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魔術工房

 中央大神殿、地下二階。

 以前からフレイヤの個人的な魔術工房として好きに使わせ、今もそのまま放ってあるのだ。とは法王からは聞いていたが。


「ほぉ? 我が君(マイロード)と、一緒におるのは……、ニケかや?」



 まるで大宴会場のような巨大な部屋の中心に、直径三m前後の魔方陣が青く輝き、中学生くらいのゴスロリチックな服を着た金髪の少女が、青い光を受けながらしゃがんで手をかざしていた。


「あのさ。その呼び方、……何とかなんねぇの?」

「なんともならん。儂はその呼び様こそが、ぬしとの関係性そのものだ。と思ってある故な。 ……それはさておき、何やら珍しい組合わせだのぉ」


 振り向きもせずにフレイヤが言うが。

 ……えーと、見えてんの?


「ん? そうでも無いと思うが」


 そんな風に良く言われるんだけど、実は俺がニケと一緒に居る時って結構多い。

 あの人と話をしたい。とか、アレを見てみたい。など結構お願いに来るからね。

 まぁ、アテネーやモリガンみたいに、やたら面倒くさい話を持ってくるわけでも無いし。


 だから、東に居た時はメルカさん。今は主に法王のところに一緒に行って。その後、二人で目的地に向かう。

 なんて言うのは、実は結構な頻度で有るのだけれど。


「変、かなぁ?」



 石工職人だけで無く、いつのまにか木工職人としても免許皆伝を頂きつつ、予定を三日以上前倒して謁見の間の床を張り終わったニケを連れ、地下へと来ていた。

 魔方陣起動まで。いずれすることがないから時間はまだ余ってる。



 ちなみに。お世話係の皆さんは、弟妹達シブリングスから亜里須担当のシエラちゃんと他二名が、当然ついてきたのだが。

 フレイヤの魔導工房に入ることが、宗教上の理由で出来ないのだそうで。

 地下二階へ降りる階段の前で待っている。


 特にシエラちゃんの普段は、信教の歴史や法典そのものを研究していて、教義については法国内でも三本の指に入る程の専門家。

 結構イタズラ好きで、信教がタブーとする場所にも面白そう。と言う理由で屁理屈をこねては、調査のためと言いつつ入っていくのだそうだ。


 その彼女が、入る口実を思い付かない部屋がここ。

 ……中央大神殿にあるのに、禁忌に触れる魔導の秘術が行使される工房。

 こないだ法王に剥奪されたけど、自分も神官の資格持ってたはずだったな。

 普段から何してたんだよ、コイツ。



「あのね。僕、フレイヤが何をしているのか。見せて貰いたかったんだ。だから、ユーリにお願いして連れてきてもらったんだけど。……邪魔になる?」

「いいや、気にせんでも良い。ここまで来れば儂もただ見ているだけ、誰でも良いくらいのものぞ。むしろ見ていてもつまらんと思うが。……ときにマイロード?」


 仕事着にしているゴスロリワンピースを着たフレイヤが、立ち上がって体ごとこちらを向く。


「なんだ?」

「前に言っていた超空間ストレージ、何かヒントを思い付いたのであろ?」

 メモリーカードのことはなにも言ってないんだけど、なんで気がつくかな。


「うん? そこは気にすることも無い。……顔に書いてある、と言うヤツであるよ」

 書いてあったとして。今までこっち、見てねぇだろ……。


「あぁ、そうだ。情報をしまっておくアイテムを持っていたのを忘れてたんだ、スマホと同系統のモノだけど。――どう見える?」

「ふむ。……情報を、のぉ」

「本にすれば二万冊ぐらい入るはずだけれど、どうかな? ……直接でなくても、超空間ストレージの材料とかに使えないだろうか」


 メモリーカードをポケットから取りだしてフレイヤに渡す。


「二万冊……、こんな小さなものにか? ――しかし確かに異様なまでの魔力の保存量は感じる。情報を、と言ったな?」

 フレイヤはメモリーカードを摘まんで、目の前に持ってくる。


「……うーむ。物質の持つ要素を情報と捉え、各情報の種類ごとに解体、これを魔導の要素に変換し再構成、その上で魔導の因子ごとにさらに分解、魔導力そのものとみなして集積、配置し直して格納する、か。出来るとしたら確かに、本の五千や一万はモノの数では無かろうが。……しかし。理屈は理屈として、出来るかや? そんなことが」


 文字や写真のデータを文字列に変換、最終的には0と1のデータとして保存する。

 多少の齟齬はあるけど考え方はそう。


 若干、話が飛躍する気はするけれど。ここがゲームの世界だというなら、世の中の全てはデータで出来ている。

 ならば、収納だって出来るだろう。と言う、元の世界に持って行けるか、も含めて。いかにもご都合主義の思いつきなんだが。

 


 なにも言わなくてもフレイヤは。メモリーカードを見ただけでそこまで一気に考えが及んでしまったらしい。

 基本的な考え方は間違って無かったようだけど。


 但し。目の前の荷物を簡単に0と1に分解するって訳には行かないだろう。

 でもそれは、――元の世界の常識ならそうだ、と言う話。


 目の前に居る金髪のゴスロリ少女。

 彼女は、非常識な魔法という概念を操り、超時空転移陣さえ作り出す、まさに不条理の塊。何とかなるかも知れない。


 まぁ、ダメならみんなで水を入れた革袋を背負うだけ、なんだけれどな。

 当然、砂漠や乾燥地帯の旅に使う為の背負い式革袋。なんてものもあるんだから。



「な? これさ。……どうにか、なりそうか?」

「全く、二〇年前からぬしが口を開けば無茶ばかりよな。これはもはや、魔道師では無く錬金術師の仕事であろうよ。――まぁ理屈をこねて組み立てるのがヤツらの本文。こうして現物が目の前にある以上は、魔道師であっても何とかなる。かの……。今は手が離せん故、明日以降にも考えてはみようが。期待はせんでくれよ?」


 フレイヤは。――明日の午後にでもモリガンを呼んでくれるかや? マイロード。そう言いながら受け取ったメモリーカードを、傍らにあった机の上に置くと元の姿勢に戻る。


「モリガンを?」

「アレの知識が是非にも必要となるだろうからな。法国内で、モリガンよりも物を知るものを儂は知らん。アレの広範で深遠なるな知識は、半端な錬金術師などより数倍、有用であるよ」


 単純に仲が悪い、ってわけじゃないのな。お前ら。


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