩をすくめつつ茶化すようにそう言うと、それ以上はなにも言わない。
一応は衆人環視下。
誰にも聞こえない、と言うのはわかった上でそこはわきまえてる。
社会常識なんかそもそも無い。指揮系のスキルは取ったことがない。
と言ってはいるが。
その気になったら、そこそこ人望を集めるんじゃないのかな。このおっさん。
実はリアルでの本業は経理らしくて、計算も速いし、予算の組立も的確。
三神将の下に着いている官吏達も、別にイストリパドオアへの恐怖だけで従ってるわけじゃ無い。
しかも中間管理職でもあるようで、わりと人を使うのが旨いのだ。
現状は彼が、国を統治する。と言う行為に興味が持てないだけで。
この世界なら、国家の運営なんかやらせたらそこそこ良い線、いきそうな気がする。
このバトルジャンキーのおっさんが優秀なのを肯定するのは、なんか気に喰わないけど。
「その辺で辞めといた方が良いんじゃない? 壁に耳あり、ってヤツだよ。イストリパドオア。障子はないけど」
「ふむ。障子担当のメアリー女史に是非会ってみたかったものだが」
うん。このおっさん、自分でアラフォーをカミングアウトしてるからね。
オヤジギャグの一つや二つは仕方が無い。
「なにしろ。盗聴マイクより魔導の方がタチが悪い、というのは同感だ」
一気に殺気が吹き上がる。
へぇ、気がついた。結構、細かいんだね
「バレた以上は、たった今、盗聴の魔導を切断すれば命までは取らんぞ? ここから先は自己責任だ」
彼はそう言って。ぐるりと周りを見渡すと、唐突に右手を上げる。
「警告はしたぞ?」
イストリパドオアが手刀を振るうと。
30m以上離れた場所に居る魔道士が 袈裟懸けに両断され。
――ドサ! ――ベチャ!
上下バラバラのタイミングで床へと落ちる。
「……気がついてたんだ」
「お前が教えてくれなければ、気がつかなかったさ」
「へ? ……ふ、二人共、なんの話してんの!?」
今のは、気がつかない方が普通だと思うよ。
――ザン閣下! 三神将では一番格下で、人物的には話しやすいザンに数人の衛士が駆け寄ろうとするが。
「騒ぐな。我ら三神将への謀反は、すなわち皇帝陛下へ剣を向けたに等しい。ただの反逆者をイストリパドオアさんが粛正したまでのこと。詳細は後で説明するが、今は問題は無いとだけ伝えろ。……仮にも皇宮につめる騎士が、間諜の処理程度で騒ぐなどと、矜持は無いのか!」
全く気が付いて居なかったはずのザンが、状況を自分なりにまとめて周囲を押さえにかかる。
頭良いだけでなくて空気も読めるな、コイツ。
リア充だったんじゃ無いのか? カテゴリ的に。
「も、申しわけありません!」
「りょ、……了解しました! ただちに伝えますっ!」
ただ自分で何がなんだかわかんなきゃ、人は動かせないよね。
出来るんだからここの後始末は私がつけよう。
「副長! 居るわね?」
「は、こちらに!」
「間もなく皇帝陛下も来られる。……至急片付けを」
「はは! ただちに!」





