案内役が寝てる間に
「……あの。ゆうり、くん?」
リオを膝枕した状態の亜里須から声がかかる。
「うん?」
【私は最近のゲームには疎いので。AdMEの世界観も寡聞にして知らないから。なのでこの際聞いておくのだけれど。この世界はなにとなにが戦っているの? 私達の“敵”、それはなに? どうして裕利くんを召喚したかったの?】
「俺がゲームの設定、世界観として理解していることくらいしか、教えられることは無いぞ」
――それで、良い。こくん、と亜里須が一つ頷く。
「……この世界は通称大地。設定的には二つの大きな勢力が覇権を争ってる」
――そして事情がない限りはプレイヤーは通常、どちらかの勢力に所属する。
小規模国家に所属したり、更には無所属で居られるとなれば、よほど腕に自信のあるものだけだ。
例えば俺、とか。
自慢みたいではあるけれど。実際に、こちらの知らないプレーヤーが名前を知ってる程度には有名だったのは本当である。
但しゲーム内でお金を得るために、帝国、法国の区別無く、プレイヤー達に仕事を斡旋するギルド。
どうやらその存在はこの世界には無いようだ。
仕事を斡旋してくれるはずのギルドが無いとすれば。
一匹オオカミの傭兵で、所属無で生きてくのは、かなり難しいだろうな。
俺が無所属かつ無職で居られたのも、ゲームのルール内ではエース級プレイヤー。
それにプラスして、設定やゲームシステムの穴をつつき廻るいかさま師。という属性であるからだ。
運営の関知しない第三勢力もいくつか有力なモノが勃興したが、結局は潰れていった。
もちろんイベントで登場する第三勢力には、一時的に参加する以外の事は出来ず、イベント終了後はまた元の勢力に戻るだけである。
「……二つの、国。なの?」
「そう。基本的に二つの大国が軍事衝突をする、と言うのがゲームの趣旨だ」
ラビットビルはかつて、その世界で傭兵稼業を営むことで名をあげた。
「リオが所属しているのは片方の大国、フェリシニア法典による神聖聖道王国、通称フェリシニア法国。主に人間のほか、獣人やエルフなんかの亜人が暮らす国だ」
――かつてラビットビルもこの国に所属し傭兵として生計を立てていた。
「格好から見てもリオは法国の巫女。なかなかなろうと思ってなれるもんじゃない。見習いとは言え、全国民からもの凄く尊敬される立場なんだ」
「エラい子、なのね……」
――その言い方はだいぶ意味が違って聞こえるぞ。
「とにかく。人間の他、獣人やエルフやらの亜人とか、蜘蛛女みたいな虫人、淫魔なんかの魔族が住む国。それがフェリシニア法国だ」
「そしてもう一方が“偉大なる皇帝による魔導帝国”。魔導皇帝が取り仕切る国だ。こちらも人間は居るが、その他ドラゴラムやアンフィビニアンが住んでいる」
「……ドラゴ、ラム?」
「簡単に言えば爬虫類の亜人。ドラゴンの血族を自称してる。その中でも、多少顔色がグレー系統に見えるのを除けば見た目は尻尾のある人間。これがダイノロイド」
――その他頭がトカゲで、いかにもな爬虫人間のリザードマンや、ワニがベースで顔の長いクロコニアン。蛇がベースだが見た目はそう見えない、女しか居ない種族ラミアなどが居る。
これらはほぼ全種族、尻尾が付いている。
「……もう、一つ。居たよね? ――あんび、……あれ?」
「ん? あぁ。アンフィビニアンは両生類の亜人。その中でもバトラクサはやっぱり顔色の悪い人にしか見えない。他にはアマガエルっぽいフロッギィやヒキガエルっぽいトードリアとかの、主にカエルの亜人だな。……あとイモリとかサンショウウオとかも、たまに居るかな」
こちらもバトラクサなら顔色が緑系統であることを除けば、見た目はそこまで人間と乖離してはいない。
生まれて数年間こそ水に住むのだが、ある程度の大きさになれば水辺を離れても問題ない。そして持久力はないものの異常なまで瞬発力と怪力を誇り、戦士としてはイメージに反して強力だ。
そしてフロッギィやトードリアも言う程カエルっぽくないのは、リザードマンやクロコニアンと同じ。
理知的で、力押しだけでなく戦略的に攻めてくる。と言うのはアンフィビニアンもドラゴラムと同じ。
まぁ見た目はともかく、プレイヤーキャラならば中身は人間だしね。
基本的には両生類だから、大人になると尻尾やエラは無くなる種族が多い。
「フェリシニア法国と魔導帝国、この二つの国が戦争、とまでは行かないが小競り合いを繰り返している。と言うのがAdMEの世界だ」
「ぅむう……」
【裕利くんはりおちゃんの国、フェリシニア法国から世界を救うために召喚されたと言う事?】
「俺だけじゃない、お前もそうなんだぜ? ――で、問題はそこだ。……アイツ、神はさっき、俺達を救世主だとそう言った。……ただ、昨日も言ったけどさ、ゲームの中では救世主なんて職業は存在しない」
【私達の職業は救世主。このカテゴライズが正しいと仮定して、私達はなにからなにを救うことを求められているのかしら? わざわざりおちゃんを“異世界”に飛ばしてまで王様が呼んだのだから、成すべき目的は絶対あるのよね?】
「その辺はわからん。リオも知らん様だし、だったらまずは呼び出した本人に合いに王都に向かう、と言うのは正解だろうな。法王に会ってみるべきだとおもう」
――どうせ今のところは何も出来ないし。戦闘力もないに等しい。
ラビットビルとしてこの場に居るならともかく、恥ずかしながら卯棟裕利としては、な。
戦闘になっても何も出来ない。政治力なんか高校生が持っているはずがないし、学校の成績を見れば、内政に口だしなんかして良いはずが無い。
日本円が使えるとしても手持ちは一、八四二円、亜里須と一度ご飯を食べたらお終い。影響力を発揮しようがない。
「リオを見ているとそう思えないけれど、法王が悪の親玉。って可能性だってある。先ずはあって確かめなきゃな」
ゲーム上では。タイトル通りにどちらかと言えば、法国側が悪役なわけだし。
王都まではあと一〇日程度あるらしいし、俺達にサバイバルの知識はない。
リオが居なければ亜里須と二人、強盗に襲われて身ぐるみ剥がされて死ぬか、道に迷って水も飲めずにのたれ死ぬか。そんな未来しか見えない。
既に一度、ワイバーンに喰われかかっている。
だいたいが。
法王に合うと言っても、王都までの道さえ知らない。
それに、いくらゲームの世界とは言え。わけのわからないヤツがお城に行って
「王様に会わせろ」
といきなり言ったところで会えるわけも無い。
どのみちリオに頼るより他、道は無い。
そのリオを見ると、まぶたがぴくぴくと動いた。
「ぁ、ゆうりくん……! え、――あ。んと、りおちゃん、……へいき?」
「あれ? 私、いつ寝ちゃったんだろ? ……えへ、二人共。なんかごめんね?」
「大丈夫か? その、なんだ。疲れてたり、とか。しないか?」
「ん? うーん。なんか身体、軽くなったような気がする。少し血の巡りが良くなったかなぁ。お昼寝、大事だね!」
血と、気の巡りを少し良くする。神を名乗るリオのもう一つの人格はそう言った。
……絶対昼寝のせいでは無いんだろうけれど、でも。
「本人がなんでもないなら、良いか。――黙っておこうぜ?」
「……うん」
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